challenge

いよいよ新学期。
高3課外では進度を脇に置いて、扱った素材の中の、試験での出題頻度はゼロに近いと思われる「語義」の整理に少し時間を割きました。
まずは、実感しにくいinvolve (Another example involves two U.S. companies ....) をCOCAから文脈ごと抜き出し「生息域」の観察へ。
involveを「含む」という訳語のイメージだけで押し通して、とかく

<より大きなもの・母集団 + involve + より小さなもの・個々の要素>

と捉えがちなので、主語が単数形の名詞で、目的語が複数形の名詞だと「日本語に訳したが為に却って分からなくなる」なんてことにもなりかねません。

その元となった英文は、浦島久先生の『話せる音読』の一節にありました。このあたりの英文になると、「中学レベル」の言語材料どころか、「センター試験レベル」の素材と比べても「難しい」と感じますし、実際によく分かっていない高校生が多いと思います。辞書でも用例の手薄な部分ですので、”(another) example+involves” で検索するとか、COCAでチェックしてみるとかすると、「生態」がいろいろ見えてくると思います。お暇なときにでもどうぞ。
大まかな意味をパラフレーズするだけなら、その場でもなんとか凌げるけれど、「定義」するとなると難しいものです。involve同様に難儀したのが、「当てはまる」という訳語が当てられることの多い "apply to" の定義。
Cambridge やMEDの定義が比較的明快です。

affect or relate to a particular person or situation: This law only applies to married people.

これは、Cambridge Learnersのもの。

[intransitive] to affect or be relevant to a particular person or thing
apply to: The restriction no longer applies to him, because he's over eighteen.

こちらが、MED。

次は、COBUILD Phrasal Verbs Dictionaryから。

If something such as a rule or a remark applies to a person, thing or a situation, it is relevant to the person, thing or the situation.
The rule does not apply to us./ His description only applies to the older animals.

英語がある程度「できる」人には、良い定義なのでしょうが、初学者には、そこに出てくる、affectやrelevantを実感できるかが肝となるでしょう。

MEDでのrelevantの定義と用例。

directly connected with and important to what is being discussed or considered: How is that relevant to this discussion?

Cambridge Learnersでのrelevantの扱い。

related or useful to what is happening or being talked about: Education should be relevant to children's needs.

次に示すのは、NODEの初版 (1998年) のrelevantの項。

closely connected or appropriate to the matter at hand: the candidate’s experience is relevant to the job (p. 1567)

Chambers Universal Learners’ Dictionary (1980)だと

connected with, or saying something important about, what is being spoken or discussed: I don’t think his remarks are relevant (to our discussion); Any relevant information should be given to the police. (pp. 605-606)

となっています。

Webster Essential Learnersでは、

to have an effect on someone or something: The rule no longer applies./ These rules apply to everyone. [= everyone must obey these rules]

という扱いです。この名詞のeffectがくれば、名詞での言い換えで、resultへ、形容詞へと動いて、effective での「効き目がある; 効力が及ぶ」 (動詞なら、work) の「におい」がするところまでは近づけそうな気がします。

では、英和辞典での訳語は「痒いところに手が届いて」いるでしょうか?

What I am saying does not apply to you. ぼくの言っていることは君には関係ない。 (p.39)
This paragraph relates to my father. この記事は父のことを言っている。(p.1013)

この二つの用例は、『新クラウン英語熟語辞典』(増補新版、三省堂、1977年) に収録されていたもの。

This book does not apply to beginners. この本は初学者にはむかない。 (p. 37)

こちらは、『岩波英和辞典』(新版、岩波書店、1976年) に収録されているものです。

最小限の文脈がある「例文」の和訳のお陰で、何とか「意味の実体を推測できる」ようなものです。その分かったつもりでさえ、「この文脈なのだから、ここではこんなことを言っているに違いない」という、日本語の足場に完全に依存していることを忘れてはいけません。

冒頭で引いた、難儀するinvolveのような例になれば尚更です。

COCAの用例のうち、exampleと共起するinvolveの「例」を5つだけこちらに載せておきます。前後の文脈を含めてご確認下さい。
ちょっと実感のつかみにくい involve の用法.pdf 直

目利き腕利きの補助がなければ、いくら「英英辞典」の定義や用例を比べてみても、なかなか「実感」「イメージ」「フィーリング」が掴めない、という例でした。

さて、
世間では昨日も今日も「英語教育改革」の話題に事欠きません。呟きから加筆修正して載せておきます。

「有識者会議」で報告された恐らく政策推進側に「好都合な事例」の一つ。個人的にこの学校に好悪の感情はない。予めお断りしておく。「英語は英語で」進めた授業のゴールが「関係代名詞を使ってまとまった内容の英文を書く」というのは「あり」なのでしょうか?

