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tmrowing2015-05-28






ついに出ましたよ!!
「高3英語力調査」の「報告書」です。2015年5月26日付けで公開でした。

平成26年度 英語教育改善のための英語力調査事業報告
http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1358258.htm

表紙には「平成27年3月」と書いてあるのに….png 直

情報量としてはかなりのものなので、読むのも一苦労です。
読むだけでも大変なのですから、当然、この「報告書」にまとめるのは、もっと大変だったことだろうと思うのです。「書く」というのは、そういうことですよね?

本日のエントリーは、お手数ですが、必ず、この過去ログと併せてお読み頂きたく思います。

明日の風で桶屋は儲かる?
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150326

2015年3月26日付けのこのブログエントリーで「疑義」を呈していたわけですが、それは、

「書くこと」つまり「ライティング」のテストが何故、あのように悲惨な結果に終わったのか?
テストのスペック、問題の概要がわからないことには、それ以上論じられない

という思いからでした。

今回、ライティングの「出題内容」がわかりましたので、それに対しての私の意見と更なる疑義を呈しておきます。

「ライティング」セクションの「分析」を担当しているのは、森博英氏。
まず、最初にお詫びをしておきます。ごめんなさい。私、いつも「ライティング」に関してえらそうなことを口にしていましたが、この方のことを「ライティング」の分野の専門家だとは認識しておりませんでした。

森氏は、こちらの共著者となっています。早速ポチりました。
『フィードバック研究への招待 - 第二言語習得とフィードバック』(くろしお出版、2015年)
http://www.9640.jp/xoops/modules/bmc/detail.php?book_id=104752&prev=search
森氏の担当は「第3章 口頭訂正フィードバックの効果」です。因に「第4章 ライティング研究とフィードバック」の担当は田中真理氏でした。

改めて、3月26日の自分の書いたエントリーを読み返すと、平成24年度、25年度の「外部試験活用」関連の委員をされています。

http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/t/tmrowing/20150326/20150326171040.png
http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/t/tmrowing/20150326/20150326171041.png

ということは、この時の「『書くこと』に関する結果の分析と今後の指導に対する助言」も、森氏が担当していたのでしょうか?そこのところがよく分かりません。

http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/t/tmrowing/20150327/20150327054600.png
http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/t/tmrowing/20150327/20150327054802.png
http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/t/tmrowing/20150327/20150327054803.png

もしそうだとすると、自分が委員として関っている3年間で、3種類の異なるテストを見てきているわけです。その結果をどう眺めているのでしょうか?作問・出題は「民間」に任せているから、気にしないのでしょうか?
今回の作問は全てベネッセ・コーポレーションによるもののようですが、現行のGTEC for Studentsとも違っていて、「外部試験の活用」で注目される CBTの出題とも違うようです。気をつけて欲しいのは、ここで言及し、比較しているGTEC for Studentsという試験は、既に実施・運用されている「商品」である、ということです。

現行のGTEC for Students の問題構成はこちら
http://www.benesse-gtec.com/fs/about/ab_content
そのうちの、ライティングのサンプルはこちら。「お題」作文のみです。ここではBasicなので、「できなさ加減」を見る目的であれ、広く高校生をターゲットにできると思われます。
http://www.benesse-gtec.com/fs/about/ab_writing

CBTと呼ばれる「4技能対応」を謳ったテストでの問題構成はこちら
http://www.benesse-gtec.com/cbt/about/composition.html
そのうちの、ライティングのサンプルはこちら。
「要約」は「聴解」とではなく、「読解」との技能統合です。CEFRのB1相当というのは、高校生では上位者しか拾えないでしょうけれど…。
http://www.benesse-gtec.com/cbt/about/sample-writing.html

今回の「聞き取り要約」の「出題」というか「構成」というか「形式」、「課され方」を知り、私の頭に浮かんだのは、

  • 無茶だな。

という一言でした。何故、私がそう感じたのか、暫しお付き合いいただける方のみ、以下をお読み下さい。

ファイルはこちらからダウンロードできます。面倒でもダウンロードしておくことを勧めます。

「報告書」 第3章 技能ごとの調査結果の分析
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/05/26/1358071_06_1.pdf

