悲劇、それとも喜劇?

センター試験「大問6」を高2生に解説中。

関連過去ログはこちら。
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20140126
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20140119

ライターの個性や文体、そして力量も様々。「ライティング」の観点からのツッコミどころは多々あるので、授業ではそこを考えながら進められるけれど、「テスト」を考えると悩みは尽きない。一度手書きで本文を全部書いたあとで、授業での解説のために再読し、メモを書き込んだノートの写しを貼っておきます。
既に、ネット上では、「英語教育再生プロジェクト」で、詳細な批評がなされています(*注:現在は全てデータ、記事は削除されています)が、そこでの記述とは別に、私のコメントを「簡潔に」記しておきます。

タイトルについては、上記過去ログで既に指摘していましたので繰り返しません。

第1段落から。
写真 2014C_6_P1.jpg 直
この筆者は、「ことがら」と「もの」とでの名詞・代名詞・限定詞の使い方に癖があるように思います。These early products represent ... の件で、these の指示内容と現在時制になっているところかなり違和感。最終文の The advances over the years の限定・特定、さらには複数形の使い方がかなり雑な印象。焦点を当てたはずの、but 以下で、言っていることが曖昧で、段落の主題がぼやけて終了。

第2段落。
写真 2014C_6_P2.jpg 直
基本時制が過去に戻って、個別の歴史の振り返り。第一段落で「便利さ;手軽さ」と「音質向上」が述べられたので、そのうちの「便利さ;手軽さ」の向上・改善 について?第一文の it が具体的に何を指すのか?「蓄音機による音楽を聞くことにおける便利さの向上」とでもいう内容のはず。写真では、just beginning となっていますがこのbeginning は動名詞由来の名詞のはずなので、theを写し忘れている事に気づきました。すみません。第二文の「カーラジオ」の登場での as well が何に何が追加 されたのか、第一段落の内容とつながることはわかるけれど。

蓄音機の登場で、自宅に居ながらにしてオーケストラの演奏が楽しめるようになったことと同様 に、カーラジオの登場で、車で路上を移動しながらでも音楽を楽しめるようになった。

とでもいう流れでしょう。だったら、「蓄音機」から「ラジオ」までの技術革新の話はその前に出しておいて欲しいですね。Interest で始まる第三文も過去形で、歴史的な記述。ここでは、「ウォークマン」の出現で、「ポータブル」プラス「パーソナル」の進化・技術革新の描写、ということなのでしょう。で、次の文は These days とわざわざIn those days との対比のようなイントロを使っているので、現在へとつながる技術革新の振り返りで、iPod などの大容量デジタル再生機について。で、疑問に思うのは「この段落の主題は、いったい何?」ということ。

第3段落。
写真 2014C_6_P3.jpg 直
冒頭の Another factor affecting our enjoyment of music its sound quality. という第一文を読めば、「ああ、前段落の内容は、 "One factor affecting our enjoyment of music is its listening convenience." とでもいうべき内容だったのだな」という捉え方になる。でも、そう書いてあったかな、という「?」が浮かびます。この第3段落では、50年代に始まる「ハイファイ」については、詳述され、Ideally という文修飾副詞で、筆者の顔が前面に出ているけれど、最終文の “The technological advances since the 1950s have resulted in modern recording techniques and playback equipment that allow listeners to come very close to the goals of high fidelity.” で述べられている、具体的なadvances には一切の言及がない。第2段落と比べてもかなり性急というか拙速な印象。

第4段落へ。
写真 2014C_6_P4.jpg 直
この第4段落のイントロでちょっと面食らった。文章全体の主題に対して、この段落はどのように貢献しているのか?第一文で、walking を使っているのは、前段のウォークマンの持つmobilityのイメージからなのかな、という気はするけれど、consumers > someone looking for a portable system > audiophiles > music fans と、この段落で「聞き手」に言及する名詞句のレベルが general からspecific と滑らかには流れておらず、ひとつひとつ「それは誰のことを言っているのか」確かめなければならない。

「便利さ;手軽さの向上」を求めるのは一般人で、「音質向上」を求めるのは、マニアという対比だとすれば、最終文で、music fans でまとめて述べているのは、「マニア」のことだけ、と受けとられてしまわないか?

と思って読むと、最後の最後に、"their different needs" とあるので、ここでのmusic fans は「手軽派」も「音質マニア」も含んだものとして筆者は書いている模様。であれば、この段落の早い段階で、"different people have different listening needs" というような内容を述べておくべきでは?

20140208追記:
ここでのconsumersは、

  • a person who purchases goods and services for personal use (Oxford Dictionary of English)

という語義で用いられていると考えられるので、listenersとして、音楽を楽しむ者ではなく、「消費者」としての視点で描写が始まったことで、面食らったのだと思う。
名詞句の使い方としては、
「消費者での一般論」

具体例1としての「ポータブル、モバイル志向者、嗜好者」

具体例2としての「音質マニア」

上記2例を踏まえた、嗜好に差のある「音楽好き総論」

という展開として書いていると思われる。
筆者としては、「モバイル志向者」については、第2段落の ”interest” で、「音質マニア」については、第3段落の ”HiFi” で既に、伏線を張っているということなのだろう。

私の「?」の源は、なぜ、第1段落での導入から、第2、第3と枝分かれした論旨が、この第4段落でまた合流するという、筆者の描いた絵図が、問題なく受け入れられるのか、ということにある。
ここまでの「流れ」を示す「地図」「標識」が整っていないために、主題の周りをカヌーのスラローム競技のように進んでいるかのよう、というのが現時点での読後感。
冒頭で ”consumers” と言ったのだから、その語義にあるように、”purchase” した後は、”personal use” の話を続けるのは当然。であるならば、第5段落で、すぐ使う記述があるのかと思いきや、まだ使わないから、”even” という語彙選択でそこにフォーカスを当てているのだろうか。

