What’s the story?

一件、告知から。

現在、日本出身でカナダのマギル大学の博士課程で研究中のOさんが、日本の中高現場でリサーチに協力してもらえる先生、学校環境を探しています。

Oさんからのメールを一部転載します。

私の博士論文のリサーチとして、即興的なロールプレー中心のインタラクティブな言語活動(有名人インタビューなど)の練習中に、学習者の文法の誤りを訂正する「口頭フィードバック」(リキャストなど) の効果を検証したいと考えています。また生徒の個人差要因(ワーキングメモリーなど)が指導法にどう影響するかも分析します。
現在、このリサーチを引き受けてくださる日本の高校(1〜2年)または中高一貫の学校(中3〜高1)を探しています。来年度の5月から7月の間に4〜5週間くらいの期間で、4クラスを使わせていただいてリサーチをさせていただければと思っています。普段の教科書を用いた授業はもちろん行っていただいて、その中に週2回程度(一クラス20分程度)このような活動を入れていくというイメージです。時間数は学校のスケジュールに応じて変更可能ですし、相談させてください。

なお、普段からこのようなコミュ二カティブな活動を授業でされていなくても構いません。興味があるけどなかなかできずにいる、でも今後取り入れてみたいという方でも大丈夫です。実験で行うタスクは私が全て作成いたします。また、実験前には先生方にフィードバックの種類や与え方の説明とデモンストレーションも行わせていただきますので、このような活動やフィードバックについて、現時点であまりわからなくても問題ありません。

このリサーチを通して、文法をコミュニケーション活動の中に組み込んで、どうやって生徒に練習させるか、また教師はどうやって生徒の発話の誤りを訂正するか、という実際指導するうえでのヒントになれば幸いです。もし興味を持ってくださった方には、更に詳しい内容を改めて送らせていただくことも可能ですので、質問だけでも結構ですので、お気軽にお問い合わせください。日々の業務で大変お忙しいと思いますが、ご検討いただけますと大変ありがたいです。皆様からの連絡をお待ちしています。どうぞ宜しくお願い致します。

Oさんから打診を受けた私自身は、新年度に全英連での分科会担当が決まっている関係で、自分の授業では協力できないので、他の方に呼びかけるのは心苦しいのですが、もしご興味ご関心のある先生がいらっしゃいましたら、Oさんが書かれている、英語教育や研究関連ブログのエントリーで詳細をご確認の上、直接連絡をしていただければと思います。私宛にメールをいただいて、そのメールをOさんへとお伝えすることも可能です。

以下、ブログのアドレスです。

プロポーザル完成&リサーチのお願い (タカのカナダP.h.D留学日記)
http://d.hatena.ne.jp/takachan75+montroyal_montreal24/20160125/1453748343

よろしくご高配願います。


さて、
前回のエントリーでも取り上げた「センター試験」のリスニング問題スクリプト。

こちらにメディア対応用のスクリプトがありますので、リンク先からDLして下さい。これが本当に正しいものであるかは私には分かりません。大学入試センターのサイトでは正解しか公表されておりませんので悪しからず。
スクリプト
http://nyushi.nikkei.co.jp/center/16/1/exam/1520.script.pdf
問題文
http://nyushi.nikkei.co.jp/center/16/1/exam/1520.pdf
音源(mp3)
http://nyushi.nikkei.co.jp/center/16/1/exam/1520.mp3

今日は、第2問。対話の続きとなる「1ターン」を選ぶ問題です。高1、高2の授業では、「問題文、つまり選択肢を見てあれこれ考えるのではなく、対話だけに基づいて、次のやりとりとして何が適切かを考えよう」というように進めていました。

問7

W: What does the word “xenophobia” mean?
M: Hmm, why don’t you look it up in the dictionary?
W: Can I borrow yours? I forgot mine today.

受験生で "xenophobia" の意味を知っている者は多くはないと思うのですが、最後までその意味は分からずじまいで対話は終わります。この語の聞き取りで悩むだけ損な問題ですね。

気になったのは “Hmm” なんです。
そのひっかかりの理由は、二点。
一つは、男性はその語を知っているのか?ということ。
男性は質問を受け、“Hmm” という短い時間差で、「辞書引いたら?」と答えています。これは普通の反応でしょうか?この男性も、もしこの語を知っていたら、彼女にその意味を教えると思うのです。では、知らないのか? でも、知らないにしても、“Xenophobia?” などと聞き返しての確認もしていないまま、「辞書引いたら?」ですよ。

もし、知っていて教えないなら、

  • 説明が面倒な語である。
  • この二人の間には何か、人間関係のトラブルがある。 

そうでなければ、

  • この語の意味を自分が教えることが、相手にとって、または自分にとって、ひょっとしたら双方にとって望ましくないことであるか、望ましくない事態を引き起こす可能性があることを危惧している。

