Did you see the light?

この一年の間に起こった良いこと、悪いことなど、いろんなことが思い起こされる、12月も半ばを過ぎて、文科省のサイトで次の資料が「公表」されました。

平成27年度英語教育改善のための英語力調査事業報告
http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1377767.htm

過去ログの、ここで「速報版」について論評を加えています。

空の上はいつも青空(当たり前)
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20160325

これが平成27年度(2015年度)末の3月末の発表でした。
それから、この2016年の12月までの間、8ヶ月以上も文科省は何を精査し、明らかにする情報と、そうではない情報との峻別を図っていたのだろうか、と訝しくなるほど、遅きに失した情報の公開です。

私が「遅きに失した」というのは、もう既に、新指導要領での英語教育の動き、科目の再編、教育課程編成の方がメディアにはリークされ、ここで発表されたことは、誰も検証しないまま、「既定路線」のように、「改革」は進んでいるからです。

例えば、全国規模の商業誌である『英語教育』(大修館書店)では、2007年1月号の第2特集は、

  • 「次期学習指導要領に向けて、あらためてCan-do を考える」

というものです。

ちょっと待って下さい。
「次期学習指導要領」って、まだ正式には何も決まっていないんですよ。
その決まっていないことをあれこれ「忖度」して、先取り対応などをする前に、「中教審」、その下部組織の「作業部会(WG)」での審議内容や、提言、答申、「たたき台」を精査吟味し、広く世論に問うのが、この類いの雑誌の存在意義だと思うのですが、既に編集部にはそのような気概を持った人はいないようで、「御用」の性格が側面どころか、前面に出てきています。

「たたき台」に対しての「パブリックコメント」で私は次のように書いています。新聞やTVの「教育担当記者」や「論説委員」の発言や論評と比較して下さい。右だの左だの、といったイデオロギーではなく、「言語教育」の原理原則に則って、「適否」を議論するべきだろうと思っています。

http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20161002

さて、
今回の文科省の調査結果「報告」に関して、数多あるツッコミどころのうち、「書くこと」とその関連領域に関してのみ、言及し、問題点を指摘します。


まずビックリしたのが、文科省のtwitter アカウントでのこの呟き。

平成27年度英語教育改善のための英語力調査事業報告を掲載しました。高等学校での「書くこと」の得点者は,全体の約82%とH26年度に比べ約12ポイント以上増加し改善が見られました。中学校では,全体の85%以上でした。
https://twitter.com/mextjapan/status/809685937953251328

このブログでも、呟きでも、何度も指摘していますが、

「改善」というけれど、「絵も写真も文字のヒントもない聞き取り要約」→「お題作文」という前年のものから、「お題作文」→「聞き取り要約」へと単純に解答順を逆にしたことで、解答者の「諦め」「虚無感」「絶望感」が減ったからでは? 同じテストと言えるの? そういう分析はしているのかしら?
https://twitter.com/tmrowing/status/809855372248825856

この2014年、2015年の2回のテストを本当に、同じテストとして扱っていいのか?受験者の立場、心理的、認知的負担を考え合わせて欲しいものです。

過去2年に渡るフィージビリティ調査のフィージビリティに対する疑義に関しては、面倒でも冒頭で示した過去ログを一度はお読み下さい。

空の上はいつも青空(当たり前)
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20160325

今年の「四月馬鹿」の日には、こんなエントリーも書いています。

英語力フィージビリティ調査のフィージビリティ検証に着手
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20160401

いくら「四月馬鹿」の企画だからと言って、何をバカなことを!とお叱りを受けるかも知れませんが、このエントリーの中で、大事な提言を一つしていますので再録します。

「調査に用いられた問題の難易度と内容が、受験者の英語力の実態と乖離していたのではないか」という有識者からの指摘がくり返しなされていた「書くこと」の領域では、大幅な刷新が見込まれているようです。
以下、現時点で想定されている、「書くこと」の出題形式・構成・内容です。
「話すこと」と同様に、「書くこと」も各学校で1クラス分に当たる生徒を抽出して実施する。
設問は、次の4つの小問で構成される。

  • 1.イラスト、写真、4コマ漫画などの資料に基づき、英文の空所を補充する形で物語文を完成する課題
  • 2.質問形式で課題が与えられ、賛否や問題解決など個人の意見を述べる課題
  • 3.約100語の英文の読み取りに基づく30語程度の要約課題
  • 4.約50語の英文の聞き取りに基づく15語程度の要約課題

「書くこと」の設問は僅かに2題しかありません。「音読」という課題を取り入れることでA1層2相当すると思われる受験者を拾うことを狙った「話すこと」と比べても、段階的な測定が難しい構成となっています。

