○○ニモマケズ

tmrowing2013-06-19

件の『問題の多い問題集』と『第一段落をカットして文章のタイトルも変えてしまうリーディングスキルを謳う教科書』の出版社の営業の方が、ようやく来校。

  • オマチシテオリマシタ。モウココニハコナイカトオモイマシタヨ。

と軽口めかして言ったものの、本当によく来てくれたなぁ、と思います。もっとも、営業の方には何の罪も、落ち度もないので、少々申し訳なく思いますが。

  • 編集の者から、回答が…。

というようなことを仰っていたので、成り行きは少しはご存知のようでしたが、肝心なところは何も知らない様子でした。編集部からは、メールでの回答を公開するのは遠慮しろ、という趣旨で回答が届いていたので、それを見せるわけにもいかず、

  • ダメじゃないんですか?
  • ダメじゃありません。
  • なぜ「ダメじゃない」って言えるんですか?
  • それは秘密です。

というやりとりの概要だけを説明しました。
話したいことがたくさんあったので、授業時間に少し食い込むくらい力説、熱弁。
『問題集』の方は、県内でも進学校で採択しているところがあるそうなので、「指導の際に、教えている先生方は、実際に英文スクリプトを読んでいるのですか?」と尋ねてみて下さい、とお願い。

  • 読めばわかりますか?

と訊かれたので、

  • もし先生が読んでも(そのおかしさが)分からない、というようなことがあったら、その方が大きな問題かもしれません。

と返答。
リスニング力を育て、鍛えるという意味では、重要な意味を持つ「音声指導」に関しても、

  • いくら発音記号を盲信するな、と言っても例の単語の発音で「促音」を聞いている時点でまずいでしょう?

ということで、アプリ辞書の音源を何種類か聴いてもらい、「どこ?」「そこ!」というようなリズムを大きく掴まえる指導の重要性を説いておきました。
ちょうど、この日の看護科1年の授業で、動名詞のワニの口を扱い、

  • fishing

を取り出して練習したところだったので、その手順を再現して見せてあげました。

fish に◯はいくつ?そう、一つ。では、fishingには?2つ。強いところはfishと同じ、-i-のところ。
後について、fishing。いや、それはカタカナだから、英語で。fishing。「フィッシング」の小さい「ッ」は要らない!
みんな、山口県は、「明治◯◯発祥の地」とも言える土地ですよね。◯◯に入る言葉は?そう、「維新」。では、それだけ私の後について繰り返して、「維新」「維新」…。では、その出だしのリズムをそのまま活かして、「維新」「維新」…fishing。そうですね、それが英語の音とリズム。

「促音」でごまかすのではなく、正しい調音と発声を大事に育てたいものです、という趣旨は理解してもらえたかと。

『問題集』の方は、私のクラスでは採択していませんから、出版社にとっては、所詮は「外野」なのでしょう。外野からの声はノイズ程度にしか感じていないのかもしれません。ただ、現行課程の『リーディング教科書』の方は、現任校で2年連続採択しているものだけに、採択校教員からの疑義に対する反応の無さ=ユーザーへのサポート体制の無さ、が気になりますよね。

新課程教科書の見本本が出回った、昨年のこの時期、

  • 『英語表現 I』は現場の評判は良いんですよ。

と仰ったこの営業の方に、

  • 現場って、どの現場ですか?もし、そうであるなら、私はその「現場」にはがっかりです。

と返答し、

「文法シラバス」で構成したのは一見良さそうに思えますが、「英語表現 I」の単位数では、従来の「体系的文法」と称する文法指導で扱う項目を網羅できません。いきおい、「英語表現 II」で、再度、文法を上塗りするような指導になりますよ。そうしたら、いつ現行課程の「ライティング」のレベルを超えられるんですか?

という、見通しを語っていたのでした。
営業の方も、現任校では『英語表現』は開講しない、ということはご存知だったので、私のお目当てだった『…表現 II』の方はお持ちではありませんでした。ということで、教科書自体は後日、学校に送っていただくことで決着。
今度は、チャンスがあれば「編集」の方を連れてきて下さい、と伝えてお別れしました。

ブログでも、呟きでも、密林でも、「批判的」という部分だけを取り沙汰されて、「悪口」だと批判されることが時々あるのですけれど、私は「良いもの」はちゃんと「良い」と評価して、対面での研修会も含めて、様々なところで情報発信しています。
「呟き」をやっている人は、覗いてみて下さい。

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さらには、僅かではありますが、自分で「良い」と思える教材や概説書を世に問うて、今日に至ります。

なかなか思い通りの教材には出会えませんが、自分の実作が、少しでも充実するように頑張るだけです。

高2ライティングは、恒例の「対比と定義・説明」の課題にペア、または3人のグループで取り組みました。

  • 保健室(an infirmary; a sick room; nurse’s office) と保健所 (a public health center)
  • 階段(stairs; a staircase; a stairway; steps)と非常階段 (emergency stairs; an emergency staircase; a fire escape)
  • 廊下(corridor; hallway; passageway)と渡り廊下 (a roofed passageway; a breezeway; a connecting corridor)
  • 出入り口(a doorway; a gateway; a door)と非常口 (an emergency exit)

