東西奔走

まさに師走。
まずは東から。
上智大で開催されたシンポジウムの大まかな流れは、「好青年ムラタ君」の手によって、まとめられていますので、是非参照して下さい。
http://togetter.com/li/597415
今回の私の上京の目的は、第一部の「高校入試」の分析でした。チームリーダーは静岡大の亘理陽一先生。全体を仕切るのは、世に言うG大、東京外語大の根岸雅史先生でした。

  • 高校入試分析から考える中学校3年間の指導

と題された事例発表として、一番しっくり来たのは、奥住桂先生の取り上げた「ライティング」の指導。

なぜ「良問」と言えるのか?という、設問を見る「観点」も納得のいくものでした。また、そのような出題に対応できるように、中学段階の3年間、どのようなバックワードデザインで授業や試験を組み立てているか、よく考えられていて流石だなと思いました。特に、印象に残ったのは、中1の教材で使われるダイアローグを素材として、中3では「3人称によるナラティブ」を書かせる、というアプローチ。奥住先生に見えている世界、そのライティング観とでもいうものを、多くの英語教師に共有して欲しいと切に願います。個人的には、先月の山口県英語教育フォーラムでお招きした山岡大基先生、奥住先生と一緒に何か「ライティング」で、できるといいなあ、と漠然と考えています。
一方、「リーディング」に関わる出題・設問の分析には違和感が残りました。
素材文、設問から日本語を排除したからといって、必ずしもテスティングポイントが明確になるわけではありません。また、「注を付けないことで、その注から内容が推測できてしまう欠点も排除できている」というのは、あまりに形式だけを気にしすぎているように感じました。
設問の場面設定など、日本語が使われていないことは、プラスにもマイナスにも働きます。注をつけないことも同じです。マイナス面としては、英文の「質」がより問われることになり、語彙・構文といった制約の厳しい「公立高校入試」では、作問の難易度、「つくる側」の苦労が増すことになります。
もう一つ、2つのインフォーマルなやりとりでのメール文を読ませて、その二つに跨る情報が理解できたかを問う設問を「良問」としていましたが、これもプラマイ両面があります。

  • メール1も、メール2も読めて内容理解ができた。
  • メール1は読めて理解できたけれど、メール2は読めなくて内容が分からない。
  • メール1は読めて理解できたけれど、メール2は読めなくて内容がわからない。
  • メール1も、メール2も読めなくて内容が分からない。

のうち、4番目は論外とする人が多いでしょうが、2,3番目の受験生の「読み」は、測ることができないわけですから、その個々のメールの理解を、その設問以前の設問が適切に測っているか、ということと合わせて評価すべき事柄だと思います。
また、このメールの英文は非常にインフォーマルなものでしたが、設問では、名詞節や不定詞句が組み合わさって使われていて、「ことがら」を表す、表現形式という観点で言えば、メールの英文よりも、設問の選択肢の英文の方が難易度が高いという印象を受けました。
2013年の神奈川県の出題。
メール1の名詞節は次のようなもの。

  • I’m happy to hear that you will come to Japan again.
  • In your e-mail, you say that you will come to Japan with your family and stay for one week.

メール2には名詞節は出てきません。
設問の英文は以下の通り。

Question: What can you say from these two e-mails?

1. Sachie asked Amanda to tell Sachie about a movie Amanda wants to see.
2. Amanda asked Sachie to tell Amanda about a popular Japanese movie.
3. Sachie is happy to know Amanda is going to visit Sachie’s school again.
4. Amanda is happy to know Sachie is going to see Amanda in Osaka.

質疑応答の際に、「高校入試を作る側からのコメントをしてくれる人」がフロアで求められていたので、私がコメントと意見を述べました。その際にも指摘したことですが、「ことがら」をどのように表しているか、高校入試の素材文は見直されてしかるべきだと思っています。
確かに、「総合問題」と称する出題・設問で、英文に様々なトラップが仕掛けられているものよりは、スッキリ読めて、内容理解のみが問われる、というのは潔いとは思いますが、その形式故に良問であるとは言い切れないように思います。
指導事例で、「好ましい」「望ましい」ものとして上げられていたのは、「推論」や「発問」といった今風のものでした。

  • 受動的から能動的な読解活動へ

という部分では、

黙読によって発見する
過去の経験を思い出す
次に起こる場面を予測する

が好ましいのだそうです。

  • 分析かつ統合的な読解指導へ

では、

・タイトルから内容を予測させる
・キーワードからブラインストーミングを行わせる
・バラバラになったパラグラフを並び替えさせる
・Topic sentenceとSupporting sentenceとのつながりを考えさせる