もやもやと第5段落へ。
写真 2014C_6_P5.jpg 直
Even after のeven で、前段とのギャップを意識していることはよく分かる。第4段落から第5段落への橋渡しで、"Music fans today spend a lot of time choosing the right equipment for their different listening needs way before they start listening to and enjoy the music itself." とでもいう一文を想定すれば、つながらないことはないのだが、第一文を見るに、この段落の主題は、「音楽そのものへの集中を阻害する要因」の第二弾とでもいうものであろう。第4段落はまだ、現在時制での一般論、またはoften での「傾向」を取り上げていたのに対して、この第5段落は、論が立っていないように感じる。sometimes では「例外」が限りなく想定されてしまうし、let は「意のままに」ということだから、「そのような志向・嗜好を持たない人」までは含まれない。さらに、助動詞のmay は「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」という表裏一体の主観的な可能性を表すので、裏付けにはならず、説得力に欠けるまま段落が終わってしまう。

で、 最終の第6段落。
写真 2014C_6_P6.jpg 直
冒頭の、with so much technology availableでのso much の意味がよくわからない。前段のどの部分を「程度」「量」で捉え直したのか?options や variety やrangeというのならわかるのだが。”so much advancement in audio technology available” などとなっていた原文を私が写し間違えたかと思い、もう一度問題文を読み返したくらい。ここでは、おそらく、technologyを次のような意味で使っているのかな、と。(MED)

[uncountable] advanced machines and equipment developed using technology

「そんなに」が前段を受けるか、それともそのうち説明されるのかと思って進む。can sometimes での押しの「弱さ」が気になる。Can は「ないことはない」という可能性。この文の内容を裏返した、"listening to music is the primary issue" とはっきり言わないことに意味があるのだろうか?そのくせ、Music is an amazing and powerful art form, には何のサポートもしないままamazingのような主観的形容で自己主張をしておいて、and perhaps ... と一歩引いてしまうあたりがなんとも、もどかしい。最後の "it's up to us to stop and truly listen." という一文も、縮約形で口語的な言い回しなので、本来は「引用」だったものを地の文に引き込んだのか、などと思っていたら、段落、そして文章が終わってしまいました。

教材やテストで触れさせる「英語」に求められる要件について改めて考えています。
私の教室では、「純粋培養的」「無菌状態」の英語にだけ触れさせているわけではないけれども、テストではやはりできるだけ、「真っ当な」ものに基づいて英語力を診たいと思っています。問題は、何をもって「真っ当」と見るのか、ということ。
20年前から使っている、
The Tapestry Grammar: A Reference for Learners of English, Heinle & Heinle

http://www.amazon.co.jp/The-Tapestry-Grammar-Reference-Learners/dp/083844122X/ref=sr_1_1?s=english-books&ie=UTF8&qid=1391374596&sr=1-1&keywords=the+tapestry+grammar

では、学生(留学生)の書いたエッセイが、活動の素材文として多数用いられていました。

Tapestry_G_エッセイ補充完成1.jpg 直
Tapestry_G_エッセイ補充完成2.jpg 直
Tapestry_G_空所なし適語句補充1.jpg 直
Tapestry_G_空所なし適語句補充2.jpg 直

各章の冒頭には、模範的なエッセイが掲げられ、ターゲットとなる項目にハイライトをあてながら導入されていく構成。その後、確認で例題・課題が与えられるのですが、その最後の方は、まとまった分量の英文(の読解の)中で行われます。 エッセイには不備があるドラフトの段階で使われているものもあったり、完成版がありながら敢えて不備となるように加工されて提示されたものもあったりします。もちろん巻末には全て、corrected version が収録されていますから、誤った、拙い、不備のある英文だけが残ることがないように配慮されています。

ここで、日本の教材との違いにハイライトを当てよう、というのではありません。
それよりも、「語学」「第二言語の学習や習得」における、基本的な原理原則の確認です。
インプットを与える際に、常に、正確で適切な表現のみを選択的に与えることは難しいでしょう。学習の途上にある者同士でのインタラクションでは勿論、教師から与えられる、投げかけられる英語表現にも、やりとりする英語の中には不正確で不適切な「ことば」が含まれていることが多いでしょう。それでも、現実の「運用」の中で、言語は学ばれ、獲得されて行くものなのです。
では、「教科書」では?
現実の「運用」と同じだから、誤りはいくらあっても構わない?いくらなんでも「いくらあっても構わない」とは言えない?だったら、「どのくらい」までなら許容範囲?
さらには「テスト」では?
悩みは尽きず、振り出しに戻った気分です。

ある著名なSLA研究者が、「大量のインプットと、少量のアウトプット」というキーワードを残し、それが至るところで引かれ、響いています。私は、「理解可能な大量のインプット」の重要性を強く信じ、訴えかけ、実践してきました。しかしながら、「インプットの質」を考えた時に、あまりにも英語の流儀、定石を外れた、ぎこちない英文(それを「英文」と読んでいいのか「?」が浮かびますが)を大量に与えることには反対です。

生徒が身につける英語、そして英語力は、「それぞれ」「それなり」「そのうち」とはいえ、自分の発話・指導・テストの中での、「気づき」「否定的証拠」「肯定的証拠」の扱い方で、まだまだ考えておかなければならないことが多いことを反芻しています。

本日のBGM: Adventures in Modern Recording (The Buggles)