各ペアは、この4セットの中から、3セットを選んで英語で定義・説明。それらを共有して、実感を伴う「自分たちならでは」の定義・説明の英文を拵えることが狙いです。
基礎資料として、「英作文的読書」用のネタを仕込む。

  • 航空機の “emergency exit row seats” に座るお客様向けの「非常口座席利用にあたっての理解のお願い」と「緊急脱出時の注意書き」。
  • あなたの学校の health/nurse room に「個別で独立した」sick roomがあるか?というディスカッションフォーラムから回答と意見の抜粋。

をそれぞれ事前にプリントアウトして配布。
今日は、そこから更に突っ込んで、

  • 北米の長距離列車会社NJ Transitの “rail safety” を伝える、ふんだんにアイコンを用いた告知文。
  • 芦屋市の「在外外国人向け生活情報」から、「芦屋市保健福祉センター」の英語ページ。
  • 3.11で甚大な被害を受けた、「南三陸町役場」の様子を描写している、nippon-sekai.comのページの抜粋。

特に、最後の資料は、「非常階段」で、非常時に上へと避難する数少ない可能性のうち、最も典型的と思える「洪水・津波」時の記述があるのではないかな、と思って検索したものです。教材研究では、通常、自分で音読をして通りの悪いところを補足したりするのですが、今回は音読の途中で、涙が滲み、声に出して読むことができなくなりました。生徒にも、「これは、時間を取って読んでおいて。」とだけ言ってあります。

進学クラス高3は、「風景描写」の続編。
新しい絵を見せ、『世界の車窓から』のテーマ曲を流して、英問英答。その質問の場面設定と答えの英語を活用して、「より的確な描写」を作るのが目論見。どうなりますやら。

進学クラス高1は、授業で扱った名詞句の限定表現のネタが増えてきたので、『短単』の例文を利用して、そこから、名詞句の限定表現を括り出すトレーニング。
どうして、授業では、来る日も来る日も来る日も、

  • 名詞は四角化で視覚化、前置詞は名詞の前に置く詞、など一連の記号づけ
  • 番付表を使って、助動詞と付き人の語順と形あわせ
  • read & look up
  • 対面リピート
  • flip & write
  • 縦書き練習

という、私の授業での定番の「作業」をやっているのか?
1つ1つの作業を確かめつつ、その作業に取り組む順序の持つ「意味付け」を説く時間。

というような具合に、せっかく、良い流れで今週は進んできたのだけれど、本日は大雨警報発令。6,7時限の授業はカットで一斉下校。続きは、明日以降に持ち越しです。私学など、県下全域が通学区域の学校ならではの悩みどころですね。でも、生徒の安全第一ですから、取り越し苦労くらいでちょうど良いのです。

「呟き」の方で、話題になっていた、「メリット」と「デメリット」に関連して、辞書調べ。

  • 吉沢典男、石綿敏雄 『外来語の語源』 (角川書店、1979年)

恩師、吉沢先生の著作です。
「メリット」は、p.630に見出し語としてありました。
<昭和>というラベルが貼られています。英語の訳語としての日本語は、力功、功績 (いさおし) (文化11)、功徳 (文久2) 、特長 (大3)、と推移し、美点、長所 (昭6) の出典は、岡倉由三郎編著『大英和辞典』 (研究社) です。
一方、「デメリット」には<現代>というラベルがついています。比較的「新しい」外来語と見ることができるでしょうか。デメリットの訳語の推移は、嘲るべきこと、罪すべきこと、などを経て、大正時代に、「欠点」「落第点」が登場。この訳語二つが並んでいることを考えると、「長所」に対する「短所」という意味では用いられていないように感じます。学校の成績でいう「落第点」 (前任校では「赤点」と呼んでいました) という意味の「欠点」ということなのでしょう。

辞書関連でもう一つ。
先日のブログ記事で、「うたかた」が出てこなかった生徒の話しを書きました。現代語の「泡」は思いついたとして、『和英辞典』のように、古語や語源に遡ることが難しい (から、教養として最低限のことは身につけておかねば…) という趣旨でした。その話しを読んだT先生から、

  • こんな辞書があるから、「学級文庫」に入れてみては?

とお知らせ頂いたのが、

  • 芹生公男 『現代語から古語を引く辞典』(三省堂)

なんと、「泡」を引けば、「うたかた(泡沫)」だけではなく、「みなわ(水泡・泡沫)」という語、「みなつぼ(泡)」という語、もかつては使われていたことがわかるのでした。
これは凄い!
T先生、早速注文し、本日、無事「学級文庫」入りを果たしました。有り難うございました。
ことばに携わる仕事って、本当にワクワクするものだな、と思うと同時に、あんな辞典を残してくれた師匠、そして、こんなことを教えてくれる先輩って、やっぱり凄いなぁ、と痛感した出来事でした。

明日は小やみになることを願って、早めの夕餉に早めの就寝を心掛けます。

本日のBGM: 光と水の新しい関係 (山田稔明)