放浪と報労と

試験前の授業も最後の1日。
看護科高1は「動詞と目的語」。
留意点は、

  • 語順が日本語と英語では違う。(例: 英語を学ぶ  learn English)
  • 名詞の性質に注意を払い、目的語となる名詞を四角化して、動詞との意味の結びつきをイメージする。(例: イモを掘る dig potatoes、地面を掘る dig the ground、穴を掘る dig a hole)
  • 日本語には日本語独特の<動詞+名詞>の結びつきがあり、英語には英語の結びつきがある。 (例: お湯を沸かす、卵を茹でる、ガラスを割る、骨を折る、紙を折る、腕を組む)
  • 日本語のカタカナ語で定着しやすい英語は、名詞と形容詞なので、同じ語が動詞で使われている時に誤解しやすい (例: 炒める・揚げる ”fry” と、海老フライ、牡蠣フライの「フライ」; 身につけている ”wear” と、スキーウエアの「ウエア」)

あたりですかね。
高1進学クラスは、『短単』の講評というよりも「ダメだし」。
冠詞や数のミスのほとんどは、単に何かが「抜けた」ということではなく、「名詞」を実感できていないことが原因。「来る日も来る日も…」四角化をするのは、日本語と決定的に異なる「可算名詞」の実感を持つことが主眼なのです。四角化をして、その名詞を自分で「生きる」心構えが肝要です。

  • 言われたとおりのことを、全ての教材で、ひたすら行う。

という単純明快な学習法を取れるかどうか。「やらされている感」でストレスに感じてしまえば、学習の効果は激減です。
授業の後半は、『ぜったい音読・緑本』で、段落の基準時制を把握するための「とじかっこ」の使い方を説きました。読む時は簡単です。動詞、助動詞で時制の「目印」があるのだから。問題は、「耳で聞いても反応できていますか?」ということ。だから、音読→Read & Look up→「L板」なんですよ。今年の1年生は、ちょっと時間がかかりそうです。頑張りましょう。

高2の「リーディング」と「ライティング」もテスト前最後に一コマずつ。
『話せる音読』の活用法をじっくりと。今回は、「リーディング」で扱っています。

  • 音声だけ聴いて、タイトル選び。
  • 音声に合わせて読み、段落ごとにタイトル頁に戻って、キーワードの抜き出し。
  • 段落ごとに同じやり方でキーワードを抜き出す。
  • その都度、選んだタイトルの見直し。全体を貫く「統一した主題」になっているか、それともある段落だけに当てはまる内容か、またはタイトルの一部だけが該当していて、余計な情報がタイトルに入っていないかを見きわめる。必要に応じて、最初に自分が選んだタイトルを修正。
  • タイトルを確定してから、全文を通読。どこで「主題」がわかるか、それぞれの段落は「主題」に照らして見た時に、繋がっているか纏まっているかを考える。
  • 要約の部分は、どのように「自分の言葉」になっているか、Storyの該当個所と照合。「主題」に収束しているか、意見の部分は「主観的表現」。評価する形容詞と横綱の助動詞など「話し手の心的態度」に着目。「説明責任」を果たしているか、の確認。

という進み方です。
CDで音源がついているので、自学自習もできます。この二人のナレーターは、高2生がこの学校の高校入試で受験したリスニングテストの吹き込み者で、既にお馴染みの声です。
「呪文」のように音読を繰り返すのではなく、<意味の処理→再生>だけで満足するのでもでなく、要約と意見で<再構成>することで本当に力がつきます。
期末試験が終わったら、夏の課外が始まる前に残りの課を終わらせてしまうくらいの意気込みで取り組みましょう。
「ライティング」の時間は、「ゆるキャラ」ネタを扱いました。

  • クマモン

を説明するパラグラフでジグソーです。当初は、『ひらがなタイムス』の4月号にあった「クマモン」の記事を流用しようかと思っていたのですが、なぜか私の手元にその号だけ見あたらず。2,3年の教室で声を掛けて、バックナンバーを探してもその号だけなし。仕方なしに、自分で英文を書きました。その後、『4月号』を看護科一年の教室で発見!そうでした、看護科の英語教科書、第一課のテーマに合わせて、

  • Why do we study foreign languages?

