昨日は午後の家庭訪問を終えて、学年の担任団の「研修会」でした。
今日は、お休み。
とはいえ、作問天国のあとは、採点祭りですね。ボチボチです。
さて、
ここのところ、ず〜っと、「英文の繋がりと纏まり」について、既成の教材の英文に異論を唱え持論を述べてきました。
「内容のまとまり」に関しては、これまでにも「英文読解」の観点から、十分に議論もされ、英語教師であれば説明の要はないものだと思っていました。
一度もお目にかかったことはないのですが、教材を通して私が尊敬している、ある方は次のように述べています。

英語はどうやって勉強すればいいのかという質問を受けるたびに、内容のある英文を精読するしかないよと答えてきた。内容のしっかりした英文には、必ず構文上のポイントが含まれているし、読み進んでいくうちに、覚えておきたい必須語彙に何度となくお目にかかる。それらを1つ1つ確認するという作業を続けていくうちに、自然に読解力、ひいては総合的な英語力がついていく。当たり前といえばそれまでだが、僕自身そういう勉強を続けてきたし、これ以外に正当な勉強法など考えもつかない。 (中略)
では、素材としてどのようなものを使えばよいかという問いには、できればある1つの分野に片寄らず、いろいろなテーマの英文を材料にするとよい、しかも内容的にまとまりのあるものにすべきだと答えたい。
このオーソドックスな英語の勉強をひとりで進めていくための素材とノウハウを提供しよう、という意図で本書を企画してから7年になってしまった。素材となる英文の選定をし、原稿を書き進めていくうちに、読解の基本となる構文の説明もしたい、その演習例文も載せたいと欲が出て、ボリュームも当初の企画の一倍半を超してしまった。 (後略)

  • 和田孫博 『精説英文読解 内容からのアプローチ』 (駸々堂、1992年)

の「はしがき」からの引用です。惜しくも現在では絶版となっています。英文も精選され、その内容が吟味されているだけなく、出典も明らかで英語の語句索引もあり、本当に「志」の高い労作だと思います。

では、「読解」以外の教材ではなぜ、その「まとまり」や「つながり」が失われてしまいがちなのか?
そこで悩んでいました。
GWあたりで件の問題集の問題点を考えていたら、体調が悪くなってきたのです。ホントです。
「呟き」でも、

と書いたように、「後は誰かお願い!」と言っていました。もう2週間近く前のことです。

の過去ログで私が取り上げたスクリプトも、「英語」として難があったわけですが、それよりももっと凄い「もの」が最後の最後で出てきたので、他の人に投げかけてみた次第です。

  • 真剣に、この教材の英語を読んで、自分の頭で考えてくれる人がいるのではないか。

と期待したからでもあります。でも、何に遠慮しているのだか分かりませんが、誰も何も書いてくれないので、自分で書くことにしました。

  • 『リスニングボックス センター対策リスニング 30分』 (啓林館、2013年3月刊)

第8回、第4問B のスクリプト全文です。(解説編、p.16)
まずは、通読願います。一読了解とならなければ、再読を。

In the 1980’s researchers discovered a garbage patch floating in the Pacific Ocean, north of Hawaii. It is made up of small chunks of plastic and harmful chemicals. It had never been noticed before because the garbage patch is under the ocean’s surface. This patch is called the Great Pacific Garbage Patch. Since then, two more patches have been discovered, one in the Indian Ocean, the other in the North Atlantic.

Researchers disagree on the size of the Great Pacific Ocean Patch. Since it is impossible to view from airplanes or satellites, it is difficult to measure. Some researchers say the patch is about the size of Shikoku. Others think it could be much larger.

According to health experts, sea trash is becoming a major problem for the health of living creatures. The main concern is that chemicals are getting into the food chain. Small fish eat the waste. When they are eaten by larger fish, the chemicals are passed on. Finally, when humans eat the larger fish, major health problems can occur.

Now that these patches have been discovered, a number of groups have begun research on ways to clean up the waste. Hopefully one day, our oceans will be clean again.