がいいのだとか。buzzwordsで流されては困る内容なので、いくつか指摘しておきたいと思います。
まず、「ここであげられた活動をそのままテストすることは難しい」ということをよく考えないといけないと思います。学習者に求められる好ましい言語活動の極々一部分をテストする、または形を変えてテストすることで、どのような言語能力、運用力を持っているかを「推測」しているわけです。

<次に起こる場面を予測する>というのは、私も高校生への指導でよくやっていますが、日本語でさえ「話型」が貧弱な生徒たちにとって、「次」の前段階の、「そこまで」が読めていないことのほうが圧倒的に多いわけです。で、うまく予測できたとしましょう。その予測を、the target languageである「英語」でできる生徒はどのくらいいるでしょうか?ましてや、「タイトルから内容を予測」するのは、至難の技です。この指導が効き目を発揮するためには、その逆の「内容からタイトルを作る」という活動・作業が前提となるでしょう。
キーワードからブレインストーミングを行わせる、というのも、そのキーワードをすべて使って、2通りとか3通りの英文を用意しておいて初めて、後出しジャンケンではない、「意味のある読み」の活動になるように思います。
トピックセンテンスとサポーティングセンテンス (一般には複数でしょうけれど) とのつながりに関しては、高校入試の英文も中学校の検定教科書も、再考の要がある英文が見られるように思います。
このブログではかねてより、

  • より良い英語でより良い教材

と主張してきました。
今回のシンポジウムは、切り口こそ、「高校入試」で、「テスト」です。しかしながら、そのテストを受ける生徒たちがどのように英語に触れ、身につけていくのか、振り返り、学ぶのか、ということを考えるときに、「教材」「素材」が一番大切だという思いが一層強くなりました。

午前のまとめの段階で、根岸先生のボヤキが強烈に印象に残っています。私には全く笑えませんでした。

  • 好きなように作っていいということでできた会心作の英語教科書が、ほぼ採択ゼロ。

根岸先生が関わっていた、旺文社のPBシリーズのことだと思います。私の勤務校の来年度の高3リーディングでは、PBを採用しました。資料的価値を求めての採択です。PBシリーズのライティングはこれまで3校で使ってきましたが、リーディングは初めて、そして最後になります。感慨深いです。
私の尊敬する英語教師のお一人、K先生は、前回のエントリーをお読みになって、次のようなメールをくれました。

公立高校入試の長文は、福祉、国際理解、海外支援、人権問題 (老人、障がい者、マイノリティなど)といったテーマを扱うことが多いというか扱わざるを得ないという縛りもありますね。ストーリー性が消滅してしまってますね。出版業者が作る「高校入試練習問題」「高校入試模試」の英文はもっとひどいのです。公立中の生徒はこういう英語長文を読み過ぎて英語の感覚が悪化するように思います。指摘にあったような不自然さがあるので、英文を素直に読んでいく習慣がつかないのです。長文を読む楽しさも見失ってしまいがちです。(中略) 公立中で一番与えにくいのが良い長文教材です。入試過去問を集めた問題集は安いですし、読解練習用とされる問題集も安いですが、いい英文を集めた教材はあまりないのです。こういう入試用長文を我慢して読み続け、高校に入学すると全く異なる英文(教科書の英文)が待っています。中学段階で読む英文と高校で学ぶ英文が違いすぎます。たいていの生徒は驚くでしょう。高校の教科書の英文も多少は問題があるにせよ、中学で出会う英文ほどには不自然なものではないですから。これでは中→高と英語学習は連続しません。中高連続をどう作っていくかが大切だと思います。1つは中学生に良い長文をたくさん与えることです。中学生向けのリーディング教材が開発される必要があります。また、生徒が家庭で自由に読むための長文が教科書の付録でついていればいいのにと思います。教科書の価格をせめて国語の教科書並にしてくれれば資料として長文もつけられるだろうと思います。中学の英語検定教科書は1冊わずか290円位です。文科省は中学3年間に1人1000円以下の教材しか与えていないのです。

