臨床の知

火曜日は台風接近で、臨時下校になり、午前中の3コマ連続授業。
商業科2年は、対面リピートから、Flip & Writeを噛ませて、うまく行かない部分を浮かび上がらせて、その部分をRead & Look up。再度、同じ箇所の対面リピートを重ね塗り、そしてダメ押しでFlip & Write。ここまでやっておいて、さらにここまでやっておいで、という感じ。
新教材の導入は「知床」。第4課から第2課へと戻っています。
まあ、進度を考えると、教科書を進めば進むほど、難しくなるので、試験までの残り時間が少なくなって難しいところをよじ登るのは大変です。時間がかけられる部分はお膳立てを充分した上で、授業で扱い、そこから少し戻って、負荷が軽くなったところで、身動きが楽になったかどうか確かめる、というような意図もあることにはあるのです。じゃあ、先に負荷の軽いところをより早く駆け抜ければいいじゃないの?という文句は生徒にもあるでしょうね。済みません。本当は、必要な文法事項だけプリントにして、レッスンそのものは、そのまま飛ばして先の課に進むつもりでした。
でも、後戻り、後退り。
なぜ、「知床」を扱うことにしたのか?

  • You cannot put back the clock.
  • What is done cannot be undone.
  • Don’t break anything you cannot fix.
  • You are the cause of your own ruin.

ということばが頭に浮かんだから。取り返しのつかないことをするのが人間という生き物で、折に触れ場に臨んで、自分に言い聞かせる必要があるだろうと思ったから。間に合う内に、間に合わせよう、と思ったから。
そう、「『福島第一』がまだ、何の終息も見せていないにもかかわらず、強行された大飯原発再稼働の決定」が契機です。
単純な世界遺産巡りとか、世界遺産の礼讃ではなく、「古今東西老若男女」という物差しで自らの言動、判断を内省することが大切だという授業を意図しています。世界遺産とは、「localだけどglobalな意味のあるもの」なんかではなく、「失ったら取り戻せない、万人にとってuniversalな存在」なのです。
導入では、奥田民生の股旅ツアー、厳島神社で披露された『レーザービーム』のさわりを聴かせました。
オリジナルとの余りに違いに、当然の如く、笑いが起きたのですが、どれだけの生徒が、この場でこの曲を歌うことの「意味」に気づいているか。
ことばを教える、ことばを身につける授業でありながら、

  • 知床の自然環境のように太古の昔から存在する遺産もあれば、厳島神社のように、いつの日か人が拵えた、この世に残した遺産もある。
  • では、私たち世代、あなたたち世代の人が拵えて、この世に生まれてきたもので、後世まで残すべきものとは?

という問いを受け止めてもらうには、どうすればよいか、悩みどころです。
今日は、前の課の「発展学習」で扱った、英英辞典の定義にいったん戻りました。
関係代名詞のおさらいから関係副詞へ。四角化ととじかっこ、番付表、さらには並列のナンバリングが出来ているか、総合力が問われるところです。主に、聡い生徒を足踏みさせないための課題なのですが、全員に確認させています。とはいえ、全員にこの短期間で定着するとは私も思っていません。

31. a drop of salty liquid that comes out of your eye when you are sad, have a cold, or are laughing violently
32. the mass of things like fine threads that grows on your head

と2つの定義で、関係代名詞のthatが使われているのだけれど、先行詞は共に<名詞+of+名詞>。 授業では、1年次から「A of BでBのA」と倫太郎さん譲りの名詞句の把握をやってきました。
31.の方は、先行詞としてthatに代入する名詞が、Aと解釈しても、Bと解釈しても、drop「滴」、liquid「液体」という意味で解釈している限り、結果として致命傷にはならないのですが、それはただラッキーだったんだよ、と言ってあります。32.の方は、growsとの呼応を考えると、Aに来る、the massを選択するしかありません。決め手は意味と形だ、ということは進学クラスで言っていることと同じです。
関係副詞を含んだ定義、というよりは、関係副詞があって初めてうまく定義となる例としては、

a place where people who are very old or sick, or children who have no family live and are looked after