という問いを発し、「日本語を学習する人たち」はどのように学習しているのか、というネタを提供するために、こちらの教室に『ひらがなタイムス』を一冊置いていったままだったのです。
改めて、『ひらタイ』の英文を読みましたが、比べてみると、自分で書いた英文の方が良かったので、授業ではそちらを使いました。

  • いつもの「イカソーメン」

で扱うには、ちょっと一文が長く、構文も難しめだったので、「暗唱」ではなく、「音読」で文整序。
iPadで録画しながら、フィードバック。「大まかな話題」が、どこで「主題」への切り口を見せるか、先程の『話せる音読』でやっていることの裏返しです。
整序完成後、自信を持ってひとりずつ音読してもらい、あらためて録画。
その後、ホワイトボードに全文を貼りだし、恒例の、

  • シャトルラン

で、自分のノートに書き写します。今日は結構走りましたね。
私の目論見としては、この英文をお手本として、新たな「ゆるキャラ」を描写・説明させる期末試験の問題作成だったのですが、ちょっと難しかったようなので、この英文は、「リーディング」の方で扱うことにしました。こういう融通の利くところが、同一クラスで異なる科目を担当している利点の1つですね。
それぞれの科目での出題範囲を確認し終了。
放課後は、自転車操業で作問2コマ終了。明日も作問祭りです。

さて、
次年度の教科書採択に向けて、各社の営業の方が頻繁にお見えになります。
試験前後でまだまだ余裕はありませんが、それでも、「きちんと読む」時間を捻出することが大事だと思っています。現任校では、「英語表現」は開講していませんが、「ライティング」指導にずっと関わってきた人間としては、次年度の「英語表現 II」の内容、構成、そして「英語そのもの」が気になります。

今日は、「呟き」でも少し言及した「平成26年度用教科書」を取り上げて、その「構成」と「ねらい」、表現の「プロセス」を考えてみたいと思います。

  • 『Vision Quest English Expression II』 啓林館、平成25年2月28日 検定済

著作者は野村恵造 ほか6名となっています。

  • Part 1 文をデザインする、Part 2 パラグラフを書く、Part 3 英語で発信する

という3部構成のうちの<Part 1>を取り上げます。
「この教科書の使い方」(pp. 5-6) でレッスンの構成、レイアウト、ねらいが分かるようになっています。
モデル文は「その課で学ぶ文法項目を含む60後前後の模範例文」とのこと。そして、これが、「レッスンの最後にあるGOAL! と同じトピックを扱って」おり、「GOAL! の解答を作る際の参考例文にもな」るのだそうです。
最終の課題である、GOAL! は、「60語程度のまとまった文章を書くための英作問題で、モデル文とトピックが関連してい」る、というのがこの教科書の「特長」のようです。そして、巻末には、この最終課題であるGOAL! の「解答例を載せて」いるのですね。
実際に、Lesson 1 (pp. 8-9) を見てみましょう。レッスンのタイトルは日本語で「お花見」です。
モデル英文は、インターネットのブラウザのような枠に書かれていて、その横には小さな写真ですが、桜並木で花がほころんだ様子が載っています。

When spring comes around every year, we enjoy viewing cherry blossoms. This custom is called hanami. When it’s sunny and the cherry blossoms are fully open, some people have parties under the trees, while others enjoy walking along rows of them. From a distance, cherry blossoms appear as pink-colored clouds. They are really beautiful!

私の使っているワードの文字カウントでは、54語でした。
突っ込みたいところが幾つかありますが、今回は、このモデル英文そのものへの注文はひとまず置いておきます。このモデル英文を踏まえて、見開きの左頁で、

  • 主語の決定
  • 見えない主語の発見
  • 主語の it

といった、「Study Points」で日英対比で例文を学び、
見開きの右頁の「Exercises」で、単文の完成問題に取り組むことで、1レッスンを学び、最後の課題となる、「GOAL!」へと到達します。
「GOAL!」の指示は次のようになっています。そのまま抜き出します。

GOAL! 節分、お花見、七夕などの日本の行事の中から1つを選び、60語程度の英文を書いてみよう。

この「お題の与え方」には、本当にビックリしました。いくら「トピックが関連している」といっても、この「お題」を与えられて、「お花見」を選ぶ生徒はどのくらいいるのでしょうか?もし、「お花見」を選ぶとしたら、冒頭のモデル文以外に、いったいどんなことを書けばいいのでしょうか?
20年前の「英語IIC」や10年前の「ライティング」であっても、