どうでしょう?
「つながり」と「まとまり」が感じられたでしょうか?
今、全文を打ち終わって頭がクラクラしています。ワードの文字カウントでは、203語でしたから、長さのせいで疲れたのではありません。英文の「支離滅裂さ」にです。
まず、第一段落。話題と主題の提示から。「1980年代」という、大まかな括りで舞台設定が示され、基本時制は “discovered” と「過去形」で導入です。主語は “researchers” と「無冠詞複数形の名詞」ですから、「当時の一般論」と思いきや、見つけたものは、 “a garbage patch” と「不定冠詞」で、当然「単数形の名詞」でした。いや、ここでの、 “discover + a garbage + floating in …” は、後置修飾ではなく、「漂っているのを見つけた」と読むべきでしょうか。初お目見えの “a garbage patch (…ing in )” 「ゴミのpatch」とはいったい何だろう?という疑問が浮かびます。高校生に限らず、一般的な日本の学習者にとって、”patch” と聞いて想起するのは、「パッチワーク」のパッチだと思うので。
その疑問に、第2文が答えている、と考えれば、繋がりはあると言えるのでしょう。で、第2文は、「構成要素・成分」が述べられている「現在時制」の文。”small chunks of plastic and harmful chemicals” のところが、何を言っているのかよくわかりません。andで結びつけられている名詞の「レベル」が揃っていないように感じます。このあとに、どういう結びつき方で “patch” というような形状になっているのか、という種明かしの説明が続くのでしょうか?
そう思って、第3文を読むと、ここからは、「なぜ、これまで発見されずにいたか?」の説明です。これが内容理解をさらに難しいものにしています。主節というか前半の過去完了での記述は、よしとしましょう。肝心な理由の説明の、

  • because the garbage patch is under the ocean’s surface

という部分は、現在時制で書かれています。私は最初、「1980年代以前は、海中にあったものが、当時、海洋表面に浮かんできた」というような理由を想像しました。でも、「現在時制」ですから、今も、「海洋表面」にはないことになりますよね。
では、第一文の “floating” という記述と矛盾しませんか?「浮かんでいる」とはどういった状態?「マンタ」が水面に近い海中を漂っているような「絵」を思い浮かべればいい?
さらなる疑問。その海洋表面にはないのに「浮かんでいる」「もの」を研究者たちはどうやって見つけたのでしょうか?人工衛星から何か特殊な望遠鏡やカメラで探知したのでしょうか?私の脳裏をよぎったのは、映画『バイオハザード』でアリスを捕捉する衛星のような仕掛けでした。これも、謎をしかけておいて、読者・聴衆を焦らせておいて、自分のペースに引き込む筆者の「筆力」でしょうか?
第4文を読んでおきましょう。

  • This patch is called the Great Pacific Garbage Patch.

困りました。なぜ受け身で、しかも nameではなく、callなのでしょう?しかも、現在時制。普通は、「名付けるから呼ばれる」ものだと思うのです。これは、正式名称ではなく、「通称」とか「コードネーム」なのでしょうか?『ガンダム』でも、モビルスーツに「スカート付き」なんて名前を付けていましたね。そもそも、どのように見つけたかがよくわからず、形状についても詳細がわからない「もの」の「呼称」を説明されても、イメージが浮かべられません。
で、この段落の締めくくりとなる、第5文が、

  • Since then, two more patches have been discovered, one in the Indian Ocean, the other in the North Atlantic.

ですよ。”Since then” って、いつから?そして、肝心の「もの」について、何も詳述されていないのに、「他にも二つある」とかいわれても困るのですよね。この段落は、何の話しなのでしょうか?
私が、この段落を読んで、読者として筆者に問い質したいことは、

  • 複数の研究者は1つの集団なのか、同時多発的な発見なのか?
  • 海洋表面にないものをどのように「発見した」のか?
  • 海洋表面にないものがなぜ “garbage” だと分かったのか?
  • なぜ、patch という語を使っているのか?patchという語で、どのような形状を表しているのか?

