もっともっと「ライティング」を!!

tmrowing2015-03-22

しばらく音楽ネタが続いておりましたが、英語教育のことを忘れたわけではありません。
1週間前のことになりますが、3月15日には、千葉大学英語教育学会の第10回大会に行ってきました。
(過去ログ参照:http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150309

この大会参加の目的は、勿論、大井恭子先生の最終講義。

色々な思いを胸に、時折熱いものが込み上げてきた午後でした。
前半は、大井研究室で学ばれた現場の先生からの発表。
田畑光義先生から、「この10年」のライティングとの関わり、足跡を振り返る、貴重なお話が聞けました。その10年の途中で縁あってELEC同友会ライティング部会で一緒に活動をしたことを思い返しておりました。正に、「えにし」です。大井先生と田畑先生の進めていた企画に加わる形で、『パラグラフ・ライティング指導入門』(大修館書店)という一冊に私自身の足跡を重ねることができたことを喜ばしく、誇らしく思います。

「大井科研」に関連した、「コーパス班」の話も興味深かったです。最後に一つ質問させていただいて、「形態素」での抽出以外に、どのように発達段階を捉えるか、現時点での課題や今後の展開の可能性を考える糸口をいただきました。

そして「最終講義」。
大井ゼミのOB, OGの卒業生や学部生・院生の方々や同僚の方々と比べれば、私と大井先生とのつながりは薄く、短いものかもしれませんが、それでも感慨深い講義となりました。
僭越な物言いを許してもらえるなら、日本のライティング指導改善、定着を目指す「同志」として、多いに頷き、胸熱くし、少々涙ぐませていただきました。本当にありがとうございます。
講義の内容をここに書くことは控えますが、会場にいらした若い世代の方たちのうち、一人でも多くの方が、その胸に蒔かれた種を芽吹かせ、根付かせてくれることを願っています。

私と大井先生との出会いは、直接の師弟関係というものではなく、1冊の本でした。

  • 上村妙子・大井恭子『レポートライティング  大学留学カレッジスキル』(日本英語教育協会、1992年)

当時の私は、勤務校に「英語」に特化したクラスが出来、意欲的な生徒と優秀なALTと一緒に、日々試行錯誤。英米で出版されている教材や概説書を読み漁るようにして、「いいとこどり」をしては空回りしていたように思います。

「英語の流儀」、今では普通に使われている言葉遣いですが、「英語モード」でのライティングをこれだけ具体的に説明してくれていた教材は当時市販されていませんでしたので、本当に有難かったです。これを契機に、専修大学の上村先生の紀要も取り寄せ、具体的な教室での指導の背景も確かめることができました。それまで、どちらかといえば「外」ばかりを見ていたのですが、国内の先進的、先駆的実践を見てみようということで、管外出張で、神戸市立葺合高校を視察に行ったり、福井県立丸岡高校を視察にいったりと実際に足を運び、日本の高校生に出来ること、(まだ)出来ないことを考え、自分なりの「シラバス」を作ることができました。

その後、私の高校の異動があり、ライティング部会の部長だったリチャード・スミス氏の帰国に伴い、私が部長として「研究部会」の活動を続けることになりました。例会の会場は、外語大のスミス研究室から、清泉女子大の長沼君主研究室へと移りました。当時も、現在と同様に例会の告知をして、オープンな形で開かれていたわけですが、その長沼研究室での例会に、大井恭子先生が訪ねていらしたのでした。私たち研究部員が千葉大へと伺うのではなく、本当に「ある日突然」大井先生の方から足を運んで下さったのでした。

衝撃以外の何ものでもありません。

大井先生が部会のメンバーに加わって下さることになり、ELEC同友会のライティング部会としての経験知がアップグレードしたわけです。
部会での調査研究、大会での発表の指導助言に加えて、私が全英連の東京大会で分科会を担当したときにも、大井先生に指導助言者をお願いするなど、充実感を味わうことの出来る日々でした。
現職研修で当時千葉大学の院生だった田畑先生も部会に合流というより、「中学校段階」の指導研究の「主流」として活躍されました。(過去ログ参照:http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20050314




  • The rest is history.

