醍醐味

進学クラス3年の「ライティング」は診断テストを進めて終了。いい加減、ホワイトボードを自分の記憶定着のために活用すべし。
使役動詞として、目的格補語の「原形」の形合わせばかり棒暗記しがちな “let” の基本義を確認。診断テストでは、

  • 窓を開けて、少し新鮮な空気を入れてくれませんか。

という和文英訳で「診断」しています。letそのものはそんなに難しい語ではない、という裏付けに、私が高1の時によく歌っていた、ゴダイゴの『僕のサラダガール』の一節を歌っておきました。

  • open up the windows wide to let the sunshine through

タケカワユキヒデ氏は本当に素晴らしいメロディメイカーです。
で、letの続き。

  • このズボンのウエスト、まだ出せますか。 Is there any room to let out the waist of the pants?

などでもletは便利です。私は「縛りを緩めて楽にする」イメージで使っています。このように基本語の呼吸が楽になるように英語と付き合うことが「常時英心」なのでしょう。
商業科2年は、遅々とした歩みの中、母のように寛大に、本文の最終行まで運河を進行。まあ、進んだだけです。中学校で既習の建前の

  • there is [are] 名詞 +(原則「どどいつ」の「どこ」)

を整理。<前置詞+名詞>が<副詞句>として働き、thereで置き換えられる、ということが定着していないと、文頭であたかも主語のように振る舞う thereを客観視できません。それまで点として通過してきたものが、プロットとして繋がり線となる瞬間、「ああ、そうか!」のために、再入門の高校入学当初から、<前置詞は名詞の前に置くことば>、<名詞は四角化で視覚化>と言い続けてきた訳です。

  • on Mars
  • on our planet
  • in the universe

がその場その場で、thereまたはhereとなるのだ、という実感をどう持たせるか。多くの高校教室で日々悪戦苦闘がなされていることと思います。「場所」「空間」に関して、thereと副詞句との関係を板書し、

  • In the future, humans will stand on Mars. What will we see then?

「では、最後の then は副詞句で言い換えると?」と問うて終了。

英語の文法構造として、「肝」でも何でもないようなところとこちらが思っていても、生徒の顔色を見る限り、よく分かっていないのだろうな、というところもでてきます。

  • one of the closest planets to us

では、<A of BでBのA>の処理が身についている者でも、ちょっと困ったりします。<名詞 is [are] close to 別の名詞>が分かるなら、<close+名詞 to 別の名詞>でもわかる「はず」だと思うのは、

  • 名詞 planetsの修飾をする形容詞closeの意味の上での繋がりが、名詞を越えて、その後ろまで及び、次の名詞までがcloseが修飾する名詞句のまとまりとなる。

ということが、それ以前の学習で分かっているから。 “the planets that are closest to us” などと関係代名詞を用いてパラフレーズしなくても分かる類例をじわじわ貯めて来たからです。

  • A of B + 前置詞 + C

と核になる名詞が3つある時に、<前置詞 + C>は、Bにまとまるのか、Aと繋がるのか、を決めるのは意味ですから、日本語訳を頼りに通過しても、覚えてしまえる生徒は、そこそこに点を取り、悩みません。が、本当に理解しているかは不明。一方、愚直に自分の理解 (できないことへのもどかしさ) と付き合おうとしたり、途中で諦めたり、砂に顔を突っ込むダチョウ宜しくハナからそんな課題はなかったかのように振る舞う者も、いない訳ではありません。そちらの方が多いことの方が多いかも知れません。出来ない言い訳の出来ないシステムの構築を目指して、また運河を進むまでです。大海を知らないからといって、成長という旅をしていない訳ではありませんから。

進学クラス1年は、辞書指導へ。『エースクラウン英和』 (三省堂) です。

  • 世界で一番長い英単語は?

