「気づくのはいつでも、過ぎた後だろう」

小出しに呟いていたものをFBでまとめて、さらに加筆。
拙ブログ検索ワードも「自由英作文」がちらほら出てきたので。
大学入試用「自由英作文」の市販教材での立論の不十分さをどのように「現場」で補うか?という話をば。
過去ログでも、1年ほど前のエントリーで

  • 「自由英作文」対策、その前に…。

とでもいう趣旨の記事を書きましたから、併せてお読み下さい。

泣くな、英作文教師 (http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20130224)

巷の大学入試「自由英作文」対策本・対策講座の多くは、「出題形式」で入試問題を分類し、必要な語数から、おおまかな文数を想定して、解答例を与えているように思います。そのためでしょうか、完成した英文の「テクストタイプ」が配慮されることは稀で、アイデアジェネレーションの手法も「トピック」や「テーマ」に依存していることが多く、汎用性に欠ける嫌いがあります。
そして、何よりも「英語」以前の「思考」の段階で問題があるように感じています。

一例として、「電子辞書やアプリ辞書 vs.紙と活字の辞書」の二者択一で、利点・欠点を理由付けさせる場合を考えてみましょう。この課題は、「辞書の機能を説明する」のでも、「辞書の歴史を語る」ものでもなく、他者の考えとのギャップを埋め、説得するための、自分の意見の表明とその理由付ですから、argumentativeなライティングとなるでしょう。

もし、「電子辞書推奨」の立場で立論する際に、

  • 「電子辞書はどこにでも持っていけるから」

とか

  • 「複数のコンテンツが入っているから」

というだけでは説明責任を果たせない、とうことが生徒はもちろん、巷の学参執筆者や、模試の問題作成者・解答作成者にもなかなか理解してもらえないのが悩ましいところです。

課題の「肝」が見えない中で、いくら技巧を凝らしてもご利益は薄いでしょう。

  • そもそも、実際に、どこで、いつ、何のために、辞書を使用するのか?

が読者との間で共有されなければ、何のargumentも生じません。
そこを打ち出して、

  • 「外出時でも移動時でもどこにいても思いついた時に、今いる場所が英語学習の場となるから」

とか

  • 「受信や理解のためだけではなく、発信や表現の力を磨いたり、より適切で的確な表現を選んだりするのに複数コンテンツで相互に参照できるから」

などと言って初めて、自分の主張を 「支持」したことになるのですが、その部分を生徒に納得してもらうことが、まずは作文の教師の最大の "argumentativeな" タスクとなっています。

二者択一であれ、実際に「どこで、いつ、何のために、辞書を使用するのか」というapplication を踏まえて、「辞書に一体何を求めるのか」という自分の価値観を相手に認めてもらうための考察が不可欠なのです。しかしながら、その部分の考察は大学入試用の市販教材や模試ではほとんど指摘されることがありません。

私の指導、シラバスで、物語文には、story grammarの6つの観点を、描写説明文にはcubingの6面を、論証・説得文の賛否型には、topic flowers & topic ladder 、問題解決型にはSPRE/R というアイデアジェネレーションの手法を当て嵌めているのは、それぞれの手法が、限られた語彙・構文力の生徒が対応できる汎用性の高いアイデアジェネレーションの手法であるからです。

別に、今示したcubingやSPRE/Rなどのアイデアジェネレーションの手法が絶対的なものではありません。それ以外のものであっても全く構わないのです。物語文、描写説明文、論証文といった、テクストタイプごとの英文の紡ぎ方の定石をテクストタイプごとに「決め打ち」でもいいので習熟しておくことで、「書き出し」までの労力が随分軽減します。さらに、教師の側から見て、フィードバックを与える足場がはっきりと見えてくることも大きいのです。

予想テーマで誰かが書いた「模範解答」をどこかから調達して暗唱させるような指導をして、その場凌ぎをしていると、「英文ライティング」の観点では、unlearnするのが大変になるのではないかと危惧します。誰か他人の書いた「模範解答」の暗唱ではなく、自分の立論での道筋をこそ「決めておく」ことが重要ではないか、と問いかけ続けて既に20年近くが過ぎました。

言い換えや説明では済まない、キーワードとなるテーマ関連語彙が掌中にあることが重要なのはいうまでもありません。最終的に教師が見せられる「適切な解答例」を用意することも大事ですが、それ以上に、個々の生徒がドラフトを書く際に「言いたかったけど、うまく言えなかったことば」を丁寧に拾う作業が求められるのが、ライティングの「現場」なのです。

これまでにも、「英語の流儀」でのライティングや論理・表現を説く教材はあったのですが、そのほとんどが絶版となっているのが残念至極。指導される方は、中古市場であれ、現物が手に入るうちに手元に置いておくことを薦めます。



ここに写真をあげたもののうち、阿部智行『高校生からはじめる自由英作文演習』(2013年、デザインエッグ)はオンデマンド本で入手可能です。

このブログの過去ログや私の「呟き」、さらには密林レビューなどをお読みになり、

  • 良い本、教材があると言っても、みな絶版ではないか!
  • そんなことをいう前に、自分でもっと良い代案を出せ!
  • 同じ土俵に上がって戦え!

などと諫言してくださる方もいらっしゃいます。
いえ、もう既に私の教材も指導案も世に出しているのです。ただ、それはこちらの土俵での話し。私は日々私の土俵、私の実作の現場で尽力しているのですよ。

まあ、GTEC Writing Training が高校生に広く使われる前に終わってしまったのは残念ですが、この講座を受講された先生方や、私が講師を務める研修会で、このテキストを配布して解説した時の受講者の方々には、「種」は蒔かれたと思っています。

現在入手できるものとしては、私が共著者として関わった、

  • 『パラグラフライティング指導入門』(大修館書店、2008年)

パラグラフ・ライティング指導入門―中高での効果的なライティング指導のために (英語教育21世紀叢書 17)

パラグラフ・ライティング指導入門―中高での効果的なライティング指導のために (英語教育21世紀叢書 17)

があります。

ライティング指導・研究の第一人者、大井恭子先生が編著者となっている教師用の指導概説書です。高校生だとかなり習熟度の高い生徒でないと、自学自習というのは難しいと思いますが、大学生や一般の方で、普段から英語を読んでいる方であれば、自学でも十分こなせるでしょう。概説の部分も、取り上げられる活動例も中学段階の指導から使用可能です。高校2年生くらいを指導する場合でも、必ず中学校編から始められることをお勧めします。

大学入試編で扱った入試問題は2007年くらいまでのものですから、「入試対策」の即効性を求める方の中には、もう少し最近のものも扱って欲しいと思う人がいるかもしれません。が、それほど心配する必要もないと思います。出題年度が新しくなり、問題が増えたとしても、これまでにない新たなテクストタイプの英文を書くことが求められているわけではないからです。「完成する英文のテクストタイプ」と「そのテクストタイプの英文を産出するためのアイデアジェネレーション」とを結びつけているところが、他の教材や指導法と、私のシラバスとの最大の違いですので、その部分を押さえて指導しておけば、あとは過去問演習をする際にも、同じ視点で問題を見れば良い訳ですから、新しい問題を殊更求めることもないでしょう。改訂のチャンスがあれば、より良い例と差し替えたり、より典型的な例を追加したいとは思っています。
図書館で借りるのもいいですが、どうぞ、お買い求め、お使いください。(私の印税分は、復興支援のために寄付させていただいております。)




本日のBGM: Love and dreams are back (Flipper's Guitar)