the short and long of it

tmrowing2015-09-03

現任校では8月終わりから二学期も始まっています。
先日、来年 (2016年) の全英連・山口大会の発表者打ち合わせに出席してきました。東京から山口に来た当初は、まさか自分が全英連で発表するとは思ってもいませんでした。東京で働いていた頃には、全英連の大会に2回関わっています。

2003年の東京大会では、ライティング指導に関わる高校区分の分科会で自分の発表をしていました。

所属は当時のものです。当時の東京大会では指導助言者ではなく、moderatorと呼んでいました。

第15分科会:Evaluating Teaching Writing

Moderator 大井恭子(千葉大学)
記録者 長沼君主(清泉女子大学)

この時は予稿集などがなく、自前で20頁弱の冊子を業者に発注し発表しました。冒頭の写真がその目次です。

ETW(2003年) 目次.jpg 直

2006年の高校区分の分科会では工藤洋路先生の発表で、記録者を務めました。この時のmoderatorは根岸雅史(東京外国語大学)

詳しくは過去ログ参照 http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20061126

来年の山口大会での私の発表も「書くこと」に関して、高校区分の分科会となる予定です。指導助言者は、京都大学の田地野彰先生にお願いしています。

残された準備期間もあと1年と少しなので、「そのうち」というわけにはいきませんが、「それぞれ」の持ち味が出て「それなり」の発表になるのではないでしょうか。最後の最後まで「よりマシ」になるよう実作と整理に意を注ぎます。

ということで、実作の様子も。

高2は、教科書の読解と並行して、『コーパス口頭英作文』を進めています。いや、「薦めています」ではなく、教材として、授業でも扱っているのです。高1で「意味順」をやって、できるだけ軽い、サクサク動く “英語のOS” をインストールしてあったとしても、そのOS上で動かすspeakingやwriting用のソフトで用いるdataを別途インストールすることが必要です。ということで、高2は『英単語ピーナツ』(南雲堂)の銅メダルコースに加えて、「中学レベル」といわれる『コーパス口頭英作文』を使っています。
とかく、5文型の呪縛から逃れることができない高校英語教材が多い中、「意味順」はそれとは明らかに一線を画す「システム」となっています。意味順との出会いによって、私がこれまでやってきた「名詞は四角化で視覚化」「助動詞の番付表」が本当の意味で機能し始めたといってよいでしょう。
それでも、初学者や英語が苦手な生徒は次のような文を的確に使いこなすことに困難を感じているようです。

Tokyo is larger than Osaka.
Their house is bigger than ours.
She is taller than any other girl in her class.
New York is the largest city in the United States.
This car is the cheapest of the three.

比較級や最上級の学習が不十分であること以前に、そもそもの「形容詞」なら「形容詞」の意味を実感していない、生きていないことが多々あるように思います。

large, tall, cheap などの基本的な語であっても、「訳語」との一対一対応で覚え込んでしまうと、日本語のコロケーションの引力から逃れられずに、「肌触り」が掴めないばかりか、「運動性能」を実感できずに上滑りの学習が進むこととなりがちです。

今週の授業で伝えたのは、

large の反対は?small?
bigの反対は? little?
では、それぞれが、典型的に結びつく名詞は?
your big brother とか my little sisterとは言うけれど、(X) his large brotherとは言わない。
ではtallの反対は?short? 典型的な結びつきは?
じゃあ、tallとshortの関係は反意語・対義語で、ある「ものさし」で測っているわけだけど、この「ものさし」が short とlongという「反意語・対義語」になった時は何をどう「測って」いるのか?
ある一つの形容詞だけをじっと見ていてもよく分からないものが、対局概念を引き合いに出すことでパッと見えてくることがある。これが「反意語を援用した語義の理解」の基本的なアプローチ。

というようなこと。

高2は既に、 “honest” の語義で、 “not stealing” を学んでいるので、「それが何か?を定義づける時に、『それが何ではないのか?』の方がより的確に意味を伝えることがある」ことは知っています。
その honest での学びのような機会を、できるだけ演出するのが授業者である教師の役目でもあるでしょう。

語義といえば、高3が使っている「センター試験」対策の教材の付録で「意外な意味を持つ語」のリストがありました。私は自分自身が「受験生」だった昔から、要点だけをまとめた表や頻度順のリストには懐疑的です。それは、自分の「実作」を経て初めて残るものだと思っています。
その「リスト」の中に、fastとfigureがありました。

私の授業では、速度ではない "fast" の語義に関しては、たいていの場合、日本語の名詞になっているカタカナ語の「ファスナー」から遡って指導しています。

http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20090422

これは、生徒が「ファスナー」の実体を知っていることに依存した指導手順です。いくら「反意語を援用した語義の理解」が大事だ、といっても、例えばCACD(これは中級者には良い辞書なのですけれど)の定義のように、

  • connected or attached in a way that is not easily unfastened

fastの定義に unfastenを用いられても困ってしまうでしょう。 “not easily put [pulled; torn] apart” とでもしますかね?この言い換えでも、初学者にはputが受け身だと直ぐに分からないでしょうし、tearの活用は覚束ないでしょうね。
事程左様に、「基本語」の語義の理解は大変であり、だからこそ重要で、丁寧な指導が必要なのです。
因に、
World Book Dictionaryでは、形容詞としてのfastは

  • 4. firm and secure; tight.
  • 9. firmly fixed or attached; tightly shut or locked

と定義づけられていました。特に目を引いたのは、4.のシノニム (SYN) にあげられていた、 “fixed, immovable, tenacious.” のうちの、immovable。この辺りが英語ネイティブの感覚・センスなのだなと思いました。

figureに関しては、「後出しじゃんけん」になるので、結構大変です。

http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20090203
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20100901
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20120911

ということで、日々実作で、自分のことばを作っていく地味な営みを続けていくまでです。

本日のBGM: The Austerity of Love (Paul Heaton & Jacqueline Abbott)