「2. 本調査において当技能で問うている力」
にはこうあります。(抜粋)

設問1…ある事柄についての説明文を音声で聞き、その内容の要点を書いて文章にまとめる力を測定する問題(以下略)

設問2…与えられたテーマに対して、限られた時間の中で自分の意見とその理由を表現する力を測定する問題(以下略)

この記述は、尤もだと思います。
「3. 課題など」
では、
「書くこと」の課題として、

聞いた情報の要点を把握して適切に書くことに課題がある。
聞いた情報の要点を把握して適切な表現を用いて書くことに課題がある。
与えられたテーマについて、自分の意見や理由を適切に書くことに課題がある。

という3点が挙げられています。

「4.指導改善のポイント」
としては、「聞いた情報を要約して書く指導の工夫」と題して、次のように親切なアドバイスが与えられています。

説明文などを聞いてその内容を要約して書くためには、まず、要約する文章のポイントをしっかりと聞き取ることが必要である。そのためには、最も大切な情報、つまり、メイン・アイデアを十分に把握できるように指導することが重要である。また、聞いたり読んだりした内容について話したり書いたりするなど、「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能を組み合わせて行う統合的な言語活動に慣れ親しませ、積極的に取り組む態度を育成することも大切である。

では、実際に、「聞き取り要約」問題は、どのような「出題」「設問」「形式・構成」だったのでしょうか?
「5.問題詳細分析」の「設問1」を見てみます。
「この設問で問うている力」には、こうあります。

1 聞いたり読んだりしたこと、学んだことや経験したことに基づき、情報や考えについて簡潔に書くことができる。
2 つながりを示す語句(文と文、段落と段落の意味的・文法的なつながりを示す語や表現)等を用いて、内容の要点を示す語句や文を含む文章を書くことができる。

では、問題のディレクション、「指示文」です。

1.これから読まれる英文を聞き、その内容を30語程度の英語で要約しなさい。英文は2回読まれます。問題の途中でメモを取ってもかまいません。解答時間は4分です。

私が、先ほど「無茶だな」と言ったのはここです。受験者は、「これから聞く英文が、いったいどのような『話題』に基づくものなのか」が全くわからない状況で、しかも「どのくらいの分量なのか、が全くわからない英文」をまず聞くことになるわけです。一回目に聞いて、分量と時間の配分を掴めれば、2回目にメモを取り、概要を的確に把握することも可能でしょう。
では、その「分量」とは?

  • 約150語の説明文(モノローグ)

です。

今回の「高3英語力調査」の「リスニング」セクションで、150語以上のモノローグを聞いて、「次の4つの英文のうち、最も適切な要約を選びなさい」などという「概要把握のリスニング力」を測定する設問はどの程度の出来だったのでしょうか?そもそも、そういう「設問」はあったのでしょうか?
その部分での受験者の「英語力」がわからないと、「適切な要約が書けない」ことの原因の分析は難しいと思います。資料を見る限りでは、モノローグのリスニングは約40語のもの (Part A Question 16; 報告書のp. 54、分割されたpdfファイルではp. 16) しか公表されておらず、比較ができませんでした。

というのも、「音声処理と内容理解」「内容理解と内容の保持」「内容の保持におけるL1とL2の関係」は一筋縄では行かないからです。

そもそも、聞いたものが理解できなかった者には、その内容を保持することは不可能です。内容を理解できずとも、保持できるのは「単語」「語句」などの「短い」ものに限られるでしょう。その意味では、課題となる英文の「長さ」というのは重要です。
「リスニング」の分析で、「ワーキングメモリー」に言及した解説がなされていますから、そちらをご覧下さい。「リスニング」の分析担当は安間一雄委員です。