コミュ英シラバス例.png 直

「関係代名詞が使えることによって、何かを書く際に、より適切・的確に、名詞句の限定表現が使いこなせる。」という時の「何かを書く」ことの方がゴールなんじゃないの?
拙過去ログを是非。

本当の学びは「あ、そっか!」の後から始まっている。 http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20140708

関係代名詞を使えるようにしたいなら、まずはジッタリンジンの『プレゼント』の歌詞をじっくり読んで「名詞」から考え直す方がいいと思います。これこそ母語の足場。

Prime Hours http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20081225

「調査報告書」と言いつつ、その実態はこんなものです。

本調査は「平成25年度 英語によるコミュニケーション能力・論理的思考力を強化する指導改善の取組」事業を実施する44道府県教育委員会が任意に選んだ学校を調査対象としており,統計的な処理を経た抽出調査ではない。 http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1351125.htm

統計的に意味があるわけではない、数字を示すことで、何を操作しようというのでしょうか?



次は、「有識者会議」での議事録。
読みにくかったけれど、読みました。
これでは、 「審議」とか「議論」とかけ離れた、政策に都合の良い「事例発表会」ではないのでしょうか? 最後の最後で「到達指標」を「到達目標」にすり替えることの危険性が指摘されているのだけれど、英語教育関係者は皆、これを読んでいるのかな?

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/102/gijiroku/1349932.htm

こちらは、「外部試験」に関わる小委員会の方の議事録。 ここで熱弁を振るう安河内氏、竹岡氏は、一体いつ、「言語テスト」の専門家という認識・評価を得たのだろうか?という疑問が消えません。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/102/102_2/gijiroku/1349153.htm

安河内氏オリジナルの「外部試験」同士の換算表はこちら。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/102/102_2/shiryo/attach/1349573.htm

恣意的なスコア換算、みなし満点のように大雑把でいいのだったら、ここのリストにある全ての高校の同じ生徒に、異なる外部試験を学年進行で複数回受けさせて、そのスコアを比較すれば簡単に「算出」できるような気がします?長々と続く質問表を示すことで、何か説得力は増しますか?

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2014/08/19/1351122_07.pdf

そもそも、母体の「有識者会議」があって、その「小委員会」がある、という時に「人選」の基準は何なんだろう?実務者集団?その分野の第一人者?「言語テストの専門 家」を呼ぶのではなく、「受験産業界の有名人」を呼んで何がしたいのだろう?製品の開発者には喋らせずに「営業担当者」の熱弁を聞いているだけのような気がします。



ひと昔かふた昔か前に、「スクラップ&ビルド」などという言葉が流行りました。教育の文脈で語る人もいたはずです。これは「建築物」「構造物」の比喩。企業の「再建」の文脈では効き目があったのかもしれません。でも、「生き物」を「壊して建て直す」ことは可能ですか?同じ比喩を使って何かを語るなら、私は「教育は生き物」という比喩の方を採ります。

ひと昔前に「セルハイ」ってありましたよね。英語教育に特化して予算や人的加配を獲得した「公立」高校もありました。GTECや英検など、外部試験の結果で盛んに成果をアピールしていたように記憶しています。今は 「拠点校」事業に移行したのでしょうか。人やカネが割増で与えられた学校の割増の成果を基準に、丸腰の学校に新たな取り組みを要求するのが、今の文科行政なんだろうなぁ、という実感です。
ポストセルハイ期に入り、新たに拠点校の指定も受けず、「普通の高校」に戻り、人事異動で、セルハイ期の教員がいなくなってからも、充実した英語教育をしている高校 (がもしあるならの話しですが) をこそ、メディアで取り上げて、「何がうまく行っているのか?」を教えて欲しいのです。私の予想は「入学者のレベル向上」ですけれど…。
私も公立校で働いていた時に、「ほにゃらら指定校」になることで予算を獲得し、新たな取り組みをする、というサイクルの中にいたことがあります。「指定校」は期限付き。期限後は、それに取って代わるまた別の指定校を受けて…、という具合に予算の獲得を続けることもあります。「いつでも降りられると思ったのに…」と感じる人もいたことでしょう。カーレンの「赤い靴の呪い」のようで怖いです。



