Take heed.

熊本 (&大分) での大地震とその被害のニュースに慄き、知人の安否を気づかいながらも、日常を生きる、という感じでしょうか。

怒濤の新入生オリエンテーション週間を終え、土曜日の課外講座から「授業」はスタート。
まずは、「文字の話」です。
幾つか、英国でのハンドライティングの教則本を持ち込みながら、辞書指導まで。
所謂「アルファベット26文字」の、三三七拍子を順逆で。その後、辞書の中心と見開きの確認。
タテに一本筋を通して、端々にも気を配り、背中を柔らかく使いこなしましょうということ。

「手書き」に関しては、フォントの問題は本当に大事なのに、あまりにも等閑視されている現状を憂うだけでは仕方がないので、せめて自分の足もとの実作は豊かに、と思っています。

今年度の某局のラジオ講座、『基礎英語 1』では、講師が田中敦英先生になり、文字を書くこと、に対する配慮がテキストにも表れています。顕著な変化としては、所謂「四線」の間隔が変わりました。基線 (base line) と mid-line (x-height) との間隔が、mid-lineとtop line との間隔より見るからに広いものとなっています。
このブログ記事だけでなく、至る所で十年以上主張し続けてきたことがようやく浸透しつつある実感が持てて少し嬉しく思いました。流石はNEW出身者ですね。

基礎英語1.jpeg 直
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講座本編だけでなく、テキストで連載されている本多先生の頁でも、この四線は同じように扱われていますので、中学校のみならず、今後導入されるであろう、「小学校英語での文字指導」でも普及していくことを願っています。

更なる要望は二点。
・自分が目で読む文字と、手で書く文字の字体とのギャップを減ずるようなフォントの採用。
・ 自然な運筆、ストロークを身につけるための、基本のドリルの採用と、「筆順」の見直し。

「フォント」については、今年使っているこのハンドアウトをご覧下さい。(二次使用される場合も、出典は必ず示して下さい)

2016 英語の文字指導.pdf 直

「筆順」に関しては、過去ログのこちら(http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20120528)で引いた、Piggott によるものを見ていただくだけでも気づきがあると思いますが、手島良先生のブログ記事をご覧いただくのが一番良いと思われます。

VとWの書き順
http://blogs.yahoo.co.jp/tokyo_larkhill/14361424.html

一夜明けて、日曜日は本業から。
新入部員を湖まで連れて行ってコースを見学してもらいました。あまりにも風が強く試乗はナシ。学校に戻ってエルゴで少し指導。暫くは私と一緒にダブルスカルに乗ることになるでしょう。

帰宅途中で書店に寄って、かねてより耳にしていた2冊を購入。
・ 西きょうじ『英文法の核』(東進ブックス)
・ キャサリン・A・クラフト『先生、その英語は使いません!』(DHC)

一読してみて、項目選定と情報提示が気になったのは後者。残念ですが、マイナスの意味合いです。

「学校や教科書で教わる不自然な英語」を示して、代案の「英語ネイティブのくだけた日常表現」を出すというものなのですが、そこで言われる「不自然な表現」がどのようなコーパスや出典に基づくのかがまるでわからないのが悩ましい。
・ 中高の教科書や先生達はその表現をホントに最初に教えている?
・ 学習者が学校の授業や教材を通じて覚えている英語表現はホントにそれなの?
という懸念です。

これって、英文法や語法で「従来の日本の学校で教えられているのはこんなにダメダメ!」と過度の単純化をしておいて、それに取って代わる考え方を示すという手法と似ているなと思いました。ダメ出しする実態の把握が本当に適切か、妥当か、正確か、ということです。

読み進めていてビックリすることが本当に多かったのですが、その一つが、日本語の「何歳ですか?」に対応する英語表現。(項目の039、pp.92-93になります)

英語の習い始めに、「何なのか」を尋ねる疑問詞として、”what” の使い方を習います。
・ What’s the distance? (距離はどれくらいあるのですか?)
・ What’s his height? (彼の身長はどれくらい?
(中略)
というわけで、多くの人が「何歳ですか?」をこんなふうに言ってしまいがち。

Textbook English: What is your age?