パラグラフ・ライティング指導入門―中高での効果的なライティング指導のために (英語教育21世紀叢書 17)

パラグラフ・ライティング指導入門―中高での効果的なライティング指導のために (英語教育21世紀叢書 17)

『パラグラフ・ライティング指導入門』は、私が非常勤講師となってから声を掛けられて参加した企画で、執筆開始となってから、更に、私がボート競技の指導者として山口へと居を移したこともあり、完成までに多大なご負担、ご苦労をおかけしてしまいました。辛抱強く、原稿を待っていただいた編集部のSさん、共著者の田畑先生、そして、この本を、より良いものにしたいと何度も朱を入れて下さった大井先生には感謝のことばしかありません。幸い、現在4刷。改訂のチャンスがあれば、より良いものにしたいと思っています。

最終講義の中でも何度か引用されていましたが、大井先生のライティング関連の書籍(市販本)を振り返っておきます。

まず、

  • 大井恭子『英語モードでライティング』(講談社、2002年)

が絶版になっていることが残念でなりません。これが読まれないままでいるということは、「英語のライティング」というものの理解・普及が、一般のレベルで進んでいないことを意味すると思っています。できれば、再販、または、どこかの出版社が引き取って出してくれることを願っています。

  • 上村妙子・大井恭子『英語論文・レポートの書き方』(研究社、2004年)

は、上述した『レポートライティング』(日本英語教育協会、1992年) に大幅に加筆、改編したもので、改訂というよりも新版といえる内容と分量で充実の一冊になっています。大学レベルのリサーチペーパーを書くだけでなく、ある程度フォーマルな英文ライティングを志す人にも有益でしょう。

  • 大井恭子・伊藤文彦『英語モードが身につくライティング』(研究社、2012年)

「学参」版の『Stop! 日本語的発想---英語で書くコツ教えます』(桐原書店、2006年)が絶版になっていたのを引き継ぎ、「センテンスコンバイニング」の手法を取り入れた課題を加えて新たな一冊となったものです。『英語で書くコツ…』を大井先生が執筆されていた時期に、思いがけないような英語の質問を何度か受け、回答に苦しんだことを思い出します。

次の一冊がどのようなものになるのか、これからの大井先生のご健康と益々のご活躍を祈念しています。私も、現在進めている「ライティング」関連の企画を「本」という形にして、大井先生にお届けしたいと思います。

中学校段階では、「書くこと」「ライティング」が重視され、指導の改善も進んでいる印象を受けるのですが、高等学校段階では、来年度から「ライティング」という「書くこと」に特化した科目がなくなります。「英語表現」という科目は技能統合を謳ってはいますが、検定を通過し、「現場」で採択されている教科書を見るに、「オーラル」と「ライティング」がこれまでに築いてきた成果を超えているようには思えません。
「技能統合」というバナーばかり振りかざしてもダメですよ。例えば、「聞くこと」と「書くこと」の統合で、「英語での講義」を聞き取って、「英語で要約する」などという「タスク」を課したとしましょう。もし、ある生徒が「英文の要約」が上手くできなかったとしたら、その次にどういう対処をすれば、生徒の「要約」は改善・向上するでしょうか?
まずは、診断。技能がハイブリッドなのですから、「聞き取りの段階での不備とその原因究明」「聞いたものの『処理と理解と保持』の検証」、「書いた英文の不備とその原因究明」がなければ始まらない筈。とすれば、当然の帰結として、原因によっては、「リスニング」の指導、「ライティング」の指導といった「単一技能」の指導が必要になるでしょう?ハイブリッドのタスクを課し続けていれば、できなかったものが早晩できるようになる、とでもいうのでしょうか?

比喩の陥穽、危険性を踏まえた上で喩えるならば、水泳の苦手な人に、「あなたは泳ごう泳ごうとするから、泳ぎがうまくならないんだよ。そういうときは、他のものと一緒にやってみると上手くいくものだから」といって、トライアスロンを勧めますか?ということ。まず、苦手な水泳が「よりマシ」になるようなトレーニングメニューを立て、指導するでしょう?水泳だけに限って考えても、個人メドレーのタイムを短縮しようという選手に、ただ全種目を泳がせるだけでいいですか?ストローク、キック、ターンなど個々のスキルのチェックをするには、「水泳のコーチ」が必要でしょう?

技能統合、ハイブリッドな「タスク」を課すのは結構。私も大賛成です。完璧を求めず、やりくりして凌ぐ力を評価するのも結構。でも上手く出来ない原因を診断し、 それを修正するための指導は、下位技能になるだろうと思うのです。ならざるを得ない、といっても良いでしょう。統合的なタスクでの下位技能に焦点を当てるのなら、「統合的ではあるけれども下位に位置づけられるスキル」または「単一技能に分けたスキル」になるでしょう?

ではその時に指導者に求められるのは?「書くこと」の指導改善には「ライティング」を体得している指導者、できれば「ライティングの理論」と「ライティング指導の理論」を共に知っている指導者が望まれると思うのです。


3年ほど前、『英語教育』の特集で大井先生が書かれた記事をこのブログで取り上げたことがあります。(過去ログ参照: http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20120517
その時に、大井先生からメールをいただきました。私信ですので、詳らかにすることは避けますが、そのメールは、いつものことばで締めくくられていましたので、その部分だけご紹介して、本日のエントリーを結びたいと思います。

我々はこれまでどおり(あるいはこれまで以上に!)、「もっとライティングを!」を言い続けて参りましょう。
では。

本日のBGM: Flowers never bend with the rainfall (Paul Simon)