「オベリベリの魂」

この夏の私のテーマは、

  • スピリットの継承

に決まりました。
本業の自チームは、狂おしい日々が続きますが、正業の方は、進学クラスの夏期課外講座。今年は、高1と高2を担当しています。
高1は、とにかく、1学期にやったことの徹底。ということは、中学英語の徹底ということです。
「ドリルメニュー」の日→英、Read & Look up、対面リピートのチェック1クラス分で90分まるまるかかります。まだ、若干名、「口先だけ」で発音している者がいるので、腕立て伏せをやらせたり、壁押しをしたり。
週明けは、「対面リピート」のみに数を絞ってチェックの予定。

高2は、もともとは『コーパス口頭英作文』を1学期にやる予定だったのです。ところが、残念なことに絶版になってしまったので、卒業生に寄贈してもらったもののうち、コンディションの良いものを選び、私の家にあった数冊を加え、著者でもある浦島久先生の学校に残っていた新品3冊を購入して、なんとか使用可能な環境整備。やることはといえば、「意味順」とのコラボで、ノート作成。スラスラできるものはいいけれども、

  • Where are you?
  • Where are you from?

など、本当は悩み所というか、「ここって、ホントは痒くないですか?」というポイントが隠れていたりするので、それに気づくかも知れない作業となります。改めて、このシンプル極まりない、例文の精選と配列に唸って下さい。そうそう、音声CDも、<日→英→ちょっと早めの英>の順に吹き込まれていて、ポーズの設定も絶妙ですから、CDだけでもトレーニングやチェックができるのです。初版は2007年ですから、僅か6年前なんですけどね。教科書も、市販の英語教材も、その「製品の良さ」と、「売り上げ」って一致しないものです。いつだか、誰かに「研究者の人気や知名度と、その人の研究の価値」について、似たようなことを言われた記憶がありますけれど。
高2の課外講座では、『話せる音読』も1つずつ扱っています。
この教材も構成が良くできています。「話形」と「要約」を少しずつ。表現の言い換えをパターンで覚える前に、キーワードの抜き出しで、そのキーワードから何を聴き取るか、読み取るか、ということに焦点を当てています。
例えば、

  • influence

という動詞は、その後、affectとか、effectなどといった表現に言い換えられて展開していくわけですが、まずは、influenceという1語から、

  • A がBに働きかけをして、その結果、BはCへと変化する。

というような「文脈」を想起し、聴き取った・読み取った内容・情報から、ABCそれぞれを再生する練習をしています。再構築の前に、キーワードからの再生と言えばいいでしょうか。そう考えて、これは何かに似ているな、と思いだし、授業で新たに加わったのが、

  • ディクトグロスとイカソーメン

いやあ、楽しい楽しい。
iPad miniで動画撮影し、記録しています。
素材文は、「英検3級」と「英検準2級」で出題された英文で、公開されているものを主として使っています。今のところは60語から、90語くらいまで。当然、種明かしの後は、シャトルランです。掲示する英文には、私の朱書きで、一連の記号付けがなされていますから、処理と保持 (リテンション) の滞るところが、どこなのか、なぜなのか?を考えてもらう機会にもなっています。去年、彼らを教えていた時は、1年後に、こんな活動を授業でできるようになるとは思っていませんでしたが、成長しましたね。
表現や文法で重要なところも、押さえてはいるんですよ。
春期課外で手つかずになっていた、

  • ifの3タイプ

では、ホワイトボードに、タイプ2とタイプ3の例文を、学級文庫の辞書から抜き出し、

  • ヨコのモノをタテのモノ

にする課題を課しています。
タイプ1は、「雨天順延」などの「成り行き」、

  • If it rains tomorrow, the game will be put off.

タイプ2は、

  • What would happen to your children if you died in an accident?

などの、「現実離れ」、所謂「仮定法過去」。
タイプ3は、

  • You wouldn’t have fallen sick if you had taken a better look at the date.