というのです。そして、それに取って代わる、”Everyday English” に当たる表現が、何と、

How old are you?

なんですって。
ホントにびっくり。この表現、「おいくつですか?」というように言葉遣いが変わったとしても、年齢を尋ねるというのであれば、学校英語・教科書英語でまず教え、覚えるのが、How old are you? だと思うのですけれど。
今年度の新入生には、中学校の時に使っていた教科書と所謂プリントの類(ハンドアウトやワークシート)、ノートを持ってくるように指示しているので、回収して確認してみます。

これ以外にも、「ときどき」に対応する英語表現で、sometimes にダメ出しされています。(項目の058, pp. 132-133)
私も、sometimes や not always で表わされる「頻度」の曖昧さを指摘することがありますから、気をつけるべき項目だということはわかります。ただ、この著者は、

"sometimes" は「ときどき」という意味の、最も一般的な語です。

と言っています。これって学校や教科書で教えている「不自然な英語」の例なのですよね?「最も一般的な語」を用いて、何が不自然なのでしょうか?

さらに、この著者は、

しかし、日常表現で良く使う、あの表現がありません……。(句読点ママ)

として、"(every) once in a while" をあげ、次のように言っています。

私の感覚で言えば、会話でいちばんよく使うのが "(every) once in a while" なんです。日本人がよく使う「たまに」とか「ときたま」に近い表現であるように思われます。


済みません。日本語で「ときどき」と「ときたま」では、話し手(聞き手)が感じる頻度に差があるように思います。『新明解国語辞典』(三省堂)から引きます。

ときどき [時時]
二 ある程度の時間的な間隔をおいて、その事が(たびたび)繰り返される様子。

ときたま [時たま]
忘れかけていたといってよいほどの長い時間的な間隔をおいて、その事が繰り返される様子。

日本語の母語話者が「ときどき」に対応する英語表現を口にする時に、"once in a while" ではなく、"sometimes" を選ぶのは自然な選択ではないかと思うのです。
訳者が日本人でありながら、こういったところへの配慮がされていないのも残念です。

ちなみに、Merriam-Webster's Essential Learne'sでは、

(every) once in a while: sometimes but not often

COBUILD の英英和(米語版)では、

If something happens once in a while, it happens sometimes, but not very often. (ときたま)

と定義されています。sometimes から、頻度が高めの領域を消した感じでしょう。

Longman のActivator (アプリ版) では、この表現は、"sometimes" の下で扱われています。



sometimes.png 直
once in a while.png 直

あくまでも一つの辞書の定義ですが、これを読むと、sometimes の大雑把加減とonce in a whileでの制限が掛かっている様子、さらに、"every" がついた場合の「レア感」も伺い知ることができます。


もう一つ、「一日おきに」に当たる英語表現で、

とりわけ "every second day" なる表現を耳にする機会はまずないでしょう。あるアメリカ人のブロガーは、「誰かが "every second day" というのをこれまで一度も聞いたことがない」と書いているほどです。私も聞いたことがありません。少なくともアメリカでは全く使われていません。

とまで断言しています (項目084、pp. 188-189) 。勇気のある方だなと思います。それに取って代わる表現は、"every other day" です。確かに、そちらの方が頻度が高いでしょう。でも、"every second day" という英語表現がインフォーマルな場面で全く使われないというのは誤解を招くのではないでしょうか?

くだけた話しことばに限りなく近い書き言葉が使われる場面の一例として、SNSの twitterがあります。検索窓に "every second day" を入れてみると、このような「呟き」のタイムラインが得られますが、恐らく、これらは全てアメリカ人以外の呟きなのでしょうね。

https://twitter.com/search?f=tweets&vertical=default&q=%22every%20second%20day%22&src=typd&lang=ja

先ほど引いたCOBUILD の英英和(米語版)にはこんな記述があります。

If something happens every other day or every second day, for example, it happens one day, then does not happen the next day, then happens the day after that, and so on. You can also say that something happens every third week, every fourth year, and so on.

