「そして僕らは気づき始める」

週半ばの「中高連絡会」では、公開授業の参観があり、10名弱の中学校の先生が、進学クラス高1の私の授業を見て帰られました。ありがとうございました。英語の先生も若干名いらっしゃったようです。
公開授業では、四角化ドリルの復習から、Flip & Writeまで。8割くらいが生徒の活動。個人7割、ペア3割といった配分でしょうか。私の出番で一番大事なのは範読。そこは勿論英語ですが、解説や活動の指示は日本語です。この時期は、まだ「イカソーメン」も「ぐるぐるもどき」もやっていません。
<ドリルメニュー>と称して、次のような手順で行っています。

1. 各自で 日→英→Read & Look up 1枚につき、2分
2. 各自で自己診断、1枚につき30 秒
→ 自分にとって更なるトレーニングが不可欠というものを 5−8 選び、英語の方に、
色ペンで☆印をつける。この☆を「対面リピート」でトレーニング。
3. ペアで対面リピート 
英→英でのリピート、できないところは飛ばさず必ず、繰り返してできるように
4. ☆のついたものをFlip & Write
5. 各自で自己診断、1枚につき30秒以内で温度差を確認

ドリルメニューをやったところで、朝やるはずだった『短単』の小テスト。
今回の範囲の例文に含まれる、名詞句の限定表現、後置修飾のバリエーションを扱っている、「語順と結びつきのドリル」のワークシートに戻って復習。
・ その5 (形容詞の働きをする –ing形、 -ed/en形)


簡単な解説を加えた後、「対面リピート」まで。

  • 「必ず、英語の音、英語のリズムでトレーニング」

を強調。リピート中の生徒の音を拾い出して、板書でフォーカスすべき「調音」を明確にして、私の範読で斉唱、全体練習。
週後半の授業では、ここから引き続き、名詞句にこだわって復習。
予想外のトラブルで、今週の予定を全てカバーすることはできませんでしたが、いろんなものが「繋がった」瞬間を共有できたことでしょう。

その1 (目的語とは?)

  • イモを掘る dig potatoes、地面を掘る dig the ground、穴を掘る dig a hole、腕を組む fold your arms、傘をたたむ fold an umbrella などなど

その2 (動詞の次にくるものは?)

  • ビンのフタを開ける open the cap of a bottle、都心に住む live in the heart of the city、母への誕生日プレゼントを選ぶ choose a birthday present for my mother、長崎から神戸への旅に出かけるgo on a trip from Nagasaki to Kobe、その映画の始まりを見逃す miss the beginning of the movie などなど

その3 & その4 (名詞の後に続く to+原形)

  • 食べ物 something to eat、話し相手 someone to talk to、何か温かい飲み物 something hot to drink、初めて月に降り立った人 the first man to land on the moon、私を助けてくれる多くの友達 a lot of friends to help me、筆記用具 something to write with、次に考慮すべきこと the next thing to consider、住むのに最適な場所 the best place to live (in)、原子力発電所の建設計画 a plan to build a nuclear power plant などなど

文と文を作る要素との識別
その1

  • 私が一番好きなミュージシャン、私が今受け取ったばかりのカナダからの手紙、父が私の誕生日に買ってくれた新しい携帯、困ったときに私が頼れる友人、彼らが真央と名付けた赤ちゃん、などなど

その2

  • もう駅を出てしまった列車、その地震で亡くなった多くの人々、私に病院への道を教えてくれたおばあさん、私を嬉しい気持ちにさせた知らせ、などなど

『短単』より

  • Tom decided to buy the chair for her. と the decision to buy the chair for her、Mary caught three small fish at the lake. と(the) three small fish caught at the lake、Many leaves were blown by the strong wind from the east. とmany leaves blown by the strong wind from the east、The dog hid its bone under the seat. とthe bone hidden under the seat などなど

それぞれの項目を、ワークシートを縦半分に折って、日→英、Read & Look up、対面リピート、Flip & writeまで、2分とか5分とか時間を計って指示して、ひたすら、個人→ペア→個人です。

そうそう、大事なことを忘れていました。ちょうど今、後置修飾の to原形を扱っているわけですが、

  • 「to+原形」はこれからのことを表す

などというのは、「ルール」などではなく、どのような意味を表すのかは、その前の名詞と、to+原形になっている、もともとの動詞の意味の繋がり、さらには、「どどいつ」などで与えられる「文脈」で決まるのですよ、と念を押しておきました。真っ当に考えればわかることですよね。

  • the first man to land [walk] on the moon

では当然、「過去の事実」を表すわけです。
それに対して、

  • the first man to land [walk] on Mars

であれば、「これから」のことになります。なぜ、それがわかるのか?と言われても、「そのような世界で我々は生きているから」というしかないでしょう。

準動詞は「時制」、つまり「時を司る力を放棄して、他の機能に特化した」などと、もっともらしく言うつもりはありません。ただ、

  • とじかっこはつかないよ!