というなぞなぞのネタふりから、smilesでオチ。肝心の長さの単位 mile を辞書で引いて、フォニクスのルール徹底。そして、意味の確認。1 mile = 1.6km = 1600m。我々にとって「キリのいい」数値と思えるのは、それを「単位」そして育ち、その「単位」を用い、依存して生きているから。

  • 単位は文化である。

という名言を辞書の余白に書き込ませて、本題へ。
辞書で “smile” を引いて、そこに書いてある意味を確かめ、

  • その動作・行動をして私の方を見なさい。

という指示。日本でも同様の笑い方があるので、簡単です。私も笑顔で対応できます。次に、辞書で “grin” を引きます。中学校では馴染みのない単語でしょうから、引き当てるのに苦労する者も当然いますが、なんとか、

  • その動作・行動をして私の方を見なさい。

もできています。ただ、鏡写しとなる私が、その状態で「どのような笑い方なのか」を説明するのは結構大変。ということで、辞書の余白に、

  • 声を出さずに

というコメントを書き加えさせます。続いて、古い辞書を一冊取りだし、教室後方の棚の上に開いて、初「シャトルラン」です。

  • He did not smile; he grinned.

柴田時代の『ニューアンカー英和』 (学研) の用例です。この用例と訳文には、外国語学習のヒントが詰まっているので、改訂されて今では市場から消えていますが、ずっと使っています。そこで示された和訳は、

  • 彼は微笑したのではない、大にこにこだったのだ。

「大にこにこ」という訳が傑作だと思います。我々の文化にはない動作・行動の切り取り方。それはまさに「単位」なのですから、度量衡の「換算」にあたる、「訳」は工夫をしないとならないし、「概算値」「近似値」から出来る限り「等価」に迫る努力をするわけです。「わけ」がわからないところから、どのように「実感」へと躙り寄るか。こういうところこそ、「和訳」を排除するのではなく、訳の面目躍如というか醍醐味を味わうくらいのつもりで授業で扱えばいいのですよ。ohapuruさんがどこかで書いていたこととも通じると思うのですが「『通訳』するのは歓迎されて、『翻訳』するのは非難される」というのはおかしいでしょう。
最後に、grinの過去形の “grinned” で綴り字と発音。前時のフォニクス指導、「子音字を二つ並べる時の前の母音は名前読みしない」、に繋がって終了。

進学クラス高2はちょっと長居をしているパート3の「語義」。

  • at once

のパラフレーズで、「すぐに」という訳語に対応する right awayや immediatelyはまあ、守備範囲に入れられるでしょうが、immediatelyという副詞を聞いて意味が分かる生徒でも、綴り字では結構難儀します。意味が分かって、音が分かったら『グラセン和英』で調べるのが便利。without any delay; in no timeあたりは初遭遇、というのが普通でしょう。でも、説明できない訳ではありません。
よくできる生徒のために、「マイナスイメージの偏とか旁に相当する in-」 + media、 という語源「的」な解説も加えています。クラス全体としても、『P単』の銅メダルはカバーしてはいますが、ラテン語の “mediate” ですよ、といわれても分かる訳がないので、馴染みのあるmediaという部分のみを引っ張り出して伝えています。徒に煙に巻いたり、衒学的な講義にならないけれども、「ウソ」はつかないよう常に意識しています。
「-media-の最初のmは唇を閉じて作る音なので、本来はin-の終わりの nが引っ張られてmに変わっている」ということも教えています。この課では、「終身刑」の定義で、imprisonmentという語を導入していますが、それは次時の導入で、今日の復習として使う予定です。
で、immediatelyの意味の要素の足し算、

  • 間に入るものがない

ということを「時間」に当てはめて使っているのだ、という補助線が引けることが大切。私も小川芳男先生の『ハンディ語源英和辞典』 (有精堂) で学んだ口ですから。 (p. 269)
「同時に」の方は頻度が少ないとはいえ、英語で言い換えるなら、 at the same time くらいで、それで簡単になったのか怪しいところ。

  • simultaneously

と私が言った英単語をすぐ書き留められたり、英和辞典で調べられる方がどうかしています。こういう時も『グラセン和英』の活用です。
他の言い換えができるか考えるために、

  • 日本語で、「同時に」という表現を使う典型例を3つ以上考える。

という宿題で終了。

大荒れの中、定時で帰宅。帰宅後は怖いくらいの暴風雨。うなり声のような風に、娘もちょっと泣いてました。
遅めの夕飯はヒレカツカレー。良い肉でした。付け合わせは妻が先日採ってきたクレソンのサラダ。美味。

本日のBGM: Salad Girl (タケカワユキヒデ)