1990. Cohen, A. D., & Cavalcanti, M. C.

今日のタイトルは、L2ライティング指導に於けるteacher feedbackの研究では有名な論文に関わるもの。
私もライティング指導が専門などと言ってはいますが、

  • 教師が与えるフィードバックを学習者 (としてのwriter) はどのようにprocess (処理) しているか。
  • 教師は「こんなフィードバックを与えたのだから、この点については理解できているだろう」などというような思惑がいかに当てにならないか。

というようなことを考え始めるための必読の文献でした。詳しくお知りになりたい方は、以下で検索。Cohen先生のサイトでも論文の写し (20年以上も前のものですから、本当に本をスキャンしたもののようです) をダウンロードできますので探してみて下さい。

  • Feedback on compositions: Teacher and student verbal reports. In B. Kroll (Ed.), Second language writing: Research insights for the classroom (pp. 155-177). Cambridge: Cambridge Univ. Press

さて、
中英研大会での大東文化大の靜哲人先生の講演に関しての補足。
当日参加した私が聞いて理解した内容と、地元紙の11月23日付の記事の内容が全く違うので、以下、私の手元の講演資料 (A4で4頁分) をもとに記しておきます。講演中にメモは全く取っていないので、『記憶スケッチ』 (by ナンシー関) 状態の記述があった場合にはお知らせ下さい。

中学授業を50点満点で評価する簡単チェック (2012/09/29 http://cherryshusband.blogspot.jp/2012/09/blog-post_28.html)
「自己表現」という新興宗教 (2012/09/28 http://cherryshusband.blogspot.jp/2012/09/blog-post_3913.html)
発音をきびしくすると…というのはやはり自己防衛か… (2012/08/08 http://cherryshusband.blogspot.jp/2012/09/blog-post_3913.html)
「間違いを恐れずに」? アホちゃうか。 (2010/07/31 http://cherryshusband.blogspot.jp/2010/07/blog-post_31.html)

というご自身のブログからの抜粋に加えての講演 (公演) でした。
ハンドアウトにはさらに、
・『心技体』の15戒よりの引用。
・歌を活用しての、「音節」感覚、リズムの指導。著作のDVDに収録された映像と音声を使って、英語という音の波に乗る際に筋感覚に働きかける工夫を交えて実演。
・中学校3年生の教科書本文 (Total English New Edition 3 (学校図書) Lesson 5)
が印刷されています。
講演での内容、それに続く質疑応答でのやりとりを掻い摘んで。

  • 生徒の英語そのものに対して指導をせよ。それをしない人は、教師として、なぜ目の前の生徒の英語力をなんとか伸ばしてやろうと思わないのか理解に苦しむ。教師自身が出来るのなら、生徒にもそれを求めて自分のレベルまで引き上げるのが最終目標。10段階で2の生徒がいればどうやったら3になるか、7の生徒がいればどうやったら8になるかに意を砕き実際の指導をするのが教師でしょう。
  • 授業は発表活動の舞台ではなく、訓練の場。もし発表させるのであれば、最初の生徒よりも次の生徒、その次の生徒と、より上手なパフォーマンスになっていないとおかしい。生徒の発話に間違いがあれば、その場で、または区切りの良いところで止めて「フリーズコーチング」をするべきで、それをせずに、流してしまい、その場が盛り上がっても英語の授業としての意味がない。
  • 文字一つ一つが音を表しているのだから、それを見て音にできることが必要。「世界英語」と言う人がいるが、子音の調音はどの英語も99.9%共通。英語の音としての最大公約数を求めるとしても、日本人学習者のほとんどはきちんと指導をして、トレーニングをしないとその最大公約数さえ達成できない。英語母語話者は受容範囲が広いので、多少のブレ、ズレも許容してコミュニケーションをとってくれるが、非母語話者同士のコミュニケーションでは、お互いの受容範囲は狭いので最大公約数から外れる音はわからないことが多い。「世界英語」だからこそ、英語の音としての最大公約数を満たしていることが大事でしょう。
  • 「発音記号を教えて生徒が覚えればいい」ということではない。文字の体系・書体そのものを新たに学ぶのであるから、/j/ の半母音の記号と、綴り字の、-j-、–dge- の関係など、音声の体系を学ぶ時に同じ記号が異なる音を表すことを学ぶのは混乱の元となる。
  • 「時間がなくて音声の指導まで手が回らない…」という人がいるが、「時間がないからこそ、音声の指導から始める」のです。
  • 「大きい声で」である必要は全くない。英語の「音」であること。コーラスで全体に注意喚起して終わりではなく、おかしな音が聞こえたら、その音を発している生徒を名指しで (student specificに)、ダメ出しをして、モデルを聞かせるだけでなく、実際にやり直しをさせるところまで指導することが不可欠。「グルグル」はそのための指導。
  • 英語の「音」をなぜ直せないのか、それは教師自身が聞いて善し悪しを見極められないから。自分にそこまでの英語力がないと、指導の前に、その誤った音が気にならないで終わってしまう。生徒の発話での英語表現の指導も同じ。生徒が言おうとした英語が間違えている、英語になっていない場合に、「そういう意味だったら、こういう風に言ってみたら英語で言えるんじゃないかな」という、その生徒が手を伸ばせば届くレベルの英語で示し、それを実際に言わせることが必要なのだが、教師に「その場」でそのような適切な英語を思いつくだけの英語力がないから、そのような指導が出来ない。教師自身の英語のレベルを上げるということだけではなくて、生徒の段階に合わせて、語彙・構文を調整して表現するなど、英語を使い分けられる力が必要。