  • 冒頭の「お花見」のモデル英文を参考にして、お正月、節分、… 七夕などの、日本の季節にまつわる行事やお祭りの中から1つを選び、60語程度の英文を書きなさい。

というくらいのディレクションになっていたはずだと思うのです。

採択の材料として提供されるダイジェスト版として作られたリーフレットでは、次のような謳い文句で、この構成をアピールしています。

モデル文と英作課題が連動
モデル文 / GOAL! / 巻末の作文例の3つが連動しています。さらにGOAL! の1つ前の和文英訳も同じトピックを扱っており、自由英作のヒントになります。 (『高等学校 教科書のご案内 英語』、p. 39)

この著作者側が言う「連動」とはどういう意味なのでしょうか?
著作者側は、このGOAL! の1つ前に設定されている、「単文の和文英訳」の課題が、「話題繋がり」で、GOAL! に取り組む際のヒントになると考えているようです。どのように「ヒント」になっているか、見てみましょう。

1. 元日には晴れるでしょう。
2. 節分の夜には鬼に向かって豆を投げます。
3. 7月7日に七夕祭りが開かれます。
4. 7月に暑中見舞いのはがきを出す人もいます。
5. お盆に墓参りをする人が減ってきています。

どうでしょうか?「節分、お花見、七夕などの日本の行事の中から1つを選び、60語程度の英文を書いてみよう。」という、GOAL! での要求に応えられる「ヒント」として機能しているでしょうか?
巻末の「解答例」(p. 105) を見てみましょう。

Tanabata is a Japanese star festival held on the night of July 7th. People write their wishes on colorful strips of paper called tanzaku, and hang them on bamboo branches. According to a Chinese legend, two lovers, Orihime and Hikoboshi, are allowed to meet across the Milky Way only once a year on that night. What a romantic legend it is! (61語)

確かに、「七夕」という「話題」では繋がっています。しかしながら、先程の「単文の和文英訳」がヒントとして活かせるのは、

  • Tanabata is a Japanese star festival held on the night of July 7th.

くらいだと思います。それ以降は、全て、自力で内容構成を考えて書かなければなりません。
学習者たる生徒は、今回の「お花見」のモデル英文から、何を学びとる必要があったのでしょうか?そして、最終課題の60語という制約の中で、繋がりと纏まりを作るためには、どのような「プロセス」を経て、どのような「型」を踏襲して、英文を産出する必要があったのでしょうか?
モデル英文は、モデルの機能を果たしているでしょうか?GOAL! で最終的に作成する英文の満たす「要件」は、その前の課題やエクササイズ、練習問題、さらにはその前の、スタディポイントやエクスプレッションの各項目で徐々に明らかになっていたでしょうか?
今回取り上げたこの教科書の「レッスン1」では、そこが全く分からないのです。
やはり、レッスンの冒頭で与えられたモデル英文の、1文1文がどのような役割を果たしていたのか、という吟味が必要だと思うのです。
高校段階で、まとまった分量の表現活動を指導してきたベテランの先生方の中には、

新指導要領下では、「英語表現 I」の上に、「英語表現 II」を積み上げることになっているのだから、パラグラフの基本的な構成、1文1文の繋がりとパラグラフとしての纏まり、については「英語表現 I」で概略指導済みなのだろう。だから、「吟味」などとわざわざ言わずに、「英語表現 II」では、その先の指導に当たればよいではないか。何を、重箱の隅を突くような、揚げ足取りのようなイチャモンをつけているのだ!

