オランウータンはワニ使い?

梅雨入りしました。
雨の隙間を縫って、卒業アルバム用のクラス写真と授業風景の写真撮影。高3の受験学年の担任として、ここで運を使っても良かったんだか…。

高1の授業は、四角化ドリルの「ワニの口」に入り、「それ自体のかたまりを四角化する to 原形」と「それ自体のかたまりを四角化する –ing形」の解説とドリル。

『意味順』とのリンクを図るべく、「動詞と名詞の結びつき」に関して、例年と同様に、「イモを掘る」「地面を掘る」「穴を掘る」に始まる、<動詞と目的語>の「意味の関係」と「ことばの選択」に重点を置いてやっています。「悩み処では悩みましょう」、「躓き処では、躓いておきましょう」という「森の住人」を目指す一週間。

自動詞=目的語を必要としない動詞
他動詞=目的語を必要とする動詞

などという定義をしたところで、

目的語= ?

というところで自分の首を絞めるのでね。当然、「5文型」なんて言いませんし、求めませんよ。だからこそ、『意味順』というOSを採用しているのです。

森の中で迷いながら悩みながら、今日の授業では、<名詞+ to 原形>の解説とドリル。中学校でも出会っているのだろうけれど、授業では明示的に整理されることは少なく、かといって、「タスク」で自分で選択判断しながら課題をクリアーしていく中で身につけているわけでもなく、結局は高校入試の直前に塾などに通って、問題演習をして、「…するための名詞」とか「…するべき名詞」という訳を覚えているだけの者や、「不定詞の形容詞(的)用法」などという用語だけ直ぐに反応する者が多くて、ときどき「不定詞は未来志向」なんていう「フィーリング系」の切り口が「目から鱗」だったのはいいのだけれど、to原形の全てが未来志向だと思い込んでしまった者とか、とか、とか…。結局、学び直しですから。

  • 名詞の三分類は、人・モノ・コト。モノとコトの境界線は時に曖昧。

という自分の物差しの使い勝手を確かめる場でもあります。
今日の授業では、『短単』から、名詞句のみを選んで読み上げ書き取り。開本して確認。いまだに「赤ペン」で正しい語や綴り字を書こうとするものがいるので、

  • 正解は『短単』にちゃんと書いてあるよ。あなたがチェックして、書かなければならないのは、「なぜ、その答えを書いてしまったのか?」「また、なぜ、その部分は何も書けなかったか?」ということです。

と釘を刺しておきました。
今回『短単』から書き取ったのは、それぞれ例文の一部です。

  • saving money
  • watching TV in her hospital bed
  • going to the movies tonight
  • to talk to you about the new rule
  • to buy something to drink
  • to draw a strange picture
  • to bring either a pen or a pencil

解説に続いて、今度は『緑本』を開いて、音源を流し、私が停止したところで、

  • ここでチェックするのは何?

と問い、「ことがらはワニの口、でそれ自体を四角化する to原形のかたまり」と「その前の四角化した名詞と結びつくto原形」と「それ自体は四角化せず、前の名詞とも結びつかず、『どどいつ』で使われる to原形」の識別。用語や日本語訳で区別するのではなく、意味のつながりを見た目と結びつけることにエネルギー、脳のリソースを割いています。
『緑本』の確認箇所はこちら。

  • Would you like tea or coffee?
  • I’ve wanted to swim here since then.
  • How about this green one?
  • How about next Sunday?
  • These Cambodian children like to play in forests and fields, just like you and me.
  • I want to be a scientist some day.
  • They need food.
  • My dream is to be a scientist and produce enough food for hungry people.
  • The organ stopped working.
  • But he went home to write the music.

