Odd Ones Out あるいは The best is yet to come.

tmrowing2014-01-19

ユーロ終了。
いや、フィギュアスケートの話です。
2014年のヨーロッパ選手権が幕を閉じました。
女子シングルは、リプニツカヤ選手が初出場、最年少での優勝。SPで首位に立っていたソトニコワ選手は、フリーでジャンプ、スピンにミスが出て二位でした。女子に関しては、ソチ五輪のロシア代表はこの二人で決まりでしょう。
問題は男子シングルです。コフトゥン選手がSPのジャンプで痛恨のパンクで後退。ヴォロノフ選手が、SP、LPと男前な演技を魅せ、2位に、そして驚くべき「フリー番長」、メンショフ選手が、フリーで会心の跳び&滑りで3位になり、表彰台へ。
ロシアの男子代表1枠は一体誰になるのか?
21日に、プルシェンコ選手のテストがあるそうです。
大人の思惑というか、「謀(はかりごと)」が動いているように感じます。
この競技のファンのひとりとしては、アイスダンスで、Victoria SINITISINA / Ruslan ZHIGANSHIN 組が4位に入ったことが嬉しかったです。シニアに上がって2年目でしょうか。初出場での4位は立派。このヴィクトリアの活躍で、同期のアレクサンドラや一つ歳下のアンナがさらに伸びてくれることを期待します。

さて、
2014年の、通称「センター試験」の本試験も終了しました。
今年も、リスニング機器の不具合を取り上げているメディアがありました。被害にあった受験生は本当に気の毒だと思います。しかし、製品の初期不良と考えてみると、50万台の新品の製品が出荷されて、100台弱の初期不良というのは、他のオーディオ機器や電化製品、一気に出荷するiPhoneのようなものと比べた時に、そんなに酷い割合なのだろうか、と思うのです。
そんなところよりも、「適切に学力が測れる出題」であったか否か、にこそメディアも注力してほしいものです。
英語の問題から気になった出題・設問を取り上げます。
巷のセンター試験速報や解説のように「解法」を示すものではありませんので、ご理解の程。

空所補充完成で、空所が二つになった、15番から17番を「新傾向」としているようですが、形式が新しいことよりも、「何を問うているのか?」を考えて欲しいと思います。私はテスティングポイントの散漫な愚問だと思っています。
一番酷いのが15番。whoの直前に目的格の代名詞themがくることはあり得ないのだから、このような、「英語ではない語と語の並び方、結びつき」を学習者の目に触れさせないでもらいたいものです。問題演習をやればやるほど、英語の感覚が麻痺してしまうのでは、と危惧します。
16では、最初の空欄の右にあるもの語句を見て spent という「語形」が過去形か -ed/en形かの判断を求める時制・相の問題ならまだわかります。しかしながら、選択肢は everとonce。spentが過去形であるなら、そもそも、この空所には副詞を入れる必然性はありません。
17番では、最初の空所ではイディオム・成句の知識を求め、2つ目の空所では、意味・論理のつながりを表す語句の知識を求めているようです。

  • make (both) ends meet

は市販の『熟語集』にも収録されている頻出の成句なのでしょうから、そこを問えばいいと思うのですが、2つ目の空所で<順接>というようなつながりが分かるためには、そもそもこの成句を知らなければならないわけです。最初の空所が分からない者にとって2つ目の空所に何を入れるかは分かりようがないのですから、2つ目の空所も機能していません。
空所の片方では語彙・語法を、もう片方では文法や談話能力を、などと欲張って作問する意図でもあったのでしょうか?だったら、そのような出題の数を増やせば済むだけです。
この「新傾向」問題を見て、来年度に向けて、一つの文に、複数の「入試頻出とされる」表現を盛り込んだ問題集や例文集が世に出回らないよう願っています。

ここ何年か続いている、「未知語と想定された語(句)の意味を文脈から推測する」問題にも一言。
私は、この問題は「どうせ知らない語句」なのであれば,空所補充でいいじゃないか、と思っています。
これって、空所補充にすると測定する英語力は何か変わりがあるのでしょうか?空所とした場合の前後の語句との適切、自然な結びつきが損なわれるでしょうか?
もしそうだとしたら、この設問で「同義」として言い換えていることは妥当なのでしょうか?
テスティングの専門家の意見が聞きたいです。

ちなみに、今回出題の28番。

  • (to) get cold feet

は私が高校2年生の頃ですから1980年代の初頭、松本道弘氏の著作を読んでいて知った表現でした。

生徒にはよく言うのですが、第3問まででいかに無駄にエネルギーと時間を使わないかが大事です。私の現在の英語力とテスト対応力だと第3問終了までに、イライラしながらもだいたい15分前後で通過しています。残り時間を考えると、第4から第6問を65分かけて終えればいいのですが、実際は30分から40分でしょうか。トータルでも60分 以内には終わります。自分自身が受験生だった時は共通一次でしたが、余る時間こそ差はあれども、その時でも同じようなペース配分で解いていたと思います。

今回の「新傾向」の出題として、英語の文と文の「つながり」と「まとまり」を見る問題が出たことは、何年も「つながり」と「まとまり」の理解習熟を叫んできた者の一人として喜ばしいと思います。ただし、今回の出題は作問としては稚拙でしょう。
とりわけ30番。
冒頭で疑問文の形でテーマが提示され、続いて下線部1の文。そして直後の文は Howeverで始まっているのです。

Which do you prefer, living in the country or in the city?
According to a United Nations survey, half of the seven billion people on this planet are living in the countryside.
However, more and more people are moving into urban areas.