リスニングとの比較はできませんでしたが、今回の「高3生英語力調査」では「リーディング」のセクションで、「まとまった英文を読んで、その概要を理解する」力を試す問題が出ていました (Part B Question 17)。
「リーディング」の分析は根岸雅史委員です。(資料全体としては、pp.43-44、分割されたpdfファイルでは、pp.5-6にあります)

100語程度の英文を読んで、その概要を理解する問題である。このような設問では、一文一文を日本語に訳せたとしても、必ずしも正解できるわけではない。文章中の “climbed them all” や “have been identified” といった部分に目を囚われると誤答の選択肢である [B] や [C] を選んでしまう。正解の選択肢 [A] を選んだ生徒は31.7%にとどまり、全体の流れから、文章の趣旨がスコットランドの山々が “Munros” と呼ばれるようになった経緯であることを把握できない生徒が多かったことがわかる。

後戻りでき、確認の出来る「読解」でさえ、正答率が30%程度なのです。しかも、英文の長さは「100語程度」です。今回の「聞き取り要約」の150語というテストの設計は妥当だったのでしょうか?英文の内容、難易度はどうだったのでしょうか?読解で課す英文よりも長いのですから、その分、より易しい英語で書かれたものだったのでしょうか?

それぞれの英文は実際に資料を見て、ご自身で評価して頂きたいと思います。

「ライティング」の分析に戻りましょう。

「要約活動の工夫」と題して、次のような助言がなされています。

ポイントとなる英文が理解できなければ、的確に要約をすることは難しい。そのため、まずは平易な英文を読んで内容を要約する練習を行い、徐々に英文の量を増やしたり内容を難しくしたりして、ある程度の長さや難しさの英文を読んで要約できるようにすることが大切である。このように、段階を追って指導することは、4技能の統合的な活動においては常に留意すべき点である。

素晴らしい助言です。まさにその通り。では、なぜ、今回の「ライティング」のテストでは、

  • 「より平易で、より短い英文での読み取りに基づく英文要約」

の課題はなかったのでしょうか?段階的に課題の難易度をあげることで、「書くことの技能において、何ができるのか?」がより正確にわかるのではないでしょうか?
あれ? この「何ができるのかを段階的に評価する」って、”Can-do” の基本的な考え方に似ていますね?

冒頭でGTEC for Students のCBTの問題構成を引き合いに出しました。その、既に「商品」として通用する「テスト」では、基準が高めではあるけれども、技能連携も視野に入れて、段階的・多層的な「テスト項目」で設計しているのに、なぜ、「日本初のフィージビリティ調査」で実施する今回のテストでは、段階的な課題を課さなかったのか、がよく分かりません。お金を取って受験する技能統合型のテストでは、「読んで書く」なのに、なぜ、今回の調査では「聞いて書く」に拘ったのか?

その背景、理由を私なりに考えてみたのですが、

英文を与えると、その英文の中の語句を適当に繋ぐだけで解答が可能で、「本当に概要が把握できたか」「的確な内容理解に基づく解答か」の判断が難しく、さらには、「その部分点の処理に困る」から?

位しか、思いつきませんでした。
そう言えば、「口頭での要約」に焦点を当てて研究をしていたセルハイ校が昔ありましたね。確か、GTEC for Studentsのライティングセクションのスコアも同時に示されていたんじゃなかったか…。まあ、それはいいでしょう。昔の話ですから。

アドバイスは更に続きます。

要約を書く前に文章の内容をできるだけ網羅的に理解することが重要になるが、その中でも特に、全体が「何について書かれているか」、つまり、本設問における “a unique boat race” のようなトピックを押さえる必要がある。次に、「そのトピックがどのようであるか」というメイン・アイディアが書かれている文、つまりトピック・センテンスを見つける練習をすることが大切である。例えば、本設問では、1段落目のトピック・センテンスが “It’s amazing because it’s held in a river with no water!”、2段落目のトピック・センテンスが “The answer is that people carry boats while running.” であり、この2文をまとめると全体の概要になる。このように、要約する方法に特化した指導を行うことも効果的である。

何か、良さげな助言ですが、実際の英文の概要は、この2文をつなげば把握できるのでしょうか?