『緑本』は2002年度の中学1年と2年の検定教科書6社分から「おもしろい」レッスンを集めて編集したものです。
英語が苦手な生徒は、目的語(や補語)となる名詞が「人」「モノ」であればお馴染の動詞も、そこにコトガラがくると思考停止になったり、不定詞の後置修飾がついた名詞句のかたまりになると途端に、「人」や「モノ」のイメージを浮かべることを放棄して「日本語訳」に飛びついたりします。
既習事項との接点を見つけさせ、構造を単純化して「名詞A」などと置き換えて、「意味順スロット」を板書し、「クリック、ダ〜ッ、ピッ!」などとドロップダウンリストの形にして見せて、選ぶ真似をしたりしながら、実感を持たせるよう工夫しています。

「副詞(的)用法の不定詞」はとかく日本語訳の「(〜する)ために」と固定しやすいので、迷ったときの「便法」を教えました。

  • それ自体を名詞扱いしてワニの口の処理をしたらどんな意味になり、その前とつながるか考えてみる。
  • その前にある名詞と結びついて名詞のかたまりが広がるとしたら、どんな意味になるか考えてみる。
  • cut & paste で主語になる名詞の前まで移動して、<四角+とじかっこ>に意味がつながるか確かめてみる。
  • 「〜するので;〜するから;〜するために」という日本語訳はどうでもいい。どどいつの「ど」の仲間、「どうして?」の答えだと考える。
  • そこから、元の場所に戻して、「どどいつ」の「ど」だと再確認。

もっとも、これはあくまでも「便法」なので、次ににた英文を見た時にどうするか?というところは悩みますけれど。「いつ悩むの?後でしょ!」ですね。

高2はというと、「読み比べ多読」の端緒。
今年度は『ハイジ』で始めてみました。
5種類のバージョンの比較検討。まあ、Usborneのシリーズが良くできていますが、おじいさんの小屋の中の描写、ベッドメイキングの手順とやりとり、その後の食事シーンの描写など、古いものにも見るべきものは多々あります。逆に、比較的最近出版された 250 headwords の「お話」は挿し絵が物語を補ってくれるほど上手くできていないので、スカスカ感だけが募ります。語彙・構文の観点で「易しい英語」で書かれていても、必ずしも「分かりやすい」物語にはなれない、さらには「良い物語」になるのは文字通り容易ではない、というのが偽らざる実感。
授業の中心はやはり「語義」の理解、実感。英英辞典の定義を複数比較して「訳語」では抜け落ちてしまう「何か」に気づいてもらう工夫はしています。
でも、ember(s) の実感に一番に寄与したのは「蚊取り線香」の火のつけ方(つき方?)の理解でした。
参考までに、glow の語義を、

glow
a. shine with an intense heat; burn without flame (Chambers)
b. If something glows, it produces a dull, steady light. (COBUILD AAW)
c. shine with low light and heat but usually without flame; shine with a steady light (M-W’s Essential)
d. If something very hot glows, it looks red or orange and burns without producing flames (Macmillan)
e. shine with, reflect, or produce a soft steady light (LAAD)
f. make a warm soft light that is not very bright (Activator)

辞書の略称を示していますが、 “COBUILD AAW” のAAWというのは、新製品がでたわけではなく、「英英和」の略です。
ちなみに、BBC Dictionary だと、glow の定義はCOBUILD系で同じですが、用例は、

  • They blew into the charcoal until it glowed red. (p.492)

と明快です。
もっとも、BBCの ember(s) の定義は、

  • Embers are glowing pieces of wood or coal from a dying fire. (p.367)

なので、実体験による裏付けがないとリアリティは感じにくいでしょう。

この学年も、ようやく「反意語を援用した語義の理解」までやってきました。
今回扱っている場面だと、

  • a: thickとthin
  • b: strong と weak

がそれぞれ、「何を形容・描写するのに用いられているか?」を考えています。
a. は「飲み物」にも、「生地・布地」にも、「本」にも使えますが、b.では同じように置き換えはできません。こういったものはとかくマトリクスを作ることで、より正確な理解と使い分けが出来ると期待されますが、それは、ある程度習熟の度合いが高くなってからのことですよ。今は、一つ一つ良い出会いを重ねる段階。

他には、

  • sunと sunny、waterとwatery

も、いつもの調子で。sunは太陽だから、sunnyは?「たいよーっ、って感じ」「太陽太陽している」などと前振りをしておいて、ではwateryは?「みずみずしい?」と問いかけ。
「語義」の実感には、Whatever works. なんです。