という、「時の遡り」で、いわゆる「仮定法過去完了」。
流れ図を二つ書いて、「現実」や「過去の事実」から、「仮想のライン」の上流に流し素麺、といういつもの手順です。類例をディクテーションして、それぞれ主節、従属節の「とじかっこ」を確認。「番付表」の有難味に気づく時でもあります。
日に日に、例文が増えていくのを見るのは楽しいですね。かなり例文が増えてきたところで、『if本、三部作』と私が呼んでいる三冊を渡して、さらなる例文の増強を企てます。まあ、私の目論見というか、欲目が強くて、top-downでいくとたいていは失敗しますから、様子を見てはバージョンアップ!くらいで調度でしょうか。過去ログを見ると、先輩達が何をやってきたかの、記録も読めますのでね。
「仮定法」って、練習問題で英文をいくら完成してもダメだし、直説法との書き替えをいくらやってもあんまり良いことは起こらないように思っています。以前、『ルイちゃんの英文法』の引用をしたことがあったかと思います (http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20120112) が、先程の例文で言えば、

  • What would happen to your children if you died in an accident?

なら、「こどもたちのことを考えて、安全運転でお願いします」といった、気持ちを引き出せるかどうか、

  • You wouldn’t have fallen sick if you had taken a better look at the date.

であれば、「自業自得だよ」という窘め、叱責を感じられるか、を授業では大事にしています。

  • もしその「肝」が欠落しているとしたら、「和文英訳」で作文をゴールに据えたところで、文法が「使える」ようにはならないでしょう。

という日本語は、どう英語にしましょうかね。

高3は別な教員が担当しているので、この夏は傍観。夏の間に、『即戦力のつく英文ライティング』を徹底的に読み、書けとは指示していますけれど、まあ、夏は読みでのインプット総量を上げてもらう方がいいでしょうね。1学期末の課題で、絵に基づくナラティブを書いてもらいましたが、これを機会に、

  • 物語文 (=narrative passages) で用いられる接続詞・つなぎ語

の改訂をしておこうと思います。これは、以前のクラスで、同じ題材で書かせた生徒の「ドラフト」に朱を入れる際に、用例を採取しておき、それぞれ私が「適切な」英文に修正した後で、一覧の形で、分類整理したもので、全ての例文が「ある物語」の描写になっている、というものです。

  • 時を表す副詞節中では、これからのことも現在時制で表す。

などというルールを、例文を見た瞬間に、「ああ、あの場面の、主人公のセリフになるんだな」と実感できるように仕掛けています。

さて、
このブログでは、私の正業の授業日誌、本業の練習や大会情報以外にも、いろいろなネタを扱っています。
前回までの2回は、『ニューズウィーク日本版』の<TOEFL時代>という切り口の特集を取り上げました。
iBT TOEFLのようなテストを日本で導入するとした場合、受験会場には当然1人1台の「端末」が必要になりますから、IT関連企業にとっては大きなビジネスチャンスです。テストの開発・実施をする業者、会社も同じことでしょう。少子化とはいえ、18歳人口は約100万人。複数回受験や2年生から受験可能となれば、どれだけの受験料が動くことになるか、想像するだけでもワクワクする人たちがきっと躍起になっているのでしょう。その意味では、ETSに全部持って行かれるTOEFLの導入よりは、「日本生まれのテスト」を開発したい、という欲目はよく分かります。でも、所詮「欲目」なのですよ。同じ欲目なら、

  • 日本の高校生全ての英語力を上げたい。

という国を挙げての総論よりは、

  • 目の前の、この生徒の英語力をなんとかしたい。

という教室での切なる願いに耳を傾けたいと思います。

  • 「話すこと」をきちんと評価する。
  • 「書くこと」をきちんと評価する。

というのは、たとえ大学入試がなくても、日本の「英語教育」界が考えて、実行に移していなければならなかった「命題」でしょう。では、「話す能力」というのは、いったいどのような発達段階を辿っていくものなのか?では、「書く能力」というのは?
それぞれの「技能」で、まだまだ研究では明らかになっていないことも多く、明らかになっていることでも、「教室」まではまだ浸透していないことも多いのです。そんな中で、テストだけ変えたところで、「教室での授業での外部テスト対策」が増えるだけでしょう。
私の中の優先順位としては、テストやコンテストなどのイベントに頼らない「話すこと」「書くこと」の評価を、授業・シラバスに位置づけることの方が余程大事で、TOEFLなどの外部テストの導入というのは、全員に一律に課すべきモノではないと思っています。
「そのうち、それなり」を弁えた中で、「それぞれ」がベストを尽くす教室を目指すのが私の欲目です。

そんなこんなで、TOEFL絡みの喧噪に辟易している時に、この方のブログ記事を読みました。

emi’s: 「見えない言語」
http://emisblog.exblog.jp/18151915/#18151915_1

またしても「胸に刺さった」記事でした。

本日のBGM: 抱きしめたい (benzo / benzoの場合deluxe edition)