There is an amazing boat race held in a river with no water. People carry boats while running.

と書けた受験者の「頭の中に浮かんだ絵」とはいったいどのようなものなのでしょうか?


今週の私の授業で、この「聞き取り要約」で使われた英文に関するちょっとした「課題」をやってもらっています。高3のクラスです。

今回の「聞き取り要約」の英文を日本語に訳して、私の担当する高3のクラスで「とある課題」にアレンジして使ってみました。
私がアレンジしたのはこちら。

1.日本語を読み、空所にもっともふさわしい表現を補充して、「お話」を完成する。
2.その後で、オリジナルの「英文」を私が読み上げ、内容を確認してから、「お話のうちの重要な一場面を絵に描く」。
という2段階の課題です。

以下、私の日本語訳と、生徒が「絵に描いた」ものからの選りすぐりです。

高3テスト.png 直
a unique boat race.jpg 直

生徒の半分くらいが、the boats have no bottoms; their bottomless boats の絵が描けていませんでした。日本語で概要を掴んでいたにも関わらず、です。このような理解で、第二段落の内容が適切に要約できているとは思えません。
「不適切な絵」を思い描いた生徒の中にも、

There is an amazing boat race held in a river with no water. People carry boats while running.

という理解があった生徒もいたことでしょう。でも、彼らは「どうやってボートを運ぶからユニークなレースなのか?」がよくわからなかったのです。
”bottomless” という情報の処理をしようとしたが為に、かえってそれまでに構築していた全体を統一した主題の理解がぼやけてしまう、というのは正直な反応でしょう。

今日生徒に伝えたのは、

 「読解」なら、どのくらいの分量か、どの辺で終わるかというのが読む前からわかるけど、「聴解」では、聴かないとわからない。しかもわからない時に戻れない、で、1回目を聞き終えた時に、やっとどのくらいの分量・長さだったかがわかる、というのはかなり大変なんですよ。

 「これから、二つの段落で構成された合計約150語の英文を読み上げます。途中でメモを取っても構いません。英文は2回読まれます。2回読み終わってから、約4分時間を与えますから、150語で話された内容を、約5分の1の、30語程度に要約しなさい。」

というディレクションがもし、事前に与えられていたら、要約の課題の出来も、もう少し「マシ」なものになっていたのではないでしょうか?

Can-do という観点で「ライティング」のテストを課すのであれば、
1. 100語の英文の読み取りに基づく30語程度の要約課題
2. 50語の英文の聞き取りに基づく15語程度の要約課題
3. 4コマ漫画に基づくナラティブの描写課題
4. お題を与えての意見陳述課題
というような問題構成が望ましかったのではないでしょうか?
でも、なぜそれができなかったのか?
おそらく、「ライティング」の試験だけで50分以上かかってしまうから。そして、書かせたものの採点・評価の労力がさらにかかるから、では?

ということでした。
この「聞き取り要約」も含めて、今回の「ライティング」の出題に関しては、高校現場で英語を教えている方の率直な感想・意見が聞きたいと思っています。

そうそう、忘れないうちに書いておきますが、「速報値」が一斉に報道された、2015年3月17日の時点では、今回の「調査」で測定する英語力は、「CEFRのA2〜B2に相当するもの」とされていたんですよ。


3月17日での資料.png 直

ところが、今回の正式な、詳細な、意味付けをされた「報告書」を出す段階では、なんと、「A1〜B2」に変わっているではありませんか。


2015年5月26日「報告書」.png 直

後出しじゃんけんは強いですよね。


本日のBGM: Song from the bottom of a well (Kevin Ayers)
※本日のBGMと同じ選曲の過去ログがこちら、

http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20130224

冒頭の書籍3冊の写真はこちらで詳しく…。
本家CEFRでの「英語」はというと….jpg 直