ということは生徒にも繰り返し説いています。

巷に溢れる英語教材や指導法では、過度に単純化して、あたかもそれが英語という言葉の「本質」であるかのような、傲慢で独善的な「理屈」が多すぎるように感じる昨今です。(関連項目は、過去ログの http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20050213 などを一度参照願います。もう、8年以上も前の記事ですね。)

今日は、進学クラスの土曜日課外、高2と高3のみです。
高2は、説明・定義の仕上げ課題。
少しずつ、「英語」の授業になってきました。
まずは、「もの」の説明。
以下、それぞれが何と何を対比して説明しているかわかるでしょうか?どれもフィードバック、修正前の生徒のドラフトであって、文法・語法上の誤りや不自然な表現を含んでいるので、注意して下さい。

  • Stairs are set of steps that you use when you go from one level of a building to another. Emergency stairs is a special example of stairs. You can use it when you need to shelter out of a building, if a fire or an earthquake occurs. If tsunami happens, however, you are expected to climb up the stairs.
  • A door is an opening that you walk through for going in or out a building, a room or a vehicle. And an emergency exit is a special doorway that you use to evacuate from a public building or a vehicle when you are in a serious or dangerous situation that demands immediate actions.

reviseを指示する前に、共通する課題を取り上げ、辞書で用例を確認。

  • the difference between A and B is that (ワニの口=名詞節)
  • pass by the gate とpass through the gateとの区別
  • 選択肢を示す接続詞の or

などが使いこなせると、「通じる」英語になりますね。
その他、 “名詞that you use when you go from one level of a building to another” が上手く言えたのだから、 “名詞 that connects one structure and another” と言えれば、「渡り廊下」の説明で使えませんか?というフィードバック。
で、後半が「人」の説明。
個人個人で対象となる「人」が異なるので、個別にフィードバック。

  • He was so impressed by Tezuka Osamu’s book, “Shin-takarajima” that he decided to be a cartoonist.
  • He created many comics about wars and peace from 1963 to 2009.
  • His most famous book, “Bare-foot-Gen” is based on his own experience. The book is read by almost all Japanese children. It is also read by many children overseas.
  • He died from cancer in 2013 when he was 73 years old.

共通の課題は、「greatさを示す情報の整理」。

  • “a talk-show host” であれば、放送年数、登場したゲストの総数、ゲストの国籍、視聴率など
  • “a poet” であれば、「教科書にも取り上げられ、子どもから大人まで多くの世代で親しまれている」などの代表作の反響、作品の出版部数、翻訳された言語の数など
  • “an alpinist” であれば、登頂に成功した山の高さ、季節など過酷な条件、登頂に成功した年齢など

これらの情報がすぐに思いつくかどうかは、普段の「日本語」での生活でどれだけ豊かに、自分で言葉をやりとりしているかに依存しているので、一朝一夕には改善しませんが、放っておいたら、いつまでもできないので、刺激を与えながら、日本語の発想から英語へと行ったり来たりです。

高3は、個人課題の「窓からの景色」の描写のダメだし、やり直しにフィードバック。
さらには、ペア課題の「人物の描写」のフィードバックとリバイズの指示。
新たな課題として、”GTEC Writing Training” から「ナラティブ」を導入。『日向本』のナラティブ該当個所を見れば、さらに強力、「鬼に…」でしょう。
受験学年なので、文法・語法の過去問というか「精選頻出問題」の演習を始めていますが、この演習が学びをshrinkさせては本末転倒。
「ライティング」として、ナラティブの世界にやってきたのは初めて、なんていう顔を見せてはいけません。高1の多読の時に既に、「リーディング」では、過ごしてきた場所、おなじみの景色なのですから。その時 (高1の2学期末から3学期) に纏めたものがこちら。

何を見るか?どう比べるか? 類似点と相違点と着眼点

A 時系列での行動・出来事の描写・記述・説明
1文で述べる。
接続詞でつなぐ
1 四角+とじかっこ +and / but などの接続詞 +四角+とじかっこ
2 四角+とじかっこ +when / before / after など時を司る接続詞+四角+とじかっこ
3 四角+とじかっこ +because / since など因果関係を表す接続詞+四角+とじかっこ
4 四角+とじかっこ+if / as long as / unlessなど条件設定の接続詞+四角+とじかっこ
5〜7  2〜4までで、接続詞から文が始まるもの


とじかっこを一つメインで残し、形合わせをする
8   -ing …, メインの四角+とじかっこ
9   メインの四角+とじかっこ…, -ing….
10 Having -ed/en …, メインの四角+とじかっこ
11  -ed/en …, メインの四角+とじかっこ
12  メインの四角+とじかっこ, -ed/en ….


