liner notes

前回ブログでアップした10 曲に簡単に解説を。
選曲の基準は、男性ボーカルで発売後10 年経過というのが目安です。最低10 年は聴き続けられないと、ということで2004年以降のものはひとまず除外しています。

All the children sing (Todd Rundgren; 1978)

正真正銘の天才と言えるであろう Todd RundgrenのアルバムHermit of Mink Hollowから。
私が「ポップ」という感覚を自分の中に目覚めさせた記念すべき曲。ベンチマーク。だって、ホール&オーツより恰好良かったんだもの。
アルバムの2曲目には、Can we still be friends? という世間的(世界的?)ヒット曲があるのですが、私のアルバムは、この1曲目で繰り返し繰り返し繰り返し…。
クレジットでは、全ての楽器を独りで録音しているアルバムとされています。

Every night at eight (Tot Taylor; 1981)

英国の奇才、コンパクトオーガニゼーション主宰、 Tot Taylorのソロ1stから。
佐野元春『ハートランドからの手紙』(角川文庫)には、

  • #26 トットは「変な奴」だ!

に佐野が英国で会ったTot のエピソードが収録されています。
私はマリ・ウィルソンや、サバービア・スイーツを知るよりも先に、このアルバムでTot を知りました。(確かWAVEレーベルでしたね)。
そのアルバム中でもこの曲です。コールポーターを敬愛するTotのピアノにかかると、ポール・ウェラーよりもおしゃれにXTCよりも穏やかに捩れた楽曲ができ上がります。コーラスではカースティ・マコールも参加。私の音楽地図では、この遥か下流にニール・ハノンが漂っています。

human hands (Elvis Costello & the Attractions; 1982)

私にとってのロックの未来。1980年代に、6号くらいで廃刊になった音楽系の情報が充実していた『LOO』という雑誌(渚十吾氏の『渚のボードウォーク』が連載されていた)で、誰かが、「ロックミュージシャンは太っちゃダメだ」と言っていたのを覚えているのですが、このアルバムでは(まだ)「キレッキレ」のコステロが聴けます。
曲の構成、アレンジが秀逸。コステロのアルバムで初めて公式に「歌詞カード」がついたことでも話題になりました。このアルバムの裏のテーマが「現代におけるディスコミュニケーション」ですから、頷ける変化です。音楽的には、ビートルズの『リボルバー』を手がけた伝説のエンジニアであるジェフ・エメリックを起用。技巧的アレンジと一見シンプルな演奏を最大限に活かす「音像と音触」です。このリマスター盤はかなりアナログの肌触り、空気感を蘇らせてくれたと思います。私には、ディフォード&ティルブルックの楽曲よりも、このアルバムのコステロの方が、ビートルズのDNAを受け継いでいるという感じがします。

Jean’s not happening (Pale Fountains; 1985)

ネオアコ金字塔。日本の渋谷系にも多大な影響を与えていることでしょう。「青春は一度だけ」ということばが一番似合うセカンドアルバムから。私は当時、大学生でしたが、「打倒ワム!」と言って、友人にこの曲を勧めまくっていました。
リンク先の動画で聴けるバージョンは、アナログ12インチのようですが、これが彼らの音ですね。再発のリマスターCDでは、マスターテープの問題なのか、位相の問題なのか、この曲だけではなく、全編通して、ストリングスの臨場感、空気感が全くと言っていいほど失われてしまっていたので、アナログ盤を是非とも探して聴いてみることをお勧めします。私は当時のカセットテープから起こした音源で普段聴いています。

あの娘僕がロングシュート決めたらどんな顔するだろう(岡村靖幸;1990)

波乱万丈と言えば聞こえは良いけれど、人としていろいろ思うところはあるし、言いたいこともままあるけれど、岡村ちゃん好きなんですよ。可愛格好いんですよ。チャーミングでセクシー。楽曲で言うと、コード感とメロディラインの織りなす不思議な快感。先日青木孝明さんがFBでアップしていたけれど、ポール・マッカートニーのベースラインだけを聴いた時の新鮮な驚きに似ているというか。最近のアーチストで言うと、トクマルシューゴにも通ずる、「子どもの合唱」を被せても、その良さを損なわない希少性。復帰作のツアーを広島まで泊まりがけで同僚と見に行ったのも良い思い出です。(http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20120123

涙は悲しさだけで、出来ているんじゃない(Moonriders;1991)