午前の部を終えて、このメールの返信の返信でK先生が仰っていたことを反芻していました。

  • 中学校の英語教育は教材の英文の質がもっと問われるべきです。お粗末な文をたくさん読んでしゃべってどのような力が伸びるというのでしょう。

シンポジウム後半は、いずれまた日を改めて書ければいいなぁ、と思います。

さて、
期末テストが始まり、作問祭りと採点天国の合間を縫って、西へ。

  • グランプリファイナル福岡大会

試合のチケットはことごとく抽選漏れで、「公式練習」のみが手に入ったので、本業の今シーズン公式戦の分で代休を取って行ってきました。
朝6時40分から並んで、最前列確保。会場内は撮影禁止。最前列でフェンスの直前に座っていましたので、監視の目を縫って撮ることもままならず。ルール遵守で終日観戦。濃い一日でした。
キム・ヨナ選手の欠場で、見に行く心は折れかかっていましたが、まさかのロシア大会コストナー二位で、ラジオノワ選手のGPF出場となり、今見ておかないと、ラジオちゃんがあと3〜4年、成長期を無事通過できるか何とも言えない、という思いで行ってきた次第。
埼玉から通し券 (!)で見に来ていた女性と、熊本から仕事を休んで昨日からネットカフェに泊まって私の前で開場を待っていた女性と一緒に、3人で和気あいあい楽しく過ごしました。埼玉の方は浅田選手、熊本の方は羽生選手の大ファンとのこと。「私は、ラジオちゃんイチ推しです」といったら笑っていました。
ラジオちゃんは紫の上下つながったスーツで可愛らしさ爆発。元気は元気でしたが、ワグナー選手とぶつかりそうになって、コーチのところに避難しに行ったところなど、まだまだ緊張しまくっていました。
アイスダンスではデイヴィス&ホワイト組の素晴らしさに溜息。その後では、あまりに見劣りするだろうと思われた最終セットは普段日本の地上波ではカバーしないジュニアのアイスダンス。その技術、洗練された身体操作、魅せる力、とにかく度肝を抜かれました。
ロシアのAnna Yanovskaya/Sergei Mozgov 組のスケーティングがジュニアとは思えない程強く圧せていて、まさにglideという感じ。エッジも深く、それでいてエレガント。今回、おそらく日本の放送ではお目にかかれないでしょうから、ネット配信か、動画のアップに期待。
ロシアのジュニアの層はとにかく分厚かったです。ジュニアのペアではロシアの他にも、中国の女子選手 (Xiaoyu Yu) が抜群のプロポーションで、目が釘付けに。日本は次世代、本当に勝負できるのだろうか?という思いが強まりました。
FBにその晩書いたコメントが次のようなものでした。

あくまでも私の主観ですが、女子シングルは、浅田選手とソトニコワ選手が好調、次がリプニツカヤかな。浅田選手は曲をかけての通しではSPでしたが、その後はLPからもいれていて、3+を4回ほど成功させていました。ソトニコワは、もう、滑りたくて跳びたくてという感じで、勢いが一番ありました。
男子は、パトリック・チャン、羽生選手が好調。織田選手が絶好調。町田くんは気魄で滑っている感じ。まだ、完全には回復していないかも、という感じでした。
浅田選手がいつもオープニングで3+を入れるエリアの正面から観客で埋まって行きました。私と順番待ちで仲良くなった3人組はその逆エリアで、選手とコーチのやり取りが見やすいところに陣取りました。浅田選手は、いつもとは対角線側の、ジャッジ側に向かって、3+のコンボを練習していたように見えました。 3+のランディングが詰まってしまったのであまり連続という感じはしませんでしたが、フリーでいれるつもりなのかもしれません。
ソトニコワがSPでピークが来てしまって最後まで持たないということがないように祈っています。リプニツカヤは上手いなあ、と思います。淡々とエレメントを確認していました。パゴリラヤは洗練された所作で、ソニアが高い評価だったことに納得。私のイチ推しラジオちゃんは、もう、来てくれただけ、氷の上にいるだけで十分です。

某局で地上波の放送が始まったのだけれど、相変わらず日本人選手の「物語」しか語らない。練習であっても、見るべき選手は、シニアにもジュニアにもたくさんいるというのに…。
男女シングルは、公式練習での見た目通り、男子はチャン選手、羽生選手の争い。相手がチャン選手だけに、フリーの出来を見るまでわからないと思っていましたが、フリーでも、羽生選手がモリモリとも言える点数で優勝。今シーズン、初めて「気迫」を感じた演技でした。おめでとうございます。

女子は浅田選手があたまひとつ抜けていますが、二位につけたのはやはり練習の段階から勢いのあったソトニコワ。ラジオちゃんはランディングがちょっと詰まってしまったけれど、笑顔で帰ってきてくれて良かったです。
ジャッジパネルに言いたいことは多々ありますが、スコアに一喜一憂したりするのではなく、的確な言葉でこのスポーツを語る人が増えてくれることを願っています。ファン同士が憶測から誹謗中傷をするのは悲しいものですから。選手の皆さんが、より良い演技をしてくれますように。
本日のBGM: フィヨルドの少女 (大滝詠一)