Don’t wilt now.

ソチ五輪、フィギュアスケート全日程終了。
泣いて泣いて笑って泣いての後半戦振り返りその1。

アイスダンスSD(ショートダンス)中継は、まさかの第1Gカット‼
私が一番楽しみにしていた美神ヴィクトリア・シニツィナ&美男子ルスラン・ジガンシン組は放送されませんでした。
スタジオで雑談している時間以上に、「競技」そのものに価値があるのですよ。
アイスダンスも今大会で引退表明のカップルが多いので、見納めかと思うとSDのうちからウルウル来ていました。

ロシア期待の若手、イリ&カツ組は、SDで素敵なドレスを纏い、今季のパターンダンス、難易度の高いフィンステップでレベル4を獲得、FD(フリーダンス)では、『白鳥の湖』をドラマチックに演じきり3位、見事銅メダルに輝きました。
ペシャ&ブル組に有終の美で台乗りも期待しましたが、地元の声援を受け、ジュニア時代から天才と称されたその「才能」を存分に開花させたイリ&カツ組を讃えます。

異次元の加・米ツートップは、至る所で論評されるでしょうから、ここでは一言。
メリ&チャリのFDは『シェヘラザード』。オープニングのショールを纏うようなリフトは全米選手権の方が神業だったと思います。

最終Gは本当にハイレベルの競演でした。ありがとうございます。

女子シングルは、世界の頂点に近い二人の選手に大きすぎる波乱。

今季ISUのメジャー大会に出ていないキム・ヨナ選手は、十年来の大ファンである私にも調子の見極めが難しく、事前予想では5位。SPはジャンプも少ないので体力的にもそれほど不安はないだろうから、あまり心配はしていませんでした。『アゲヒバリ』を思い起こさせるような、しっとりした曲で、オープニングの3Lz・3Tも決め、ほぼノーミス。バンクーバーの時のように「女王の貫禄」というのではなく、effortless & flawless。全く力みのない滑りとジャンプを見せたことに、むしろ驚きました。「有識者」の評価が「呟き」で流れてきましたが、カタリーナ・ヴィットやカート・ブラウニングが高評価だと言うのも十分頷けました。

私が1位を予想したのは、団体戦金メダルの最大の立役者リプニツカヤ選手。
ただ、前日の公式練習からみるからにナーバスで固くなっていました。エレメントを急ぐかのように次々と高難度の技をこなしてきて、3回転フリップを跳ぶはずのところで、フェンスに近づきすぎたためか転倒。リズムを立て直すことが叶わず、不本意な演技で終了。コーチのエテリさんがキス&クライで、しっかりと腰を抱き、耳元で語りかけていたのが印象的でした。

リプニツカヤ、まさかのSPにざわつきが消えない中、演じたのは私の事前予想では3位の、コストナー選手。
ユーロの後、機会あるごとに、

コストナーの『アヴェ・マリア』は歴史に残る演目になる予感がする。

と言ってきたのですが、見事に期待に応えてくれました。しなやかな腕の使い方、リズムに合わせて五線譜を音符が動くかのような、上半身の豊かな表現力。artistryとはこのこと、という滑りの美しさだけでなく、オープニングのコンボは3F・3Tという高難度で、高さ、幅、流れが傑出していました。あの空気の中、神が降りてきてくれることに期待するのではなく、自らがMuseとなったような演技でした。

私が2位予想で推していたのはGGこと、グレイシー・ゴールド選手。
全米選手権の滑りの再現を、と期待したのは私だけではなかったでしょうが、それがいけなかったのでしょうか。オープニングの3Lzは「転ぶ?」と思うくらい左によれていましたが、なんとか2ndの3Tは着氷。3Loも決めるには決めましたが、全体的にちょっと固かったです。
昨秋、光岡先生に教わったことを思い出しました。
うまく行った過去をなぞってはダメ。再現性を求めてはダメなのです。
キス&クライでは、キャロル翁が鼻血を出していて、その横でグレイシーがティッシュペーパーをたたんでいたりで「立場が逆だろう!」とTV画面に突っ込みを。ただ、かなりおさえられたかなと思うスコアを見ても、落ち着いた表情のGGに、成長を感じました。

ロシア2枠のもう一人は団体戦で出番のなかったソトニコワ選手。
博多のGPFで、生で見て以来、私のソトニコワ選手への評価と期待はこのブログで度々書いてきました。「ショート番長」などと嬉しくない異名も頂戴していた彼女の事前予想は4位。ところが、蓋を開けて見たら、そこはやはりソトニコワ。身体操作の極み。斬新、渾身、会心のカルメンでした。今季2本を揃えられていなかった彼女の底力を信じ切れていなかった自分を反省しました。

SP最終滑走は浅田選手。
日本の多くのファンの怒りを買うかもしれませんが、試合前の私の予想では、もし3+で失敗してもそれを引きずらなければSPで70点代、フリーでも130点代には止まるだろうから6位、というものでした。
ソトニコワの作った異様な昂揚感の中、表情が冴えないまま氷上へ。3+は着氷後に転倒。その後のまとめ方次第と思っていたのですが、コンビネーションジャンプを飛ぶことができずに、これまで見たことのないようなスコアに。演技終了後、目が虚ろのままインタビューを受けている彼女を見て、余りに痛々しく感じ、「もう、やめさせてあげたら」と思った自分がいたくらいでした。

そこから一夜明けての浅田選手のフリーの演技はもはや伝説とも言えるでしょう。


ジョアニー・ロシェット(バンクーバー五輪銅メダリスト)はフリーの演技の前に次のように「呟いて」いました。

@JoannieRochette: I wouldn't be suprised to see Mao skate with total freedom and give us a memorable skate. #mywish

これは、演技後の評価ではなくて、演技前の願い・祈りです。

一部、誤って解釈・翻訳されているようでしたので、補足を。
この英語表現は、ごく普通の言い方ですよね。
私は、
I wouldn't be surprised if S+V、
または、if節の代わりに、to原形で、
「…だとしても、驚かない(= きっと…になるよ;…するよ)」
というような意味で使っています。

ディック・バトン(1948年、1952年五輪金メダリスト)が「呟き」でリアルタイム解説をしていましたが、

@PushDicksButton: Asada: Sometimes a bad placement or other roadblock will release all tension, resulting in a best ever performance: http://t.co/MPI2pLrGlH

@PushDicksButton: Asada: In other competitions, she's tried the Triple Axel - now placed so low, why not go for it?

@PushDicksButton: Certainly no tension or loss of control here

@PushDicksButton: Tatiana Tarasova choregraphed her program Mao is happy with this did the best she could and will have satisfaction for years

@PushDicksButton: Hate to say I told you so Beautiful triple axel Great performance doesn't everyone need a tension release?

と、演技前、演技後を冷静にまとめていました。


SP終了後、世界の歴代・現役の名選手たちが浅田選手激励の「呟き」をしていたことは話題になりましたが、フリーの演技終了後も、

ブライアン・ボイタノ(カルガリー五輪金メダリスト)曰く、

@BrianBoitano: There's the Mao we know. Such determination. Sets the stage for #EdmundsGoldWagner

ミシェル・クワン (説明の必要はありませんね)曰く、

@MichelleWKwan: Mao Asada - made me cry.... a performance that we will all remember forever!

と世界を感動させた名演であったことは間違いありません。

ツイッターなどのSNSが、人を闇から救い出すことのできる可能性を実感した2日間でした。

メダリスト3人のフリーとGalaについては、また日を改めて。

本ブログのテーマ曲: 明日はどっちだ(真心ブラザーズ)