とまあ、こんな振り返りです。
地元紙の記事 (オンライン版で、期間限定だと思いますのでリンクが生きている限り) は、こちら→ http://www.minato-yamaguchi.co.jp/yama/news/digest/2012/1123/9p.html

いやあ、それにしても記者は何を聞いていたんだか…。賛同するにせよ、反論するにせよまずはきちんと聞かないことには。私のように講演を聞いて身が引き締まる快感を覚えた人もいたでしょうに。その快感や感動に水を差された思いです。
私も「第1回山口県英語教育フォーラム」を開催した年に取材した記者が、その記者がたまたま知っている教育関係者に取材したと思しき談話を乗せられ、講演内容や趣旨、さらにはフォーラムそのものの意義まで「矮小化」されたことに憤ったものでしたが、今回の記事は「矮小化」どころか、「歪曲」とか「捏造」のレベルですから、講演をしてくれた靜先生に申し訳なく思います。これに懲りず、また来山していただけるよう、地元で頑張りたいと思います。

フィギュアスケートは「NHK杯」。Gシリーズの最終戦で、ファイナル進出のかかる大事な試合です。地上波では、男子の放送が夜中ということで録画しました。
女子シングルのSPは浅田真央選手が会心の演技でトップ。スケートは「滑れてナンボ」だと実感しました。鈴木明子選手はオープニングの3・3のコンボもしっかりと決めたように見えたのですが、ルッツのすっぽ抜け以外にも減点要素が多かったのでしょうか、得点が伸びませんでした。採点結果を確認してみたいと思います。日本からはもう一人、今井遙選手が出場。オープニングのコンボで転倒、その後も今ひとつリズムに乗れず、フリーでの巻き返しに期待したいところ。外国勢では、中国の李子君選手、ロシアのマカロワ選手の出来が良かったですね。ロシア国内で次から次へと「天才少女」たちが現れますから、大変な苦労だと思います。長洲未来選手は、SPに関しては大きなミスなくまとめて高いスコアがもらえていました、唯一エントリーしていた中国大会ではキーラ・コルピ選手に逆転を許し表彰台を逃していただけに、サブで急遽出場の今大会での高得点は皮肉な感じもしますね。

フィギュアスケートでの「採点」「得点」は、ルールによって明確に決められています。でも、かつての「コンパルソリ (規定) 」が無くなってからは、ジャンプ、ステップ、スピンといった必須の要素を自由に組み合わせて演じます。それぞれの技には難度に応じて得点が決められているので、全てうまくいった場合の得点である「基礎点」には当然選手間で大きな差があります。言ってみれば、テストを受ける時に、ある生徒は120点満点で、ある生徒は80点満点で評価を受けるようなものです。ただし、「出来映え点」という主観的な加減点がプラスマイナス3点分あるので、極端で乱暴な話しをすれば、基礎点が120点の選手が難易度の高いとされる技でことごとくダメダメな演技で「出来映え点」がマイナスになり100点になってしまい、基礎点が80点の選手が、難度は低いものの素晴らしい「出来映え」で加点され100点になるというようなことが起こらないとは限らない訳です。
翻って、英語のパフォーマンステストはどうなっているのでしょうか?
私が定期考査でよく使っているのは選択問題です。ある生徒が難易度の高い設問を選択すれば基礎点は高いのですが、失敗すれば、安全策で問題を選択し完成度の高いパフォーマンスをした生徒よりも低い評価となる、というものです。科学的合理的に「測定」では有効ではないのかもしれませんが、「評価」では充分機能しています。その生徒に何が出来て何が出来ないか、次の指導に活かすためのフィードバックでは何についてどのような指摘をすればよいか、という材料も出てきます。最近の一例は、

選択問題 E: 次に示した表現は、全て「動物園 (a zoo)」の定義である。この定義を参考にして、次のXI かXII のうちどちらかの設問に答えよ。選択した問題を明記せよ。
a large place where many types of wild animals are kept, usually in cages, so that people can see them (MED)
an area in which animals, especially wild animals, are kept so that people can go and look at them, or study them (Cambridge)
a place, usually in a city, where animals of many kinds are kept so that people can go to look at them (LDOCE)
a place where many kinds of wild animals are kept for the public to see and where they are studied, bred and protected (OALD)
XI: 「水族館 (an aquarium)」の定義・説明を書きなさい。
XII: 「図書館 ( a library)」の定義・説明を書きなさい。

これは、高2の"reading" での定期考査の設問の一つです。さらに難易度の幅を変えるなら、「サファリパーク」があってもいいでしょう。「自己表現」をさせなくても、英語の善し悪しは分かりますよね。

地元紙の記事のあまりの内容に、今日のエントリーのCohen論文を思い出し、フィギュアのNHK杯を見て、そんなことを考えていました。

本日のBGM: Good as gold (stupid as mud) / The Beautiful South