タテのもの、ヨコのもの、自分のもの

tmrowing2016-04-24

フィギュアスケートは、シーズンの掉尾に新たな大会。Team Cup戦なるものが、コーセーの冠で開催です。
ISUの公認大会のはずなのに、記録は公認されなくて、でも「世界初」のジャンプは認定される(?)という不思議な結果になっています。この話は、また日を改めて書こうと思います。

さて、
生業の英語教育。授業担当は、今年も進学クラスのみ、1年から3年までとなりました。
高3のこの時期は「診断テスト100」に時間を割いています。1項目でノート1頁を使って整理することになっています。今後の学習での、肉付け、加筆修正が鍵。

その一方で、この学年で昨年度扱えなかった、『話せる音読』を高3でやっています。メインは “Summary & Opinions” のセクションなのですが、Story本文がよくできているので、その素材はできるだけ消化吸収しようということで、ホワイトボードに学級文庫から用例を抜きだし、ヨコのものをタテにして、それから自分のものに、という学習活動。
encourageとinspire を取り上げました。
用例と定義を読み比べたあとで、もう卒業した先輩が書いてくれた「絵」を参考に(または却下)して、語義の理解を深めます。次の4つのうち、どれが最も適切でしょうか?




持つべきものは良き先輩・同輩。

以下、inspireの語義と用例を引いておきます。

If someone or something inspires you to do something new or unusual, they make you want to do it.
ex. Our challenge is to motivate those voters and inspire them to join our cause.

If someone or something inspires you, they give you new ideas and a strong feeling of enthusiasm.
ex. In the 1960s, the electric guitar virtuosity of Jimi Hendrix inspired a generation.

以上、コウビルド英英和

to encourage someone by making them feel confident and eager to achieve something great
ex. The country needs a leader who can inspire its citizens.
ex. The coach inspired them to victory.

to make someone have a particular feeling or react in a particular way
ex. A good teacher inspires a love of learning children.

以上,LAAD

to fill someone with confidence and desire to do something
ex. She inspired her students to do the best they could.

If something or someone inspires something else, it causes or leads to it
ex. A successful TV program inspires many imitations.

以上、CACD

to make someone feel enthusiastic about something and make them feel that it is worth doing
ex. The lecture today really inspired me to read more poetry.
ex. When I actually visited the university, it inspired me and made me want to go there.

以上、Longman Activator Thesaurus


高2は、「定義のミカタ」の時期。
今年は、例によって既に絶版となった『マクミラン・エッセンシャルラーナーズ』のワークブックを自宅の書棚から引っ張り出してきて、その構成を活かして「英英辞典」の定義に慣れ親しむところから始めてみました。

イマドキの高校生用電子辞書には2種類くらいの英英辞典が入っているのではないかと思いますが、高2の学級文庫には絶版も含め10冊以上の英英辞典があるので、その定義・説明を読み比べることで、くり返し使われる文法事項や、その辞書ならではの秀逸な言葉遣いから「英語らしさ」を学ぶことができます。これは、高校レベルの学習者個人ではなかなか難しいことですので、この教室の環境を最大限に活かすべく、お膳立てをしています。

今の高3の生徒も、高2の頃は、「レベルの違う辞書も含めて、複数の辞書を横断的に使う」ということの意義があまり分かっていませんでしたから、今の2年生にもよくわからないことが多いのだろうと思います。
最初は「ヨコのもの(辞書の見開き頁にある表現)」を「タテのもの(ホワイトボードに転記された状態)」にしただけで、分かったつもりにになり、その「タテのもの」を、今度は自分のノートに転記し、また「ヨコのもの」で終わってしまうことが多いでしょう。でも、やっていくうちに徐々に理解が深まり、「自分のもの」になるのだと思いますよ。多分、きっと。

まずは、名詞の定義のお約束ごとの確認から。
多義語のsightに始まり、可算不可算と単数系、複数形、冠詞、無冠詞など。

動詞の目的語の意味内容から、動詞の語義の絞り込みができる、などという学びを経て、また名詞の定義へ。

今度は、「いきものがかり」。
turtleの定義を各種引き比べて、キーワードを確認。

1. a reptile that lives mainly in water and has a soft body covered by a hard shell
2. (American English) any reptile that has a hard shell covering its body, for example a tortoise (以上LDOCE)

