「ことがらはワニノクチ」はまだ序の口

tmrowing2016-05-17

中間試験がスタートしました。
連休明けの授業では、マインドセットが振り出しに戻って中学生になっている生徒を鼓舞したり、中には初めて迎えることになる複数日程での「定期試験」に対する心と身体の準備を説いたり、世界一亀の定義に習熟する高校生を目指したり、もどきの「エイブン」を指摘し改善したり…。

高1は、例年よりも早い「ワニの口」の導入と、例年より遅い「助動詞の番付表」の導入。
私の授業で「ワニの口」、または単に「ワニ」と読んでいるのは、一般に、名詞句や名詞節と呼ばれる(今「一般」と言ったけど、「普通の人」はそんな用語ではモノを考えていないだろうと思う。あくまでもメタ。)もの。で、今回は、所謂「動名詞」。本来、動詞として用いられていた意味内容を「コトガラ」として名詞化する工夫です。(「ワニ」の種類に関しては、後々取り扱うことになります。アリゲーターとかクロコダイルとか、ね。)

合言葉は「ウ○コ漏らすな、ゲ○吐くな」

今年度から、「意味順」教材を、文英堂のものに変えたので、初期段階から「名詞句」「名詞節」といった用語が出てきます。実感を伴うには工夫が必要です。

今回の中間試験に出す問題とは異なる、いささか極端な例ですが、

1. Football is fun.
2. Watching football is fun.
3. Playing football with my teammates is a lot of fun.

はそれぞれ、このような記号付けで整理されます。


ワニの口.jpg 直

あくまでも「名詞は四角化で視覚化」ですので、「ワニの口」の下顎から書き始めて、尻尾で反転し、上あごを書いて「ワニ」です。(今さらながら、このワニは左向きなんですよね。導入の小道具に、「ラコステ」のポロシャツを着ていったのですが、鏡を見て「よしっ!」と思ったのが失敗でした。ラコステのワニは、右向きなんです。)

この1−3の例で、1が分からない生徒は今の私のクラスにはいないと思いますが、2, 3が怪しい生徒はいると思います。

ダメワニ.jpg 直

例文2. で、主語が footballだと思い、動名詞のwatchingを考えない状態が「ゲ○を吐いた」状態。
上の「ダメワニ」の写真ファイルを開いてもらうと、ダメな記号の付け方が見られます。(見ないに越したことはないので、ファイルだけ示しています。)
ただ、人間も消化吸収できなかったり、悪いものを飲み込んだりしたら吐き気がしますから、もし、ここで「ダメ出し」されるような記号付けをしている生徒がいたら、そこまでの自分の指導の不味さ、拙さを振り返る好機でもあります。そして、大抵の場合、振り返ってばかりです。

例文3. で、主語が playing football だけだと思い、 with 名詞を除いてしまうのが「ウ○コを漏らした」状態。こういう記号付けは避けるように言っています。でも、これとても、乳児から幼児への発達段階では、「おむつ」「おしめ」の必要な時期がありますし、歳を取ったら取ったで、また必要になるかもしれません。

ということで、上記の合言葉です。下品ですけどね。

「ワニ(の口)」についての具体的な指導手順は過去ログを参照されたし。

ワナナバニ園へようこそ
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20131030


もう一つの定番、「助動詞の番付表」では、白鵬、琴奨菊、勢の写真を見せて「大相撲」の番付から導入。いや、大相撲の番付自体を知らない生徒が多いので。

授業では、英語の助動詞も「力士」のように階層制があり、「役」がついている、という話。「横綱」の「付き人」は原形。「平幕」の「付き人」も原形。でも、位が下の平幕と同じ付き人じゃ横綱は困らない?そもそも横綱のプライドが許さないんじゃないの?などと冗談を挟みながら、「横綱」と「平幕」は一緒に使えない、という「ルール」を説いたりしています。

「横綱」は「話者の心的態度」と「可能性の査定」が主な「役」となるわけですが、用語よりも実感を掴むことが大切なので、結構大変です。使っていく中で身につけるのが一番ですけど、教室での教師対生徒の言語使用ってモダリティの観点で見ると特殊な場ですよね?

Will you open the door?

が「丁寧な依頼」などではなく、その場のその気の有無を確かめる、かなりダイレクトな「物言い」であることはきちんと教えています。まあ、「そのうち」ですよ。

高3は「表現ノート」第一回の提出。
案の定、最初は、「グロサリー」がボロボロ。読解のノートではないのですが、そこが本当に分かるかどうかは、この「表現ノート」を続けていく上で生命線でもあります。「サマリー」には疑問文を使わない、とか、「否定で終えずに、それに取って代わる肯定でサポートする」とか、この活動をやっていく中で身につくと思います。「コメント」は、正に「意味順」が身についているかが試される場です。「できない言い訳のできない活動」ですので、必ず、「自分の興味関心の持てるネタ」を扱ってください。お願いします。

そんなこんなで、中間試験の作問天国で初日に3種類試験が入ってしまい、作問、印刷、袋詰めで学校を出たのが8時半でした。帰路途中で遅めの夕食を済ませたのが9時過ぎ。普段は、9時に寝て3時に起きる生活をしているので、リズムを整えるのが大変ですけど、変拍子も偶になら大丈夫でしょう。