「読み比べ」というくらいですから、当然「読む」わけです。
所謂「分詞構文」や「付帯状況」を押さえながら読んでいるので、その都度その都度、

ここは、左から右へ読んでピリオドまで行った時に、頭の中に「絵」が浮かんでいないとマズイよ。

読んでいて分からなくなって引き返して、記号付けなどの手がかり、足がかりを残しつつ、くり返し読んだから分かったというのに、あたかも『私は最初っから分かっていたんです』という頭の働かせ方を自分に擦り込む作業として、「L板」を使って、左から右、上から下。

今の私のコメントに対して「そんな読み方するわけない」といって笑っているけど、じゃあ、リスニングで一回聴いただけで、同じ理解が出来てる?同じ「絵」が浮かんでいる?

というようなやりとりです。英語は英語で?そりゃ出来るところはやっています。でも、そんなことよりも、良質のナラティブを味わい、英語という「ことば」そのものを読む方を重視し、こういう授業をしています。

高3のクラスでは、模擬試験を控えた週の授業ではありますが、最近目にしたあまりに酷い某教材から一遍を生徒に読んでもらいました。文章に「お題」をつける課題では、予想通りの解答が…。まあ、「反面教師」にはなるので、解説を足がかりに、「パラグラフの構造と読みの技能」といういつもの授業へ。

  • 日向清人『即戦力がつく英文ライティング』(DHC)

 の第2部「パラグラフをととのえる」、第3部、第2章「4大類型はEDNAと覚える」を併せて読んで、補足解説をしています。
文章の類型に関しては、私の授業では、human - time のマトリクスによる分類の方を採用しています。詳しくはこちらのハンドアウト、さらには、長沼君主・河原清志『LRデュアル英語トレーニング』(コスモピア)の p.19にあるマトリクスをご覧下さい。

パラグラフの構造と読みの技能.pdf 直
文章の四大類型.pdf 直

きちんと仕事をしてきたと信頼していた出版社から『ドヤ本』の類が世に出てくることほど悲しいことはありません。そしてそれが市販本なら、それを手に取る人だけが影響をうけるので被害は最小限で済むのだけれど、その教材を授業や課題で生徒に課すとなったら、やはりその被害は甚大。悲劇で済ましていいものか?
巷では、「4技能」が持ち上げられ、「旧態然とした入試」だという理由で「英文和訳」が槍玉に挙げられたりするのを目にするのですが、分類や解法、指導法、解説が目に余るようなシロモノであっても、教材で扱われている英語(表現)のクオリティが一定レベルに達していれば、最悪、その英語を「丸暗記」すれば済むからまだいいんですよ。
問題は、「英語」になっていない「材料」をもとにドリルや書き取り、作文や暗唱をやらせておいて、やれ「4技能」だの、「使える英語」だのを謳う教材。

教師はその教材で教える前に自分で読まないんですかね?読んでいるその時に、「違和感」を覚えないとしたら…。
心配を通り越して、ちょっと怖くなります。

語彙による「難易度」に関しては、今どきは、こんなオンラインツールもあります。CEFR関連で、English Vocabulary Profileという取り組みがありますが、A1-C2までのどの段階の語彙かを瞬時に分類し、教えてくれる優れものです。

Text Inspector
こちらは、無料で500語までのテクストを使えるサイト。
http://www.englishprofile.org/index.php/wordlists/text-inspector
こちらは、ゲスト登録だと150語までのテクスト。登録の料金に応じて、扱える語数が増えます(月会費の自動更新なのでご注意を)。私が登録しているのは、13000語までのもの。
http://textinspector.com/workflow

語彙に関しては、文明の利器のおかげで本当に助かります。
でも、段落、文章の「つながり」と「まとまり」に関しては、やっぱり「身につける」しかないんだと思うんですよね。

で、最後はいつもこのことば。

より良い英語で、より良い教材。
よりマシ選択で、よりマシ授業。

本日のBGM: Don’t Know Why (原田知世 feat. Jesse Harris)