というようなことです。
少なくとも、

今では patchと呼ばれているが、当初は実体がよく分かっていなかった。そもそも、船のように浮かんでいるわけではなく、「マンタ」が水面近くを泳いでいるかのように「漂っている」ので、肉眼ではよく分からないこと、さらには、このpatch と呼ばれている「モノ」は、「一枚の布状の物体」が漂っているのではないからである。本来は拡散していて検知できないような極々小さな「物質」が集積して、周りに比して「濃く」なっているということは、人工衛星からの観測で初めて分かったのである。この「物質」を、採取して検査してみると、プラスチックの破片などの「ゴミ」であることがわかり、そこからは有害な化学物質が検出された。

などという「説明」が求められるでしょう。(この「説明」は私が勝手に拵えたものですから、事実ではありませんのでくれぐれもご注意を願います。)
ましてや「聞き取り」のスクリプトなのだから、さらに、わかるように展開や補足、修正、確認が必要だと思います。
ちなみに、 patch の辞書の定義を見ると、

  • a small area of something that is different from the area around it (LDOCE)
  • a small area that is different in some way from the area that surrounds it (Cambridge)
  • an area that is different from what surrounds it (Macmillan)

という定義が見つかります。

  • Our dog has a black patch on his back. (Cambridge)

という用例を見ると、日本語の「パッチワーク」で連想する「パッチ」とは少々違うイメージですね。

第2段落を読む元気は残っていますか?
第一文は、

  • Researchers disagree on the size of the Great pacific Ocean Patch.

と、「無冠詞複数形名詞」で始まったのは第一段落と同じですが、今度は、「現在時制」での記述ですから、現代の一般論。ここでの、”disagree” は、「意見は一致していない」「見解の相違がある」というような意味合い (= be not of the same opinion) で使っているのだろうと思います。気になるのは、その主題です。なぜ、 “the size” の話しになったのでしょうか?第一段落では、「the Great Pacific Garbage Patchなんて呼んでいるけれど、そもそも patchと呼べるのか疑惑」が述べられていて、第2段落では、「そもそも greatと言えるのか疑惑」が述べられるとかいう展開であるならわかりますよ。でも、ここで「サイズ疑惑」って、唐突過ぎませんか?この第1段落、第2段落を貫く「統一した主題」はいったい何なのでしょう?
細かいことですが、第一段落で “the Great Pacific Garbage Patch” と呼ばれていた「もの」が、第2段落では、 “the Great Pacific Ocean Patch” になっているんですけれど、これって同じものと考えて良いんですよね?

で、続く第2文で仰天!

  • Since it is impossible to view from airplanes or satellites, it is difficult to measure.

ええっ?「不可能」って、人工衛星からでも見えないんですか?アリスがプログラムを書き換えたの?
そもそもどうやって「発見」したのでしょうか?「発見そのものの疑惑」は生じないのでしょうか?
この段落の目的は何?「根拠なく持説を主張する学者たち」を糾弾すること?「そもそも学問領域で扱うこと自体が怪しい、『トンデモ』ネタ」であることの指摘?

ここまでの2つの段落は、寝たふり、いやネタふりのための「寄せ餌」のようなもので、次の第3段落で、きっと全体を貫く、「統一した主題」が見えるはず、と思って読んでみました。

  • According to health experts, sea trash is becoming a major problem for the health of living creatures.

なぜ、ここで、”sea trash” という無冠詞の単数形名詞での新たな話題提供が、「健康の専門家」という「無冠詞複数一般論」の情報源でなされるのでしょうか?
trashが出てきたのは garbage繋がりということでしょうか?
前段落の「大きさの議論」は何のためのものだったのでしょうか?「大きさが問題なのではない」ということを伝えたいのでしょうか?だとすれば、そもそも「問題点は何だと思いますか?」という問いかけがなされたり、「大きさでなければ、では、一体何が真の問題なのか?」というような、「繋ぎ」の言葉が補足され、「ここまで、分かりにくかったと感じるかもしれませんが、全体を貫く主題は全く破綻を来してはいないんですよ」ということを言い続ける必要があるでしょう。
その種の言葉が足りないことに我慢するとしても、ここで “a major problem for the health of living creatures” という大風呂敷を拡げるのはどうなんでしょう?これでは、「海洋生態系」の全てを巻き込む話しになって、この段落どころか、文章全体も収束しきれなくなるのではないでしょうか?
案の定、次からは生態系の上位に移行するほど「濃縮」するという類の話しになっているはずなのですが、「濃縮」のメカニズムなどの説明は一切なく、この段落の最後は、

  • Finally, when humans eat the larger fish, major health problems can occur.