これは、私の人生のテーマ曲の一つとも言えるでしょうか。
かしぶちさんの訃報の後、暫く聴くことの出来なかったライダーズですが、10代の頃からライダーズの音楽で育ってきたのでね。もう、音の一つ一つ、歌詞の一言一言が血となり肉となり、「知」となっています。ビートルズへのオマージュ。ライダーズが切り拓いてきた「ポップさ」と「叙情性」とのマリアージュ。私にとっては、くるりの『ばらの花』や、サカナクションの『アルクアラウンド』の上流でこの曲が木霊し続けています。

My favorite girl (高橋徹也;1996)

邦楽最高のキラーフレーズ「泳ぎ疲れたら君はそれまでさ」と歌う『真夜中のドライブイン』とどちらを選ぶか随分迷いましたが、高橋徹也さんとの出会いは、シングル曲でもある、この曲なので、こちらに軍配を。ドラマチックで、シリアスな世界観を歌っても、小山卓治やシオンにはならずに、エリック・マシューズにもならないところが彼の個性だと思っています。
ご本人は、このシングルのオザケン的な捉えられ方を嫌っていたようですが、この曲のアルバムバージョンのドラムを聴くと、やはりジーンと来るんですよね。その意味では、この動画の弾き語りバージョンは希少だと思います。

陽だまりの中で(綿内克幸;1997)

チャーリーことアニキ綿内。日本発ネオアコ金字塔の『ジャッキー』を歌っていた、WEBBの一人だと知ったのはかなり後。ソロになってからのライブに通い始めてからでした。
綿内さんの魅力は「声」。ソウルやフォーク・ロック、ブリットポップなど洋楽を消化吸収した楽曲も勿論ですが、なんといっても「声」なのです。日本の男性ヴォーカルでもっとも色気を感じます。ここに挙げた10組の中で、最も頻繁にライブに足を運んだのは綿内さんかも。オリジナルアルバムでは4枚目から。正直、発売当初は余りピンと来なかった曲でした。2000年代になり、自分の環境が大きく変わり、自分の人生で何を求めるのか自問自答するようになって、重みの増してきた曲です。車を運転しながら歌っているとサビで感極まって落涙します。視界がにじむのでとっても危ない曲です。その意味では、本当に「最期の曲」になるかもしれません。
歌詞のことばの選び方も音の響きが魅力的です。「想い出が雪にはりついたこの町で/大きな夢がはみ出ていたよ」の頭韻(「お」と「は」)は流石だなと思いました。この動画だと、3分20秒あたりから。(でも、全編通して聴いてくださいね)

モチイフ(タイライクヤ;2002)

私が密林のレビューも書いている名盤『完璧な虹』に収録。以下、密林レビューを再録。(http://www.amazon.co.jp/review/R13KLC9OTLSSHE/ref=cm_cr_rdp_perm?ie=UTF8&ASIN=B000063E9M

インディーズでこれだけのソングライティングセンスを持った人は初めてでした。本当に他のアーチストで誰に似ているか、っていうのを全く考えずにとにかく一度聴いてほしいアーチストです。言葉の使い方、感性も独特のものがあり『モチイフ』などの楽曲でそれは顕著だと思います。解散したのは残念ですが、このアルバムは愛聴盤になることはまちがいないでしょう。私は2年間近く飽きずに続いています。

こう書いたのが、2004年。それからさらに10年、本当にずぅ〜っと聴き続けています。

花屋の娘(フジファブリック;2003)

ミニアルバムのアラモード収録かな。
とにかく衝撃。私にとっての『BECK』(ハロルド作石)の主人公、コユキのイメージは生前の志村君なんです。
(アニメではなく「実写」映画化で佐藤健くんが演じてくれた雰囲気はかなり近かったと思います。)
この頃は、コモンビルとかに嵌っていた時期でしたが、フジファブリックの楽曲に出会い、文学的・叙情的な歌詞をオルタナに乗せる、とか技巧的なことよりも、演奏・歌・声の緊迫感・存在感にやられました。
GREAT 3の片寄明人さんが、Twitterで、彼らがこの曲を演るのを聴いて、

  • 「マルコス・ヴァーリ meets オルタナに感じて衝撃でした。一緒に再録したかったです」

とエピソードを語ってくれたのをよく覚えています。(https://twitter.com/akitokatayose/status/93843943996928000)


本日のBGM: 引き続き上記10曲