2016英語力調査問題構成.jpg 直
聞くことは36問.jpg 直
書くことは2問 話すことは6問.jpg 直

「書くこと」の2問のうち、「聞き取り要約」は、「聞いて理解できる」ことが前提ですから、「聞く」能力に依存しているのは明らかです。

ところが、「聞くこと」そのもののテストの設問には、それぞれ絵や事前の質問で既に内容理解のヒントが与えられているのに対し、「聞き取り要約」ではノーヒントなのです。本当ですよ。
「聞くこと」、では、

高3聞くこと その1.jpg 直
高3聞くこと その2.jpg 直

しかも、「聞くこと」の設問は複数の問題で構成され、その全てが多肢選択での解答です。
CEFRの能力指標でA2から測定できるように設計されている、といわれたときに、「なるほど」と思えるテスト設計です。

肝心の、「書くこと」では、何を測定しようとしているのか、というと、

高3書くこと その1.jpg 直
高3書くこと その2.jpg 直

だそうです。

なぜ、「直接測定」の書くことでは「段階的」に設問を課さないのでしょうか?「2カ年の比較をする」というお題目を掲げたがために、初年度のテスト設計のミスを改めるチャンスをむざむざ捨ててしまったように思えてなりません。

次に大きな問題だなと思う点は、出題される「英語そのもの」、「質」に関わるものです。

語彙レベル
トピックとジャンル
つながりとまとまりなどの話型(話形)

の観点で英文を精査したとき、「聞き取り要約」は、2カ年ともに、語彙レベルを低く保つ反面、奇妙な話し、内容スキーマを簡単には類推出来ないようなテクスト構成を取っています。

私は、Cambridgeの EVP を採用した、Text Inspector を普段の教材研究や試験作成、勤務校の入学試験(高校入試)の作成の際にも活用していますが、その語彙レベル判定をみてみましょう。

出題は、

1.「聞くこと」のセクションから、聞き取りによる内容理解のスクリプト
2.「書くこと」のセクションから、聞き取り要約のスクリプト
3.「話すこと」のセクションから、音読で用いる素材文

です。以下の4つの短い文章を、それぞれ、1〜3のどの出題で用いられたものか、当てて下さい。

a.

Some air pollution has natural causes, like windstorms and volcanoes, but most is the result of human activity. A blanket of dirty air covers most cities of the world. It mainly comes from cars and trucks and from factories that burn coal. The polluted air makes people sick, and it's especially bad for young children and aged people. Is this why countries are making rules to reduce air pollution? (69 words)

b.

Some people associate bats with frightening things, such as Halloween and scary movies. However, they are actually helpful creatures. Bats, in a similar way to bees, help flowers breed, so some people are happy to have them live near their homes.
Also, the sounds of hunting bats can be heard by many insects that are harmful to gardens, which then avoid the area. Another reason people welcome bats into their gardens is that bats eat insects that carry diseases deadly to humans, like mosquitoes. In fact, research reveals a single bat can eat more than 600 mosquitoes in an hour! (100 words)

c.

Although the human population on Earth's increasing, the number of languages spoken is decreasing. One language disappears every two weeks. Sometimes even natural disasters cause language loss. For example, in Pakistan, an Asian country, the world's entire population of Domaki language speakers lived in Shishkat, a remote mountain village by a river. In 2010, land fell from a nearby mountain and blocked the river. This caused a flood that destroyed the village. All the village people were forced to move to whatever housing was available. With the few remaining Domaki speakers living separately, their language is likely to die out. (100 words)

d.

Many farms just sell one thing. But have you ever heard of a pizza farm? A pizza farm is a farm that grows everything that is needed to make pizzas, such as tomatoes and onions. Pizza farms also make cheese. It is easy and useful to be able to quickly buy everything that you need to make a pizza in one place.
But do you know an interesting thing about pizza farms? Pizza farms are in the shape of a pizza! If you look down on a pizza farm from a plane, you will see that the farm does not have four straight sides like a box, but is round like a pizza. And each field on the farm has only three sides, almost like a triangle. Each field is like a piece of the pizza. Something different grows in each field. Yes, it's amazing! Pizza farms are in the form of a pizza! (154 words)


如何でしょうか?
長いから難しい、短いから易しい、ということが一概には言えないことは直ぐに分かりますが、「つながり」「まとまり」の濃淡、適否については、やはり「目利き」に聞くのが一番だろうと思うのです。

答えは、文科省サイトで公表されている資料を精査するか、日を改めて書くことになるであろう、続編をお読み下さい。

本日はこの辺で。


本日のBGM: Hello, it’s me (黒沢健一)