と、”can” での「理論的可能性」「ないことはない」を示す文になっています。
「生態系最上位にあたる、人間にとって、何がどのように ”major health problems” なのか?」ということは解き明かされないまま段落が終わります。ちなみに、ここはproblemsと無冠詞複数形です。

さあ、次で最終段落です。読んでいる私は、「最終段落だ」と、見て分かります。それによって、終わりまでの見通しが立つからまだいいいです。でも、これを「聞き取り」で処理している人は大変だと思います。同情します。

  • Now that these patches have been discovered, a number of groups have begun research on ways to clean up the waste.

ちょっと待って下さい。 “these patches” というのは、何をどのように「一括り」にしたのでしょうか?
第一段落の最後にあった、

  • two more patches have been discovered, one in the Indian Ocean, the other in the North Atlantic.

の二つを数え合わせて、“these patches” と言っているのでしょうか?新たに「発見された」 2つのpatchesは、このような形状で、このような成分が検出された結果、太平洋上のpatchと同種のものである、という説明がなされていたでしょうか?
で、 “the waste” です。garbageから、trashへ進み、最後は the wasteという語になりました。日本語訳では「ごみ」で、繋がっているように感じるのかもしれませんが、ここだけ “the waste” と定冠詞です。「どのwaste?」という質問が出ませんかね?
“a number of groups” というのは「研究者」なのでしょうか?「環境保護団体」?よく分かりません。

最終文は、

  • Hopefully one day, our oceans will be clean again.

で、「海が再びcleanになることを望む」というもの。ここまで述べてきた “patch(es)” の問題点は、

  • not clean = dirty

ということだけではなかったと思います。前段落で「健康上の重大な問題」に言及しているのですから、同じ、cleanの語義でも、

  • not hygienic = contaminated, polluted, infected

というような部分に切り込んでいたはずだと思うのです。前段落で “the health of living creatures” と大風呂敷を広げたのだったら、最後は “our oceans” のところも、全生態系を巻き込むようなまとめにしてもらいたかったですね。

「つながり」と「まとまり」が失われているのは、ただ単に、この英文ライターの「筆力」がないからなのでしょうか?これって、本当にひとつのまとまった話しだったのでしょうか?
「問題集」ですから、これに内容理解を問う「設問」がつくのです。何を問うているのでしょう?
「リスニング」教材ということですから、CDも聞きました。
2回も。
このまま録音したナレーターは「凄いなぁ」と感じました。私の率直な感想です。

こちらの問題集は10万部近くも売れた (※要出典) という、前作ほどの「人気」はないと思いますし、「センター試験」対策に躍起になっている高校があるとしても、この5月の時期に、この教材を使っているところはそれほど多くないのではないかなと思います。
ただ、もし、この教材を現在使っている高校さんがありましたら、採用された先生ご自身が、一度、虚心坦懐に、英文を「読む」ことを願っています。
ちなみに、ちょっとネット上を「漂って」みると、次のような英文サイトを「発見」できます。

National Geographic Education の頁

NOAA Marine Debris Program の頁

ちなみに、NOAAのサイトはこちら、http://www.noaa.gov/

この分野に必須の「専門用語」も言い換えられたりしており、「どのように発見したのか?」「patchという語を使って表している実体の形状は?」などなど、上述した私の「疑問」のほとんどは解消しました。有り難いことです。

過去ログでも小田実の「志」を引いていましたが、厭わず再録します。

「自分に至らないところが確かにあったかもしれない。それが間違いなのであれば、正しいことを伝えなければいけない。どうすればいいだろう?一緒に本を作らないか?」/つまり、批判を排除しないのです。(中略)この考え方、思考回路が常識主義であり、間違い主義なのです。他人も自分も、みんなチョボチョボ の人間だから必ず間違いは犯す。だったら間違いを指摘してくれた人と一緒に行動したら、間違いが少なくなる。
(井上ひさし他『憲法九条、あしたを変える 小田実の志を受けついで』岩波ブックレット)

繰り返すのはいつもこのことば。

  • より良い英語で、より良い教材。

本日のBGM: after school scat (山田稔明)

2013年6月7日 追記:
この日のエントリーで取り上げた教材を実際に教室で使われている(いた)方からの情報をお待ちしております。