当然、下線部1は省けないのだからここに下線を施す意味がないでしょうに。

この出題に対して、

  • 「補充完成」ではなく、「不要なものを省く」ということに何の意味があるのか?

という批判は、この出題を読解問題、内容理解という視点からしか見ていないわけで、的外れなものでしょう。これは「ライティング」の代替問題として極めてcommon でpopular な出題形式です。
もう廃講座となったGTEC Writing Training (ベネッセコーポレーション、2006年) では、第2章のDescriptive Writing の課題として、p.47 で、4つの文章で練習しています。私の教えている高3のライティングのクラスでも2学期のはじめに通過しています。


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追試験はもう作成済みでしょうから、来年度以降の作成チームの奮起に期待します。
もっとも、一番心配なのは、来年度からの「模試」なんですけれど…。
現場の高校英語教師、そして高1の担任として危惧するのは、来年度以降の模試と教材で、このような「新傾向」問題の劣化コピーのような設問に曝されることです。被害を未然に防ぐには近寄らないのがいいのですが、そういうわけにも行きません。お願いするか、祈るか以外にできることは、「英語力」をつけることですね。

で、読解問題と呼ばれる類の出題が第4問から第6問。
第4問のA。「図表・グラフ」を使った出題では、最後の設問。

  • What topic might follow the last paragraph?

が目新しいものとして注目されたようですが、この手の設問は、EFL/ESL の読解教材では私が高校生・大学生だったころから極々一般的なものでしょう。この設問でも、求められているのは、「主題」を把握し、「つながり」「まとまり」を整合させる英語力といえるでしょう。
私が高3の時に使っていた「教材」でも扱われていました。(過去ログ参照→http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20050307)


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それよりも何よりも、一番気になったのは、第6問です。

  • 読みにくかった。

とにかく、英語のリズムに乗り切れないまま、「うでうで」と進んでいく「英文(と読んでいいのか訝しく思いますが)」でした。
某、予備校の概況・解説で、この第6問の読解問題の主題を
「オーディオ機器の利便性と音質の向上」
としていましたが、私がジャッジならそれには「e」をつけると思います。
何のためにタイトル

  • Listening Convenience and Sound Quality: Is There Another Priority?

は疑問文で提示されていて、「another priority が存在する可能性」にスポットライトが当たるようになっているのかが、結局は分かっていないということになります。設問でも、この部分を問うべきでしょうね。

第一段落で「主題」に関わる要素を打ち出したいということなのだと思いますが、

  • よりgeneral な情報 → よりspecific な情報
  • 抽象度の高い情報・上位概念 →具体化・下位概念
  • 読者との前提の共有 → 筆者が狙っている焦点
  • 既知・周知の一般論、またはそれまでに記述したことのまとめ → 新情報・強調したいことがら

といった「流れ」がいたるところで滞るように感じます。
誰がベースとなる原稿を書いたのかが気になります。書下ろしとするならば、英文ライターとして「?」が、何か、もっと長大なコラム記事をトリムしたのであれば、その「センス」に「?」が浮かびます。

英語が「わかる」「できる」受験生は、最後の52-55 番の設問で戸惑ったのではないでしょうか。
各段落の「小見出し;タイトル」が与えられているのですが、これが本当に本文に基いているのか、本文を集約・要約しているのか、不安になります。

「センター試験」での最後の読解問題は、数年前に「小説・随想」を排し、expository またはargumentativeな文章を使うようになりました。

「文法訳読」「英文解釈」「文学鑑賞」を排し、「コミュニカティブ」な reading skills を測定したい。そして、その波及効果として、大学入学以前に身につけて欲しい「読解力」についての「メッセージ」を送りたい。

という「モダリティ」は理解できます。私も歓迎します。だからといって、今回のような「英文」を読まされて、それに基づき「読解力」の有無、適否を図ることには頷くことができません。

「文法訳読」「英文解釈」、さらには、「和文英訳」を排する・廃するのは結構。しかしその後で、それに代わるものとして用いられた英語力を測る試験の形式が、どの程度発達、成熟して豊かになったか、本当に落ち着いて考えて欲しいものです。

今後数年で「センター試験」を廃止した後、それに取って代わる試験をどうするのか?何によって「英語力」を測るのか?

現場では「謀」にばかり、付き合って入られないのです。

本日のBGM: 一回休み