とでもいうようなスペシャルな状況があるのでしょうか?謎です。でも、この対話はそのような状況を “Hmm” という間投詞に支えさせている訳です。
“xenophobia” の前に、 “hmm” を引いてみました。

ふーむ(疑い・ちゅうちょ・ためらいなどを表わす) (『ウィズダム英和』第3版;三省堂)

used to express hesitation or dissent (Oxford Dictionary of English)

a sound made when someone is thinking about something or needs more time to decide what to say (Cambridge Academic Content Distionary)

a sound that you make to express doubt, a pause, or disagreement, or when you are thinking about what someone has said (Longman Advanced American Dictionary)

一体、何を躊躇ったり、疑ったりしているのでしょうか?

気になった二点目は、もしその語の意味が彼女に分からない難語だとして、その分からない難語の発音が一発でスムーズにできるのだろうか、ということ。

  • もし、女子生徒が教室で課題として渡された英文を読んでいて分からない語があったので質問する。

というような場面であれば、その生徒はその語をあまり上手くは発音できず、音声だけで一回で相手に伝え切れないのではないか、と思うのです。
その場合には、

W: What does this word mean? (と語を指さす)
M: Hmm, (「一体何が分かんないっていうんだろう」と言わんばかりに覗き込んで) “xenophobia.” Why don’t you look it up in the dictionary?

などといったやりとりになるのが普通ではないかと思います。

ということで、どのような人間関係にありどの程度の英語の習熟度の差がある二人の間で「辞書の貸し借り」のやりとりが行われ、それに何と応答するか、が問われているところが気になる訳です。

単純に考えれば、

1. 快く貸す
2. 条件を付けて貸す
3. 持っているけど貸さない
4. 持ってきていないので貸せない

くらいしか、選択肢は考え難いと思いますが、この対話の流れで、選択肢の3は、まずあり得ないと思いますし、2も極めて稀だと思います。
私は先ほど「極めてレアな状況設定」をいくつか想定していましたが、そのような状況がこの応答の整合性を左右する要因となりうると思っています。
もし、「持っているけど貸さない」となった場合に、考えられる理由は、「どうあっても、今この場で “xenophobia” の意味を彼女に知られたくないから」ということになるでしょうか。でも、そうであれば、最初っから「辞書を引いたら?」と言わないでしょう。
人種差別ではなく、個人的な嫌がらせですか?

気になりますね。彼の最初のアドバイス通り辞書を引いて見ました。

  • fear or hatred of strangers or foreigners (Merriam-Webster’s Essential Learner’s English)
  • a hatred or fear of foreigners or strangers (World Book Dictionary)
  • a deep antipathy to foreigners or to foreign things (Shorter Oxford Dictionary)
  • extreme fear or hatred of people from other countries (Longman Advanced American Dictionary)
  • intense or irrational dislike or fear of people from other countries (Oxford Dictionary of English)
  • a strong fear and dislike of people from other countries and cultures (MacMillan English Dictionary)
  • a strong and unreasonable dislike or fear of people from other countries (COBUILD AAW)
  • extreme dislike or fear of foreigners, their customs, their religions, etc. (Cambridge Advanced Learner’s)

「クラス内の人種差別」とか「学校近隣でのヘイトスピーチ」があるのでしょうか?
私の想定は穿ち過ぎですか?
でも、そもそも、 “xenophobia” という語の生息域、その語が出現する談話なり文章なりを考えれば、そのトピックは一定の枠内に収まるだろうと思いますから、教育現場であれば、結構神経を使う語だと思うのですね。

この第2問では、選択肢を見て、一番マシなものを選べばだいたい正答を得られるものでしょうが、実際には、誰と誰がどこで何のために話しているのかが対話を聞くまでは全く分からず、合計3ターンのうちに、自分はその対話の当事者となって、自分の応答を選ぶ、または相手の応答を期待する、というテストになっています。
ライティングのお題でも、「この流れに続くように話を終えよ」というものはありますが、その場合には「シナリオベース」であり、相手や場面、目的は与えられていることが多いでしょう。シミュレーションやタスクとはそういうものでしょうから。

ということで、コミュニケーション力を見るために、「あなたなら次に何といいますか?」を問いたいなら、場面とか人間関係などの条件を示した上で、もっと分かりやすい対話にして、1回だけ聞かせて、設問の数を多くすればいいと思うのです。えっ?外部試験ではもうそうなっている?そうですか。
この問7の答えは、

  • Sure, but can you wait a minute?

という、「承諾しつつも、相手に暫し待たせるお伺いを立てる」というもの。「条件付きで貸す」という私の想定では「2」のカテゴリーに属するものとなっていました。でも、この時に、「なぜ女性は待たなければならないのか?」は不明なのです。そして、受験生には “xenophobia” の意味も分からずじまい。
このリスニングテストで、コミュニケーション力のどの部分が試されているのでしょう?