間隔が二つ、三つ…、と広がっていく場合にも適応可能な原理原則を導き出すなら、「序数」が無難で自然な選択とも言えるでしょう。

少なくとも私は、自分の英語指導でこの本は使いませんし、同僚にも生徒にも薦めません。
「市場で淘汰される」などと言って静観していられないのは、今売れ線の『ドヤ本』系の英語本を眺めたら分かりますよね。でも、現実に、この本を推薦している英語教師がいるようですから…。

文科省絡みの英語教育改革では、教員の英語力がががが…、高校三年生の英語力がががが…、大学入試問題がヨンギノー化されていないからだだだだ…、ととかく喧しいのですが、そういう喧騒に疲弊して黙ったままでいると、今度は学校教育の外からはこんな非難というか言いがかりというか、「弾」が飛んでくるわけです。
外国語教育における、語彙・語法・表現の扱いに関して、「専門家」「有識者」がきちんとした言論・言説の場を作ってくれないと、現場はトバッチリ食ってばかりですよ。ホントに。

この本の読後に思い出したのが、このエイゴネイティブの書いたこの本でした。

過去に大ベストセラーもある著者ではありますが、少なくともこの本に関しては、on Sundays, Sundays, on Sunday, on a Sunday の扱い(又は、考慮のなさ)だけを見ても、一英語ネイティブの語感を盲信することは危ういように思っています。これは、自分自身の「母語」である日本語を考えてみても実感できること。

この手の「日本人英語に対する諌言本」は昔から本当に沢山でています。



出典やコーパスに基づいてはいないけれども、良書というのも存在することは確か。では、なぜ「良書」と言えるのか?それは、読者としての自分の英語の感覚と合致するから、としか言いようがないのが更に悩ましい。一英語ネイティブの盲信に警鐘を鳴らす、一非英語ネイティブの英語感覚、となるわけですから。
数多でている本の中でも、例えば、こちらの本だと、はしがきで、きちんとした筆者の視座が書かれています。


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こちらは、成蹊大学で英語を教えていた英語ネイティブによるもの。英文です。序文も英語ですが4ページに及んでいます。日本語による注釈は河上道生氏。


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もう少し古くて、しかも作文用だと過去ログでもとりあげたことのあるこちら。
ハロルド・プライス&長谷川凡次郎の共著。私の持っているのは、1964年改訂ニ版。


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「自然な英語表現」というのも難しいもの。文化の差を活かすのか、乗り越えるのか、悩みどころではやはり悩むものなのだと思いますよ。面白いのは、序文の日本語は1頁なのに、英語は1頁半。


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「自然な英語表現」を志向するという点では、先程のものと通じるのですが、アプローチは全く異なります。一覧で提示し、頻度情報やオススメを注記していくことで、利用の便を図るもの。ちょっと欲張って盛込み過ぎな感じはありますけど…。


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これは、ohapuruさんに教えてもらったもの。ありがとうございました。


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「自然な英語表現」という時の、「英語らしさ」に関して留意しておくべきことが、この中邑光男氏のビジネス英語本(研究社、2003年)に書かれています。私自身、初めて読んで以来、ずっと心していることです。


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英語教育改革は2020年の東京五輪をとかく引き合いに出すけれど、前回の東京五輪から5年でこれが出版されているのですよ。


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諌言に耳を傾けることは大切ですが、そのことばと聲の主には充分に気をつけたいものです。

本日のBGM: Our Mutual Friend (The Divine Comedy)

※2016年4月30日追記:
every other/second day に関連して、Ngram viewerでの検索をしてみましたので、その結果を幾つか貼っておきます。


日本語でも「毎」と「おき」って、時々迷いますよね?


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1920年代の、歴史的転換点に一体何があったというのでしょうか?大恐慌のせい?

「単位」と「序数」が基本?


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「五輪」は何年ごとに開催?


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圧倒的に、"every four years" が優勢であることがわかります。

「ハレー彗星」は何年周期?


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"every 75th year" が19世紀前半にはかなり現れているのに対して、"every 76th year" が全然ヒットしないことにはちょっと驚きました。そして、前回現れた1986年前後でピークを見せ、その後も明らかに、"every 76 years" が優位に立っていることがわかります。