結んで開いて、その手はどこへ?

採点天国から抜け出して、教務部長と二人で中学校まで進路説明会に行ってきました。新装なった体育館で、今日はトップバッター。進学クラスのPRをしてきました。中3生はもちろんですが、中1生、中2生の保護者の皆さんも会場にいらして説明を聞いていたようです。
進学実績とか、施設とか、カリキュラムとか、そういうことよりも大事なこととして、ゾウさんとキリンさんの話しをしたのですが、「学びを学ぶ」ということの意味が、よく分かってもらえたでしょうか。
「市内にある別の私学で使っていた中高一貫校用の検定外英語教科書に私が関わっていたこともアピールしておけば?」と部長には言われていたのですが、改訂版には携わっていないし、その学校でも今は使っていないようだから、と遠慮しておきました。
いったん学校に戻って、資料などを整理して帰宅。
首から背中の強張りがかなり強くなっていたので、いつもお世話になっているところにちょっと無理を言って、隙間を縫うように予約を入れ、施術してもらいました。実際に時間がかかったのは首でも背中でもなく、足。脚ではなく、足。足首だけでなく、足の甲から指の骨の間まで固くなっていて、目の疲れ、頭の疲れが出ているとのこと。ちょっと「痛気持ちいい」触感が残っていますが、目にはすぐ効いたようで、視界が開けた感じです。
豪雨により順延となった日の試験が、来週の月曜日にスライドしたので、この週末は本業もお休み。その分、採点に時間を割けるので、喜ぶべきでしょうか。
ということで、学参レビューの続き。

  • 『例解和文英訳教本 自由英作文編』 (小倉弘、プレイス)

先日のエントリーで、「私がこの2冊の内どちらかを選べ、と問われれば、迷うことなく、小倉氏の本を選ぶでしょう。」と書いたので、この本に物凄い期待を寄せている方がいるかも知れません。まず、お断りしておくのは、今、引いた私自身のことばの「条件設定」を確認して欲しい、ということです。そうです、選択肢が「この2冊」しかない、という場合の判断であって、私が諸手をあげて、この『小倉本』をお薦めしているわけではないのです。
この『自由英作文編』の記述で、首肯しがたいところは、「結論 (Conclusion)」 (pp.20-22) での書き方指南にあります。小倉氏はこのように述べています。

最後が、結論 (Conclusion) であるが、ここには何を書くべきだろうか。巷の参考書や解説書では、<もう一度主張を繰り返す>ようなことが書かれているが、それはよほど長い論文を書いている場合の話しであって、試験問題程度の (せいぜい30〜300語くらいの) 英文で、ただ主張を繰り返すだけでは幼稚な作文に見えてしまう、これは字数が少なければ少ないほど、その幼稚さが目立つ。 (p.20)

そこで槍玉に挙がっているのは、

<テーマ> 小学校で英語を教えることに賛成か反対か
第1文: 私は小学校で英語を教えることに賛成です。
第2文: 今や国際化の時代なので、日本人ももっと英語を使いこなせるようにならなければ、世界について行けないからです。
第3文: 故に、私は小学校で英語を教えることに賛成です。

という日本語の作文。確かに、これではパラグラフになりようがありません。しかし、この「稚拙な」日本語作文の持つ問題の根元・主因は、<繰り返し>にあるのではなく、<主題とそのサポート>が出来ていないこと、第2文での「支持 (が出来ていないこと)」にあるのであって、 そのことをこそ指摘し、「英語の流儀」を説かなければ「英語のライティング」指南にはならないだろうと思うのです。
氏が、これに代わって薦めているのは、次の3点。

  • 諺などを用いた一般化
  • ワンランク上の視点・マクロな視点から論ずる発展的内容
  • 提案

このうち、1番目の諺の利用。これは、私も授業で時々活用させます。
また、3番目の「提案」は、主題文が、与えられた命題を否定することで始まったような場合には有効なこともあるので、一概には否定しません。
しかし、2番目の「発展的な内容」の実例として本書で示されている内容の多くは、少なくとも文章の「主題」に収束していないように感じられました。結論文は「話題つながり」なら何でもあり、なのではなく、「主題」をまとめ、束ねられて初めて「結論文」になるのではないかと思います。
本書でのこの辺りの解説を読んで、私の頭にまず浮かんだのは、次の記述でした。