さて、
先日「呟き」の方で連投していた、「ライティングにおける添削とフィードバック」は結構なリアクションがありました。「ヨンギノー」が叫ばれる、日本の英語教育界ですが、こんなところもまだまだ「定見」が共有されていないのではないでしょうか?
以下、自分の呟きの「まとめ」。

ライティングの添削やフィードバックに関して、「丁寧に個々の生徒や学生に添削を施し続けた結果生徒が萎縮したことを明らかにした実証的研究」をご存知でしたら教えて下さい。気になっていることは二つ。一つは「お題設定」、もう一つは「萎縮」の指標は何によって測ったのか、ということです。「添削によって、真っ赤になった原稿を見ると、書き手は萎縮する」というのはどの程度確かめられているのでしょうか?赤ではなくて青だったら?とかで研究をやって見た方はいらっしゃいますか?

「ライティング」指導や評価では「添削」は「費用対効果」のような語られ方をしているように思っています。労多くして益少なし、のように。でも、本当に「益」は少ないのでしょうか?自分が書いたものがより良くなることを喜ばない学習者がいるでしょうか?添削が上手く機能しない原因は、もっと他にあるのではないでしょうか? 例えば、人数が多いから添削の時間がかかりすぎて、適切なタイミングで返却できていないとか?

この場合、クラスの生徒の人数と、担当する総人数の両方が少なければうまくいくでしょうか?ICTの活用で、その場で添削したものが記録として残り、しかも生徒本人へのFBとして機能するとしても、教師が教室でその場でその時に行うとすれば、うまくいくでしょうか?一人当たりの添削にかかる時間はそれほど変わらないでしょうから、クラスの人数が少ない方が上手くいきそうな気がします。でも、生徒の側から見れば、一定量の英文を書くためにかかる時間は、実際に書いている時間以上になっています。アイデアジェネレーションと構想やメモ書き、書く途中での読み返し、などなど。とすると、その時間に書き始めて、書き終え、それをその場で添削する、というのは難しい。

タスクを下位技能に分けたり、プロセスで段階を設けたりするのは、FBや添削を行う適切で有効なタイミングを設定する、という意味もあるのではないでしょうか?では、その場合のFBに求められる要件、資質とは?そういうことを考え続けて早四半世紀が経ちます。添削、FBで「適切で効果的」なものを教師が与えるには、英語の知識、運用力に加えて、「書く」ということはどういうことなのか、という理解が求められると思っています。身も蓋もない言い方をすれば、「添削がヘタだから、書き手がさらに良いものにしようという意欲を失う」とは言えないでしょうか?

「添削やFBで経験知も積んでみたけど、上手くいかない」ということもあるでしょう。私にもありました。私の場合で言えば、「お題設定」に無理や不備があった場合には、「もういいや」という反応を助長していたように思います。このお題だから、いいものを読んでもらいたい、というのが突破口かと。

そう考えると、今現場で考えなければならない「ライティング」の課題は、「書く動機づけ」と「読み手の設定」に収束するのではないか、と思います。ある編集者とのやりとりの中で20年前に私に突きつけられた課題と同じですが、その課題解決に向かう、自分の経験知は変わっています。

ESL (EFL) での研究では、「よい文章」の指標を仮に決めておいて、その指標を物差しにして、FBの種類と、その効果(の有無や差)を見る、という至極当たり前の研究 をしているわけです。それはそれで意味のあることで参考になります。

その一方で、「よい文章とは?」という研究もあるわけです。近年では「自動採点」との絡みで注目度が高まっているかも知れませんが、ある研究でFBの「効果」を測る場合に、この「よい文章の持つ資質・要件」はどうなっているのかも吟味されるべきでしょう。そこが違えば比べることが難しくなります。

それに対して、日本の英語教育系の雑誌で示される特集記事や実践発表を読むと、「誤りの訂正」に関して、「萎縮」「意欲」といった情意面への言及が多くなされているように思えるのですが、その割に「萎縮の度合い」や「意欲の指標」が同時に示されることが(ほぼ)ないように思います。

以上の連投を踏まえて、このエントリーにある私の発表資料を読み返して見て下さい。
「そのうち」はそのうちに
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20141126

http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/files/2014Forum_Matsui_presentation%20%E5%85%AC%E9%96%8B%E7%94%A8.pdf?d=download

このエントリーが5年前。貼り付けたDL可能な資料「…指導、この50冊」(pdf)を作成したのが2001年。そこから15年。現場の指導では何かが変わったか?

愚者なりに考えました
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20110401

今日の高1課外講座では、助動詞の番付表をやったばかりでした。このエントリーは個人的に保存版です。

I will.
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20140803

昨日連投した「ライティング指導における添削とFB」に関して、2年前にも言っていましたね。

そう言えば、今日は亡き母の誕生日でした
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20140525

試験は始まったばかり。
高2では「定義のミカタ」の延長線(戦?)で「亀」の定義新作も披露してもらいます。
試験が終われば「採点天国」ですので、楽しみに待ちましょう。

本日のBGM: TOKAKUKA (秋山竜次)