2つ以上の文に分ける
それぞれの時制を確認
13  先. 後.
14  後. 先.


B 時間の経過を表す
1 時間の幅のある動詞・名詞・副詞句の活用

  • He stayed awake all night.

2 裏返して、否定にすることで、「…でなかった」時間の長さを表す

  • He didn’t sleep all through the night.

3 接続詞での前後関係 before /after
4 時間の幅のある接続詞  as / while
5 時制による時間の経過  大関 または大関と関脇
6 比較級 (and 比較級)
7 名詞の繰り返し、順序や積み重ね

  • He passed table after table of boys
  • day after day
  • twenty fifth birthday

8 物理的な移動を伴う動作・行動

  • walked the length of the room


C  動作行動の描写と心理描写
1 セリフで心理を言う

  • “I am very happy,” the little girl said.

2 セリフを言う時の様子を心理状態を表す言葉で記述する

  • The Hare was amused at his words and accepted his challenge, “OK, I will.”
  • The little girl said, “I will never forget her,” holding back tears.

3 セリフに頼らず、情景描写で心理も表す。

  • Shivering with fear, Oliver walked the length of the room.

これらを、「書く」観点から捉え直し、自分のものにすることが求められているわけです。高3の矜持を見せてもらいましょう。


さて、
「呟き」で少し、持論を吐き出しておきましたが、言うべきことは言っておかないと、どんどん不当に土俵を狭められてしまうので、「声を大にして」言い続けましょう。
ある、カリスマ師の「英語教授法」とやらでの、語彙指導に関連して、

1週間に100個という前提で、1日20個で5つの範囲に分けることの非効率さを説いているけれど、その2つの方法の比べ方はあまりに恣意的。それなら初 学者は1週間に20連語くらいに絞っておき、その20セットを毎日様々なモダリティを駆使して1週間で覚えるほうがいいに決まっているでしょう。

1週間かけるなら、月曜日は細切れ時間活用で繰り返し見て聞いて、火曜日は朝一と寝る前とにリード&ルックアップやリピート、水曜日は休んで、木曜日に、 日→英、で日曜までの間に、それらの語句が出てくるような文章を読み聞き、日曜日は文完成の課題で連語を問うとかですね。

中高生の指導だと、英語は英語での前に、語彙の処理の深さをどうしかけるか、リハーサルの間隔を次第に開けていくことと、生徒が確実に実行することのマネジメントをどうするか、が課題ですかね。こういうのは、岡田順子先生に聞くのが一番ですけど。

ということで、中高現場で活かせる、本物の語彙指導のノウハウ、理論的裏付けに関しては、岡田順子先生が部長を務めている、ELEC同友会英語教育学会の語彙指導部会へお尋ね下さい。

「教材の英語」の品質保証に関して。

文科省や地方自治体の指導主事は、教師の授業運営が「英語で」行われているかに目を光らせるんじゃなくて「教科書等の教材で示される表現や文章が『英語』 になっているか」にもっと干渉、介入して欲しい。素材がお粗末なのに、料理が不味いのを料理人の腕の未熟さのせいにされては困るでしょうに。

異様な採択率を誇った、新課程の某教科書とその教科書周辺教材で大量の間違いが見つかり、正誤表配布とか、解答冊子の刷り直し交換再配布だとか、妙な噂が私の耳にも飛び込んできました。詳しい情報をお持ちの方はお知らせ下さい。

  • 結局、真面目に取り組んでいる「生徒」が一番の被害者

という事態だけは避けなければなりません。
新年度の教科書採択も佳境かとは思いますが、じっくりと「英語そのもの」を読む時間を作る必要があります。新課程の教科書は、これまで以上に、「書き下ろし率」が高いのです。必然的に、英語のバラツキが生まれます。旧課程の時と同じ、例年と同じような選び方では、次年度が始まって少ししてから、思わぬしっぺ返しを食らうことにもなりかねません。
「教科書等教材の英語の品質保証」は、本当に高校現場で、今一番の問題だと思っています

紹介するのは、「英語教育再生プロジェクト」で知られる書評者の新著。電子書籍です。

私は発売日に購入し、今読んでいます。
多くの先生に、是非一度、目を通されることをお薦めします。忙しい現場の先生方が、目利き、腕利きの助けを借りて、生徒のためになる「選択」をしてくれることを願っています。

試験前週間なので、本業はお休み。
私の体調も回復するといいのですが…。

本日のBGM: 国境のジェントルマン (HARCO)