とおっしゃる方がいるやもしれません。私も、普通ならばそう考えるだろうと思います。しかし、この出版社の「英語表現 I」は、「文法力の育成」を謳い、ほとんど「単文レベルの文法のドリル」が主体の構成で、「文法を使った発信活動」までが守備範囲だったのです。そのような指導の上に積み上げるには、些かというか、かなり無理があるように思います。採択に当たっては、単純な学年進行、持ち上がりで選ぶのではなく、「前年度までの指導の上に、何を積み上げ、どのような英語力をつけてあげられるのか?」を考え、内容を精査したいと思うのです。

私の「ライティング」指導は、今では時代遅れの方法論なのかも知れませんが、

  • 話題繋がりで英文を羅列してはいけない。必ず、繋がりがあり、1つ1つの文が主題に収束する、貢献するように書きなさい。

ということを徹底してきました。

今回取り上げた「英語表現 II」の教科書の著者に名を連ねているRichard Smith氏がまだ東京にいた頃、ライティングに関連して様々な取り組みを一緒にしてきました。1990年代後半、彼がELEC同友会英語教育学会のライティング部会の部長を務めていた当時、この研究部会が提唱していた「ライティング」の指導手順は次のようなものでした。(1997年 3月14日 東京外国語大学西ヶ原キャンパス 「第1回公開研究会」にて。研究部員: リチャード・スミス (部長)、古川法子、池野良男、稲垣晴彦、川崎清、鈴木利彦、岡田順子、坂口辰久、桐生直幸、和田朋子、ティム・アシュウェル、アンディ・バーフィールド、清水敬子、工藤洋路、松井孝志)

高校ライティング指導改善にあたっての9項目の提案
1. Stimulus (刺激)
• 学習者を引き込む仕掛け作り
• writingを必要とする状況設定とinputを与えること
2. Motivation (動機付けとその維持)
• 活動に personalization / personal involvementの視点を取り入れ、 学習者の成功体験を活かす
3. Preparation (準備)
• 目標設定、語彙指導、段階的なタスク設定、「学習法」の指導 (= learning learning) までを含む
4. Assistance (補助支援)
• 具体的な書く手順を示す、モデルを与えるなど、書く活動の「プロセス」に配慮した指導
5. Working (実践)
• 付随的ライティング活動も含めて、「書くこと」によって「書けるようになる」実践
6. Variety (多様性)
• 和文英訳と自由英作文の二者択一ではなく、多様な活動・タスクを与える
7. Feedback (反応・還元)
• 誤りの訂正から、より適切な表現へと導くreformulationへ
• peer responseも含めた学習者のreflectionを促す手法の導入
8. Extension (繋がり・発展)
• task-sequence、技能統合・技能間連関、科目間連携という3つの繋がりを視野に入れた指導
9. Evaluation (評価)
• 教室内評価の工夫。パフォーマンスの評価だけでなく、成長の評価も考慮する

この提案から、15年以上の月日が経ちました。
その間に、指導要領が大幅に変わりました。
教科書もそれに合わせて、大幅に変わったはずです。
では、今回取り上げた「教科書」ではどのように、どの方向に変わったのでしょうか?
90年代の「臨床の知」から生まれた、上記9項目に照らした時に、その半分くらいの項目で、今日取り上げたLesson 1の内容・構成・ねらい・活動には、「?」がつくように思います。
「パラダイムシフト」、とか「質的転換」とか、ラベルを貼って誤魔化すのはやめましょう。
「書くこと」「ライティング」の指導のレベル、クオリティは、現行課程の「ライティング」よりも、さらに、その前の「英語 II C」の頃と比べても、低下しているのではないでしょうか?
「英語表現」という科目は、「オーラルコミュニケーション」と「ライティング」の屍の上に立つ墓標でいいなどと誰も思っていないはずです。
今回取り上げた教科書も、たまたま、この「Lesson 1」の構成が良くなかったのでしょうか?後半のレッスンに進めば、「きちんと」表現のプロセスとプロダクトに、向き合った構成となっているのでしょうか?もう少し精査して、何か見るべき所があれば、また記事で取り上げたいと思います。「英語表現 II」全体の出版数は、「英語表現I」よりは少ないのですが、それでも今回まだ精査ができていない「英語表現 II」が多数あります。それらの教科書が、「英語 IIC」や「ライティング」を越えた、新たな時代、地平を切り開く志を持ち、それに適う内容・構成・表現・活動になっていることを期待しています。
過去ログでは、

http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20120517

も合わせてお読み頂けると幸せます。

繰り返すのはいつものことば。

  • より良い英語で、より良い教材。

そして、切なる願い。

  • より良い指導で、より良い表現。

本日のBGM: しらけちまうぜ (小坂忠)