「不確かな日々の希望」

tmrowing2016-06-16

教科書の検定や採択に関わる教科書会社の不祥事(白表紙と金銭等見返りの授受の問題)が引き金になっているのか、採用を決めるための見本本供給が1校1冊で、取り扱いが厳重になっている模様。
英語科の専任教諭だけでも複数人いるというのに、この状況では、まともに「英文」を読んでいる 時間的余裕 はないだろうと思う。不幸な現実だ。
教科書検定が機能していないのだろうか?という思いは、前回の「学習指導要領」改訂に伴う現行の教科書を見た時にもあったのだが、今回、「英語表現」の改訂版や新刊を見て、その思いを一層強くした。

30年前の『英文法の準教科書』とどこが違うのか?
20年前の「英語II C」の教科書と比べて、何が優れているのか?
10年前の「ライティング」の教科書の何を、どのように超えたのか?

現行本の英語表現での採択が異様に多かったVision Quest (啓林館)が、文法シラバスへの回帰の先鞭をつけたということなのだろうが、それを「英語表現」の教科書として現場が歓迎しているとすれば、そこに英語教育の明日はないだろう。

以下、オンラインでもオフラインでも再三再四言っていることだが、繰り返しておく。

学習指導要領の法的拘束力を無くすこと。
「ライティング」「リーディング」「オーラルコミュニケーション」を廃止し、技能統合を謳いながら、「英語会話」と「英語表現」という羊頭狗肉な科目を設定している現行の学習指導要領は改悪である。
学習指導要領の内容と逆行するかのような文法シラバス回帰の教科書が教科書検定を通っているのは、よくて茶番、普通に考えれば矛盾。
高校現場は、学習指導要領の改訂内容には異議を唱えず、その趣旨に逆行するかのような教科書を歓迎しているという為体を猛省すべき。

このブログでも、以前「『教科書』はどこへ行った?」というエントリーで教科書についてあれこれ書いていた。

『教科書』はどこへ行った?
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20051218

『教科書』はどこへ行った?(その2)
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20080126

『教科書』はどこへ行った?(その3)
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20080627

私の理想の教科書
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150306


新しい時代を拓く教科書は本当にそれに見合った資質を兼ね備えているのだろうか?
その拓かれた新たな地平には夢(ファンタジー)の片鱗くらいはあるのだろうか?

研究社の教科書 "New Age" は随分と前に、高校の教科書から撤退した。
「グローバル」を叫ぶ声が大きくなるのとは対照的に、旺文社の教科書は "Planet Blue" で幕を閉じた。
中学校では依然として意気軒高だが、高校の教科書では、もはや「地平線」も「水平線」も姿を消している。
詩や文学の香りを残していた数少ない教科書、文英堂の "Unicorn" も、その名を残すのみである。

市販教材のトンデモ本が市場で淘汰されないのだから、現場で教員が採択する教科書でも同じことなのか?
時間との戦いではあるが、「良書」を見つけて、その良さを知らしめたい。心ある、志しある教師の目に届き、心に響くことを願うのみ。

ということで、いつものように、古い本からその一部を紹介しておく。
良いものが目の前にあっても、その良さに気づかない「後の祭り」の典型、見本と言えるかもしれない。

  • Enjoy English Writing Teacher’s Manual (教育出版)

「ライティング」ではなく、「英語II C」 の時代の教科書指導書の写しである。
著者代表は金子稔氏。

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本日のエントリー冒頭の写真が表紙です。
金子稔Writing表紙.jpg 直

この課のねらい。「副詞節」の知識と運用力。

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モデルパラグラフ。メッセージも感じられます。

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文法解説のための例文。

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ドリル1では「マッチング」も多用されています。

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ドリル2は「整序」「空所補充」による文完成。

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エクササイズは「和文英訳」の形式。

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それら全てを経ての「暗誦用例文」の提示。
例文の一つ一つが響いてきます。

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この「はしがき」の金子氏のことばはずっと私の胸に刻んであります。

金子稔Writingはしがき.jpg 直

本日のBGM: 一角獣と新しいホライズン (山田稔明)