「僕は誰が素敵な奴かを知っている」

tmrowing2016-06-15

先週末、関西英語教育学会 (KELES) の大会で大阪に行っていました。
お目当てのプログラムが幾つかあり、ほぼ目的は達したのですが、その中から少しだけ備忘録として。

初日の最初が、奥住桂先生の「ワークショップ」。

  • 「中学英語教科書のアクティビティーを考えるー教科書の役割、教師の役割―」

中学校の教科書の「活動」に何を求めるのか? という根源的な問い。
奥住先生ご自身が、『英語ラボ』などの教材開発に関わったことで得た知見も話されていました。

本文はなぜ対話ばかり(しかも読ませてばかり)なのか?
リスニングは「絵」「写真」に基づくものばかり?簡単すぎないか?
活動だけで成立する「課」があってもいいではないか?(「音だけが提示される課があってもいいのでは?」というのは昔から奥住先生が言っていたことでした)
本文と活動とのつながりが希薄ではないか?
「活動の場面設定のもっともらしさ」が逆に足かせになっていないか?
潔く「パタンプラクティス」に徹した活動があってもいいのでは?
TBLT的な教科書は可能なのか?
今後、教科書が変わっていくとするとそのゴールは?

というような問いが投げ掛けられ、フロアでも意見交換しながら進みました。英米など海外の出版社から出ている『コースブック』との比較もあり。

「まずは学習指導要領をCan-do で示す方向で変わらないと」というメッセージもありましたが、教科書検定制度と広域採択制度の存在も忘れてはならないでしょう。中学校教科書の点数の少なさと、一つの教科書に関わる著作者の人数の多さは、高等学校の検定教科書と比べた場合に「異様」な感じがします。

私が終始考えていたのは、

本文と活動の連動以上に、そこまで学んできた言語材料や言語技術のうちで何が自分に使えるのかの選択判断が問われる活動をどのように取り込んでいくのか?

その際の言語材料は、現行のようなその課で導入・練習した言語材料だけでは(足り)なくなると思うので、「お題」を与えてから活動に移るまでに「何にアクセスしておくと生徒が自分の力量に応じて取捨選択できるのか?」という、リソースの提示と、活動中、または活動後での「成功例と思しき発話」「模範例」の提示をどうするのか?

という部分でした。
前者は以前、浦野研先生のお話を聞いた時に痛感した「品質保証」に関連することでもありましたし、後者は1990年代の終わり頃にLeni Dam の実践を知って、自分の授業に取り入れようと模索してきた部分でもありました。


講演は、卯城祐司先生の「クリティカル・リーディングで迫る、深い英文の理解」。
たまたま、自分のいる列で足りない配布資料があったために、途中の課題を時間通りにこなせず残念でした。

数年前に、全国の発表で卯城先生からご指名を受けながら、当日がインターハイと重なるかもしれないということで、お断りしていた経緯があったので、アフタヌーンティーの場で、その詫びも兼ねてご挨拶に伺いました。「お手柔らかに頼むよ〜」と道産子のイントネーションで、私が『卯城本』に関連して、このブログで書いた記事や密林レビューのことにも触れられていました。


初日の最後には山岡大基先生のイブニングセミナー。

  • 「汎用的教材研究術」

会長の担当する講座の裏番組ということで、随分気にされていましたが、国語教育、さらには「教育学」そのものの視座を取り入れて、「教材研究」のありようを揺すぶる良い企画だったと思います。

ワークショップでの意見交換に先立って、「自分で発問・指示を作る」というお題が課されたのですが、これは面白かったです。「形式発問」というのは、以前、山岡先生にお願いして冊子を送ってもらっていましたが、あらためて考え、見えてきたことも多々ありました。

とりわけ、旧版の One World のBook 3 に収録されていた、Audrey Hepburn の伝記に基づく「発問づくり」は考えさせられました。
私が考えた発問は、

1. Have you ever seen her movies?
2. How successful was she as an actress?
3. How did her childhood experiences influence her later career?

などの他、

4. What did she mean by the words, “Giving is like living?”
5. What did she give to those around her?
6. What did she think was the most important thing in life?
7. What did she live by?
8. Looking back on your life so far, what do you think is your biggest “giving” to others?

というもの。この中では、4. が「形式」に着目した発問になるでしょうか。
引用符で囲まれた、Audrey Hepburn 自身のことばは、この文章ではここだけなので。
ここが上手く処理できると、冒頭での something more than these movies や、第6段落での her mission、そして最終段落の her devotionといったキーワードの読みを深められるかと。

最後の「表現の置換不能性」という件では、私自身が講師を務めた津田塾大でのセミナーを思いだしました。
その後、語学教育研究所の講座で私が発表した時にも同じことを話したのですが、その時には「置き換えられないことば」がピンと来ていなかったという山岡先生の中で、何かが芽生え、花開き、実を結んでいるのを見られたのは嬉しかったことの一つ。

津田塾セミナーの様子は、過去ログ参照。

ダンスはすんだ?
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20080806

語研の講習会の振り返りは山岡先生のブログで。

語研講習会の備忘録(後半)
http://angel.ap.teacup.com/amtrs/35.html

懇親会は設定されていなかったので、旧交を温める中堅&若手の会に一人年長者も混ぜてもらい、美味しい沖縄料理を堪能しました。お互いをSNSでは知っていても直接会うのは初めて、という方同士もいたりして、あれやこれや話に花が咲きました。私としてはとても実りのある楽しい夕餉、宴でした。ありがとうございます。

生憎の雨予報となった二日目の振り返りはまた日を改めて。

本日のBGM: 大阪へやってきた (友部正人 『ぼくの展覧会』より)