(American) an animal with a shell and four short legs that lives on the land, in the sea, or in rivers and lakes. In British English the animal that lives on the land is also called a tortoise. (MED on line)

a reptile that lives mostly in water and that has a hard shell which covers its body (MW’s Essential Learner’s)

定評ある英英辞典でも、この語の定義は意外に下手というか不十分だということに気がつきます。
これがアルマジロであっても、歩く時や泳ぐときは、甲羅 (outer shell) から手足や頭は出ているはずですから。生徒には、「甲羅の中に首や手足を引っ込める」ってどう表現する?と問うて、更に検索。

次の辞書の例だと一歩前進ですかね。いや、手足を引っ込めたら歩けませんけど…。

A turtle is any reptile that has a thick shell around its body, for example a tortoise or terrapin, and can pull its whole body into its shell. (COBUILD AAW)

a reptile having a toothless, horny beak and a soft body enclosed in a hard shell, into which many kinds can draw their heads and legs. Turtles live in fresh or salt water or on land; those living on land are often called tortoises. (WBD)

それでも、まだ、「どんな時に、何のために甲羅の中に引っ込めるのか?」が不十分。

an animal which lives in or near water and has a thick shell covering its body into which it can move its head and legs for protection (CALD)

an animal that lives in or near water and has a soft body covered by a hard shell. It can pull its head and legs inside the shell to protect itself. (LAAD)

この辺りで、ようやく安心ですね。

生きものに続いては、定番の「道具」。
ここ2,3年続けていますが、

corkscrew
hammer
scissors
tweezers

を扱っています。絵を描いてもらったりもしています。作品集はまた日を改めて。

「英語は英語で」も結構です、「多読」も大切です、「気づき」は尚更。
では、「ことば」そのものを読むのはいつ、どのように行っているのか、偶には自問自答してみるのもよろしいかと。

日曜日には、進学クラス1年生の保護者会。
保護者同士の顔合わせと、学校長、主任、担任からの指導方針の説明、ご理解ご協力のお願いなどなど。お忙しい中多数の出席をいただき感謝。

私からは、担任としての方針と教科指導の方針とを併せて。
強調したのは「目の前の人から学ぶ」「隣の人と学ぶ」そして、「テスト依存からの卒業」。入学したばかりで「卒業」という言葉遣いも妙な響きですが、偽らざる気持ちです。
定期試験、英検、模擬試験、大学入試などなど、否応なく、「テスト」はついてきます。
それぞれ、それなりですから、そのテスト結果に個人差は出ます。でも、「自分のことばが育っているか、そのことばが自分のものになっているか」ということを、誰かにテストしてもらわなくても、自分で実感できるようになることが大事。

確かに、早速、英検の校内申し込みがありますが、現任校では高校入学時に準2級を既に取得している生徒は稀です。では、英検3級の英語力には意味がないのか?そんなことはありません。3級なら3級で構わないので、その英語力で、例えば20分間、会話・対話が維持できますか?ということを自分に問うことが大切。そして、もし、そのような自問自答ができるのであれば、外部試験は手段となり、目的ではなくなるでしょうし、自分の英語力に自信が持て、機能してくれば、試験を受けることもなくなるでしょう。そういう「卒業」の仕方を求めています。

英語教育改革で、頻りに「Can-do ナントカ」が取り沙汰されます。このブログでも過去ログで何度も取り上げていますが、私が気にしていたのは、Canadian Language Benchmarks などの「指標」であり、「目標」ではありませんでした。

「今の自分の英語力で何ができるか」を気にしなければならないのは、誰よりも自分自身のはず。でも、なかなか自分一人では「気づけない」。だからこそ、それをサポートするような英語授業、英語学習の環境を整えることが、今の私の仕事であり、課題であり、「願い」でもあります。

本日のBGM: first class (大江千里)