アカデミックライティングの基本からたたき込まれてきた上級者に向けてのアドバイスを、初級者に適用する時は慎重さが求められると思います。
本書での実例を見るのが一番分かりやすいでしょうから、答案例として示された英文を一つ引きます。英文校閲はクリストファー・バーナード先生です。はてなの記法上、段落は書籍のようなインデントではなく、ブロックタイプで示してあります。

I think getting married early is good for two reasons.

First, you can live a stable life by having a partner. If you share the housework, for example, you can always keep your house neat and tidy. Besides, you will come to cook every day because making meals involves wanting the other person to eat them. If you live by yourself, you are likely to eat out, which means you won’t have a well-balanced diet.

Second, it takes about twenty years to bring up a child. Child rearing requires a lot of energy, so you might not be able to endure the task unless you are still young. Also, if you get married late, you will have less time to spend doing things you want to do after you finish rearing your children.

Many things are said about the declining birthrate these days. Getting married early and having a lot of children means contributing to preventing our country from collapsing.

コピペで、この文章をワードに貼り付けると、最終文で緑の波線が出て、 “fragment” と書き直しを要求されると思います。確かにぎこちない文ではありますが、それは、andで結ばれた主部となる名詞句のペアをセットと見なせない、ワードの問題でもあるので、目をつぶります。問題は、そんなことではなく、最終段落があることによって、主題への収束が薄れてしまうということです。
お題は「早婚と晩婚とどちらがいいか」です。(pp. 23-25)
この課題では、比較・選択とその理由付けが問われています。
冒頭の主題文は、 “getting married early is better (than getting married late)” とでもしておきたいところですが、ここで比較級を思い浮かべると、肝心要の問題に気がつきますね。そうです。"earlier/later" の問題。

  • 早婚、晩婚とは何を基準に「早い」「遅い」と言っているのか?

という定義の問題です。このような問題で躓いて、先に進めなくなるといやなので、新課程の「英語表現」はともかく、一昔前の「ライティング」の教科書の中のごく一部の「真っ当」な教材では、「読み」の資料が与えられて、考える材料を踏まえた上で、お題が課されていたのだ、ということを忘れないで欲しいと思います。
さて、今回の「早婚か晩婚か」の理由付けを見てみましょう。
本論その1をよく読んで下さい。これは「結婚の利点」であって、「早婚の利点」ではありません。
“The sooner, the better.” と支えたいのですから、「結婚により伴侶をもつことが生活の安定を生む」ということを理由と考えるのであれば、「その期間が早婚により長く続く」というサポートが不可欠です。
本論その2では、「子育て」を持ち出して論拠としていますが、「結婚=子育て」ではないのですから、これは独りよがり以外の何物でもありません。この部分のおかしさに気づかないまま、「ワンランク上のマクロな視点」で「少子化の解消」とか「国家の崩壊を救う」という話しをくっつけても説得力を増すことにはならないでしょう。結論の前に、まず、本論での「論理」を吟味し直すことが大切です。
残念なのは、その次の項目「9.内容上の注意点」 (pp. 26-32) では、

  • (1) 論理的矛盾がないように
  • (2) 論理的飛躍がないように
  • (3) 具体例不足にならないように
  • (4) 主観的過ぎる意見も避けるべし
  • (5) 単なる理由の列挙に終始しないように
  • (6) 譲歩→反論の展開がおかしくならないように

と懇切丁寧な指導がなされているのに、その前の「お題の解答例」がなぜ、あのレベルの英語表現となってしまったのか、ということです。

最初に「結論」について、疑義を示していましたから、それについて書かないといけませんね。
パラグラフの書き方、エッセイの書き方での「巷の本」から引いておきます。

  • D.P. フィリップス、荒竹由紀 『TOEFL ® のライティング』 (荒竹出版、1992年)