問8も面白いです。

M: Hello, I’d like to make a dinner reservation for 7 o’clock tonight?
W: OK, for how many people?
M: Let’s see, there will be eight of us.

ト書きがなくとも、ディナーの予約ということはすぐ分かるでしょう。ただ、この電話をしているのが、今何時なのでしょう?私たちの現実世界の知識、常識、良識に関わる部分でもあります。当然、7時よりは前ですが、午後2時とか、3時で、お店が開いていて電話が繋がるでしょうか?ランチタイムの営業時間を狙ってかけているのでしょうか?それとも、8人集まってはみたものの、誰も店の予約をしておらず、6時くらいに慌てて電話しているのでしょうか?

  • 当日の夜7時から、しかも(数えてみたら?言いにくいけど?)8人一組という結構な人数での予約

に対して、お店側がとる対応はどんなものになりそうでしょうか?

既に、「何名様での予約ですか?」とお店側から聞いているのですから、

1. そもそも予約は受けていない
2. 当日になっての予約は受けていない

という答えは消えると思います。
ということで、

3. 夜の7時以降は閉店まで予約で埋まっていて引き受けられない
4. 7時台は埋まっているが、8時半からなら8名を一つのテーブルで案内できる
5. 8人を1つのテーブルではムリだが、離れた席でよければ7時からでも予約可能

という辺りが、常識的に考えられるお店側からの回答でしょう。
で、選択肢を見てみると、

I’m afraid we have no big tables until 9 p.m.

という、想定した4に近い状況がありました。でも、7時より前に電話していたら、9時まで2時間以上、どこでどうやって8人は時間をつぶすのでしょうか?他の店を当たりますかね?そうするうちに時間は過ぎていきますから、どんどん7時に近づいたり、7時を回ってしまうのでは?とすると、想定した5の状況を確認しませんかね?対話がこのターンでは終わらないことになりませんか?
えっ? そんな心配まで、受験生はする必要ない? 確かにそうですね。

ということで、当事者の前提条件が明らかでない状況で、やりとりを重ね、自分の発言を組み立てるのは結構難儀することがよく分かる対話でした。正答は得られたけど、話の細かな内容はよく分かっていない、という人も多かっただろうと思います。でも、センター試験ってその程度でいいということなのでしょう。私たちが生きている現実世界の方が、もっと複雑な前提をもとに、もっと多様な選択肢を想定しているわけですから、日常をきちんと生きている人にとって、テストで問われる世界は狭いものになっているはずです。裏返せば、そのような日常でことばを使いこなせていない人が、会話文頻出表現とか日常会話の決まり文句などをいくら覚えても、あまり御利益はないのだと思います。「空気を読む」とか「気を使う」ということではなく、私たちの現実の、日常での言語使用を「きちんと」行うことが何よりのテスト対策といえるのではないでしょうか。

リスニングでの「ディスカッションもどき」の出題に関してはまた日を改めて論じますが、過去ログのこの辺りは読んでおいて欲しいと思います。

筆記試験の方で出題されている「ディスカッションもどき」に対する持論。
まずは、2007年。

31番からのディスカッションの問題。これを何故読ませるのかがわからない。これこそ、リスニングテストで出せば済むことだ。
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20070122

で、昨年。

C. 恒例の<ディスカッションもどき>出題。
ずーっと指摘しているのですが、この<もどき>の特徴は、
・議論の参加者(=発言者)が少ない。
・一人のターンが異様に長い。
・司会者は必ず一発で要約・言い換えに成功する。
・その司会者がまとめた内容に対してオリジナルの発言者は訂正も異議申し立てもしない。
・発言者Aに対して、発言者Bのツッコミがない。
という理想的な参加者による理想的な話の展開で進むことです。
「卓袱台返し」になりますが、なぜこの議論・話し合いを「読んで」いるのか、が不思議。この問題こそ、リスニングテストで課すべきでしょう。「難しすぎ」ますか?
だったら、そもそも試験で課すべき設問じゃないということでは?
Summary やparaphrase, restatementの能力を見るなら、主題の設定からもう一工夫必要でしょう。
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150118

過去ログといえば、センター試験に限らず、リスニングでのテストに関する持論として再読して欲しいのが、「ストラテジー」にまつわるエトセトラ。どんなにリスニングストラテジーを鍛えて、日常のスキルを向上させても、

「分からない部分は、聞き返せばいい。」
というのがセンターであれ、TOEFLであれ、ほとんどのリスニングテストで使えないことは自明であろう。
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20080105

ということです。

本日のBGM: 迷う(寺尾紗穂)