競技スポーツの指導に関わる者として、同業他者への意見・異論はありますが、自分のところで預かる選手(またはその候補)のそれ以前の指導に関しては「大きな故障させないで」位の要求しかありません。あとは、自分のところでの実作だから、という感覚は、メジャーな競技でもあまり変わらないのでは?
プロ野球のスカウトにしろ、監督にしろ、「うちに入団する投手は、150kmの速球とスプリットは身につけておいてくれないと即戦力にならない」などと高校野球の監督に要求を突きつける人はいないと思うのです。では何故 (なにゆえ) 英語教育では「グローバル」の名のもとに、前倒しでの要求が正当化されるのでしょうか?
最近ずっと言っているネタ。
政財界の求める「グローバル人材」には、英語などの外国語の運用力が不可欠なのであれば、入試改革なんてまどろっこしいことやらないで、全国の大学を全て「外語大」にすればいい。北海道外語大、東北外語大、東京第一〜第五外語大、とかね。バッチリ解決じゃないですか?
でも、この「全国総外語大計画」って、政財界も絶対やろうとしませんよね。 「語学力・コミュニケーション力」が大事といいつつ、その裏では、 「語学ばっかりできても使い物にならないと困る」と思っているから。でも、「語学力以上に重要だと思っている資質・能力」があるなら、それを優先すればいいだけのこと。
その一方で、「語学力以上に重要だと思って選んだ人材に、企業の金で語学力を養うのは無駄」だとも思っている。だったら、最初から入社試験でハードルをあげればいいんです。でも、そうすると敬遠されるのが怖くて、踏み切れない。 なんだか、 “the king of wishful thinking” って感じがするんですけどね。


こんな記事も出ていました。

http://toyokeizai.net/articles/-/46150

有識者会議のお一人がここでも熱弁を振るっています。
流石に「オランゲ」って覚えている人はそれほどおらんげ?と思うわけですが、それにしても、この二人の「日本の英語教育を変える」意気込みが凄いのです。「オレだオレだ!」という感じ。
でも、なぜこの人たちって中高の先生にならないのかしら?私は、中高の現場に飛び込んで自分の生徒と実作に励む人を応援したいです。


近年の「教育再生」「教育改革」は「教育は既に死に体」、「現在の教育を支えている者たちは、刷新排除すべき対象」という「世論形成」の上に成り立っています。
いいでしょう。
制度も変え、人も入れ替えて下さいな。で、制度を変えたその後に、その理想の教育とやらを担う「人材」は、いったい誰が育てて送り出すのでしょうか?


週末、職員室でとある回覧が来ました。「IELTS受験料の助成」です。
通常25380円のところ、助成後の特別受験料が2万円ジャストですよ! 皆さん、英語教師になるなら、今がチャンス!
えっ?

  • これから高スコアを取ろうという人を集めるのではなく、既に英語力のある人を活用しろ?

ああ、確かに、それはごもっともですね。でも、どうしたら、そんな「高みにいるスゴイ人たち」が中高現場に、英語教師として、わざわざ降りてきてくれるのでしょうか?システムとガバナンスですよね。ダメもとで、呼びかけておきます。

緩募:英検1級や、TOEICやTOEFLで高スコアを持っていたり、実際にビジネスの最前線で英語を使いこなしてきた方などの英語力の高い人材が『是非 とも中学、高校の先生になりたいっ!』と言い出すような、社会的な基盤の整備、教育界の好感度アップの為の政策を公約に掲げる政治家の方々。

今これを書いていて、思いついたんですが、学校のソトにいらっしゃる「高い英語力のある日本人」が、一人につき3人を指名して、「日本の英語教育界の再生と改革と発展のために、自ら中高の英語教師になるか、あるいは、非正規雇用の講師の方々を正規雇用とするための人件費に充当するための寄付をするか」という「チャレンジ」をしてみてはどうでしょう?早晩、中高現場には、「英語力に長けた英語教師」が溢れるのでは?

  • 馬鹿なこと言ってないで、氷水でもかぶって頭を冷やせ?

もう、かぶったんですけどね…。

本日のBGM: Shouting in a bucket blues (Kevin Ayers)