結論は、論文の中でも、特に重要な役割がある。読者に言いたいことを言う最後のチャンスだからである。以下のことを考えて結論を導くと良い。
(1) 本文で書いたことと結論は結びついているか。本文で書いた内容と結論にくい違いがあると、筆者が何をエッセイの中で主張したかったのかはっきりしない。例えば、hypothesis (仮説) をたてて、あることを証明するエッセイならば、結論の部分では、その証明が明らかにされていなくてはいけない。
(2) エッセイの中で何回か重要な部分にふれてはいるが、最後にもう一度強調するので、少し強い言葉を使うのもよい。
(3) 個人的な意見・主張を含めてもよい。結論は個人的意見を述べる所でもある。 (p. 119)

TOEFL® のライティングといっても、この当時はTWEですね。300語程度の “multi-paragraph essay” への対応策です。この最後の (3) の部分が適切に指導されていないのが現状、そしてその問題点なのでしょうか。

  • 藤田斉之 『英作文・英語論文に克つ!! --- 英語的発想への実践 ---』 (創英社・三省堂書店、2001年)

まず最初にコンクルージョンを書くに当たって絶対にしてはいけないことから始めましょう。これは考えてみれば当たり前のことですが実行しようとすると実は非常に難しいことです。それはコンクルージョンの中では決して新しい考えを述べてはいけないということです。これは「なあんだ、そんなこと決まりきっているじゃないか!」と思われるかもしれませんが実際私が英語の論文の授業をしているとクラスの三分の一ぐらいの生徒が必ず何らかの新しい論点・意見・考えをコンクルージョンの中で無意識のうちに書いているということからも、やってみると考えているよりも難しいことです。 (pp. 148-149)

  • 上村妙子・大井恭子 『英語論文・レポートの書き方』 (研究社、2004年)

(3) 結論の作り方
結論はエッセイの終わりを締めくくる。ここでは序論で述べられた主題文をことばを変えてもう一度言い直すことが求められている。結論部に来てからそれまで序論や本論で述べていなかったことを突然持ち出してはいけない。 (p.78)

至極真っ当です。これ以上何が必要でしょうか?

  • 三浦順治 『ネイティブ並みの「英語の書き方」がわかる本』 (創拓社出版、2006年)

も真っ当です。

結論は切れ味よく短く終わるのがよいとされる。結論の中で新たな問題を展開するようなことは避けなければならない。
主題文をそのままくり返すことは効果的ではない。主題文とそれに続くトピックセンテンスの主意の言い直しをするのである。

この後、英文の実例が挙げられているのですが、その要点のみを記しておきます。

(1) 文章全体を要約する。これが一般的なまとめ方である。
(2) 書き手が自分の考えも入れて結論付ける。
(3) キー・ワードあるいはアイデアを繰り返す。
(4) 説得し行動するよう訴える。

Non-native speakers用の教材からも引いておきましょう。
まずは初歩の初歩から説き起こしてくれる名著から、「結論文」に関する記述。これより易しい入門書を探すのは結構大変です。

  • Ann Hogue. (1996). First step in academic writing, Longman

Some paragraphs also have a concluding sentence. The concluding sentence summarizes the paragraph and adds a final comment.
An English paragraph is like a sandwich. The topic and concluding sentences are top and bottom pieces of bread, and the supporting sentences are the filling. The bread holds the sandwich together, and the supporting sentences are the meat and cheese.
When you write a paragraph, you first tell your reader in the topic sentence what you are going to say. Then you say it in the supporting sentences. Finally, you tell them what you said in the concluding sentence. This may seem clumsy and repetitious to you. However, clear academic writing in English requires all of these parts. (p. 102)

次に、「優れた書き手のストラテジーを真似するだけでは、上手く書けるようにはなれない」という真っ当なスタンスで、内省を繰り返しつつ初歩から積み上げていく佳作から、「パラグラフ」の作り方。