が難儀しました。二つのorやandととじカッコの処理がなかなか出来なかったようです。やれることをやり続けるまでです。
続いて、新たな課の「仕込み」へ。
語彙の発音と綴り字を中心に。提示は日→英でやっています。既習語から、同じ綴り字で同じ母音となるものを板書し、軸足づくり。今日は、提示して私の範読でメモをとらせ、その後5語ずつ斉唱で音読。適宜、既習語の軸足に戻って練習。
時間に余裕があればと思って、浦島さんの「写真」に触発された「曲」も用意してありましたが、明日に回しました。
参考までにワークシートを載せておきます。

2012_C2_NW2_L2_仕込み.pdf 直
2012_C2_L2.pdf 直

進学クラスの1年は、『ぜったい音読』の緑本が終わったので、文から名詞句の限定表現を括りだす練習を開始。まずは、元の文が理解できていることが前提。紙に書かずに、頭の中で操作して、口頭で括り出せるように練習です。

進学クラス高2は、巷の、とある「勝手はいけない」本をとりあげ、問題のある箇所を指摘。その後、とあるブログで、この著者に触れている人がいたので、その箇所を読み上げ、「真っ当にことばと向き合っている人」へリスペクトを忘れないで、という話し。
「オリジナルな考察」で「英語ネイティブの感覚」を説くという点では共通点が見られるのかも知れませんが、この著者の本で書かれていることは、大西泰斗氏の一連の本で示されている内容や質に遙かに及ばないと思います。
この高2の教室には高2用の「学級文庫」があるのですが、多くの本が絶版本です。かなり古い本もあります。いつも生徒に言っているのは、

ここにある本は、ほとんどが私が実際に高校、大学そして現在まで自分の学びで使ってきたもの、あるいは教員として実際に教材で使ってきたもの。でも、内容がしっかりしていて、堅実な作りで、「ああ、自分の英語力向上に役立ったなぁ」と実感が持てるような語学書、教材は早々と絶版になってしまう。
一方で、内容の薄い、即効性を謳うダイエット本のような教材が次から次へと市場を賑わしている。そんなに売れている教材なら、それを買っている人はどんどん増えているわけだから、その分、日本には英語に堪能な人がどんどん増えているか?というと、そんな様子はあまり感じられない。売れ続けることなく絶版の本を使っていた人は英語が出来るようになって、売れまくりの本を使っている人が必ずしも英語が出来るようになっていないのはなぜ?
英語が出来るようになった人が皆Aという教材を使っていた、ということは、Aという教材を持っている人が皆英語が出来るようになることとイコールではない。残酷なようだけれど、達成と可能性の違い。同じコトが教材だけでなく、授業にも当てはまる。当然、私の授業も同じコト。

そんなこんなで、この課の実作である、「質問づくり」の前に本文の悩み所迷い所をうろうろしておきました。

進学クラス高3のライティングは、narrativeの仕上げ課題をGWTから。
「私の最も恥ずかしい話し」は、かれこれ20年くらいやっているのかなぁ。もともとは、某出版社で教科書を一緒に書かせてもらっていたN先生から教わった米国の『少女雑誌』の連載を使ったのが始まりでした。うまくいったことなどの「成功自慢」は鼻につくでしょ。本当に自分を笑えるのは、自分を知っているから。
思い返すに、N先生は卓越した英語力に加え、本当にことばの感性の豊かな方で、ご自分で何冊も教科書を書いていながら、自分の授業では教科書を使わないというのにも驚いたものです。英語は英語だから、といって、高1も高3も関係なく、いつもオーセンティックな題材を探していたような印象が残っています。
そう、英語は英語なんですよ。

Nelson系のhandwritingの指導書を並べて、改訂の流れを確認。
90年代は、Peter Smithを中心としていたものが、ナショナルカリキュラムを反映してか、2000年代の改訂でAnita Warwick中心へと移っているように思う。その間に入るのかよく分からないのだが、
Anita Warwick & John Jackmanによる、

  • Sound Start Handwriting: Teacher’s Guide, Stanley Thornes, 1996

という、フォニクスと実際に書く、handwritingとの融合を謳った指導書がある。40ページちょっとの薄いもので、テキストのページまでは印刷されていないので、指導体系が今ひとつ把握できていない。
手島先生は、この改訂の前後の繋がりをご存じだろうか?
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「玉川」の清流もそろそろ、滴が散る頃だと思っていたら、「若駒」と「満寿泉」が届いて、えびす顔。
夕飯は豚カツです。

本日のBGM: LOVE (美空ひばり)