  • Jill Singleton. (1998). Writers at work: a guide to basic writing, Cambridge Univ. Press

The end of a paragraph, which is the last sentence of the paragraph, is called the conclusion. the conclusion is not just another supporting sentence. It has a separate job to do. The conclusion can:
1. remind the reader of the main idea---to do this, it repeats the topic sentence in different words.
2. give the writer’s feelings or opinions about the ideas in the paragraph.
3. do both of those things. (p. 72)


基本とはこういうものだと思います。

視点を変えて、出てきたプロダクトを評価する側の概説書から。本そのものは大学院生を指導する教師向けのハイレベルなものですが、説かれている内容はシンプルです。

  • P. Brian & S. Sue. (2007). Thesis and dissertation writing in a second language: a handbook for supervisors, Routledge

The typical shape of Conclusions
Thompson (2005: 317-318) lists the following conventional sections of a Conclusions chapter:
・ introductory restatement of aims, research questions;
・ consolidation of present research (e.g. findings, limitations);
・ practical applications/implications;
・ recommendations for further research. (p. 151)

私は自分自身の「ライティング」の指導のベースに、日英米の国語教育での作文指導、いわゆる “L1” の指導を置いてきました。そもそもの発端は、

  • その当時の高校現場で「ライティング」指導の優れた実践の多くが、「パラグラフライティング」といいつつも、「1パラ」しか書かないものがほとんどであること。
  • にもかかわらず、アカデミックライティングで求められる知識と技能、「フレッシュマンコース」などといわれるカレッジライティングの指導体系を高校現場にスライドさせた実践が多いこと。

への自分なりの意思表明というようなものでした。リチャード・スミスと一緒に活動していた90年代に教えてもらった英国や欧州での「しなやかな」ライティングのスタイルと、大村はまや倉沢栄吉らが進めていた国語教育での作文指導とが自分の中で結びついたことも大きな要因としてありましたから、

  • 「脱『北米スタイル』」、「脱『5パラグラフエッセイ』」の先に、発達段階に見合ったL2ライティングがあるのではないか

という模索でもありました。
しかし、そこから20年くらいが経つ間に、高校上級レベルの学習者を取り巻く環境では、「発達段階に見合った」スキルの根幹が定着するどころか、「パラグラフ」、「文と文の結びつき、その結びついた文全体のまとまり」といったライティングをささえるべき土台までがぐらぐらになってきてしまったのでしょうか。もしそうだとするならば由々しきことだと思います。
近年では、ネットでの検索が容易なくらい、「北米スタイル」を説く、ライティングセンターやライティングラボが情報を発信してくれていることを考えると皮肉な感じさえしています。次のような助言を、冒頭でリンクを張ったハーバードのライティングセンターの助言と照らし合わせてみると興味深いでしょう。

The conclusion should review or restate the major point or points presented in the essay; however, this review should not be an exact repetition. In the conclusion, the author also has an opportunity to state personal opinion, his conclusion, and possible projections for the future.
http://uwf.edu/writelab/handouts/EssayFormatMultipleParagraph2/

Many students find concluding paragraphs difficult to write for several reasons. The conclusion is typically created at the end of the writing process, when you are tired and your creativity is running low. You may have been taught conflicting approaches to writing conclusions, with some suggesting a simple inversion of the introduction (thesis → generalizations), and others emphasizing that you should avoid this approach at all costs. While there is no one right way to construct a concluding paragraph, there are some general guidelines that can help you end your paper on a strong note.
(DL可能なpdfファイルはこちら→ http://www.wlu.ca/forms/1676/Conclusion.pdf#search=%27Thompson%20writing%20conclusion%27)

この夏のELECの夏期研修会では、この辺りにも切り込むつもりでいます。

本日のBGM: Reckless Serenade (Arctic Monkeys)

追記:高校段階の指導に限れば、随分前の過去ログになりますが、「『結論』ではいったい何を結んでいるのか?」(http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20060311)も併せてお読みいただければと思います。