「痛みさえも愛おしさになる」

なかなかハードな週後半でした。
採点を終えた代休明けの火曜、水曜と体調が優れず、寒気がするのと頭痛が酷かったので、水曜日は朝から麻黄湯を服用し、腰の少し上辺りに使い捨てカイロを服の上から貼って過ごしていました。午後になって、脇腹から肋骨の下辺りにかけて、つねられたような、燃えるような痛みがしたので、同僚とも、「なんかこの辺りで風邪菌と戦っているような感じです」などと、談笑していました。
妻は忘年会旅行に出ていたので、帰宅後に残り物のカレーを温めて食べ、娘を寝かしつけた頃から、だんだんと背中に痛みが出てきました。これは私も早く寝た方がいいかなと、寝間着に着替えるときに、鏡に映してみると、赤い水ぶくれがちらほら。場所が場所だけによく見えないので、「低温火傷」をやってしまったかなと、2年前の踝の低温火傷の経過を思い起こし、

  • 来週くらいで深部の皮膚がどのくらい死んでしまうかで重傷度が変わってくるということだろうな…。

などと覚悟をしながら、その晩は冷やしたり寝返りで水ぶくれをつぶさないように毛布を丸めて片側に寄せたりして経過を見ました。おかげで、『相棒』を見損なってしまいました。
朝になってみるといよいよ痛みが増していたので、ネットで検索し、湿潤療法を施してくれるクリニックを探して電話。低温火傷でも対応可能とのことで、その日の授業が3コマ目までに固まっていたこともあり、授業を終えて、車で急行、診察を受けた。
最終的にわかったことは、低温火傷ではなく、帯状疱疹でした。
ドクターには「低温火傷なら3ヵ月はかかります。帯状疱疹は2週間くらいで引くと思いますが、過労とか睡眠不足とかストレスで免疫力が低下しているので、ウィルスががぁーっと出てきたわけですから。」と、体調管理を諭されました。私もいよいよ黄昏れていく歳になったということでしょうか。
抗ウィルス剤の飲み薬、塗り薬に痛み止めを処方してもらい、疱疹面の保護にプラスモイストも出してもらいました。高くつきますが、とりあえず、静養して経過観察ですね。とにかく、寒いのがダメです。金曜日から冷え込みが厳しくなったので、痛み止めを飲んでいてもキリキリとした痛みが走ります。本当におじいちゃんになった気分。

今日は、一段と冷え込んだので、自宅でベッドに横になりながら本を読んだり、炬燵に入りながら教材の精査をしたりという感じです。
先日のエントリーでも取り上げたエッセイライティングの教材を取り寄せて教授資料なども逐一調べたのだが、ちょっと授業で使えるようなものではなかった。申し訳ないが、これが全国の高校の教室で使われると思うと、不安が大きい。特に、意見文・論証文の英語に問題が多い。日本語の発想を文にしてそのまま英語の文に置き換えながら進んでいき、段落の最後の方でようやく主張がなされるようなものを英語ネイティブの校閲者はなぜパスさせたのだろうかと訝しく思う。問題のあるパラグラフがあまりに多くて全てを出版社に指摘する元気もなくなりそうだが、前回のものに加えて、長短それぞれ1つずつ転載する。まずは短い方から (解答編、p.15)。

It is getting difficult for the young to find a job because of the recession. I heard that a good number of them cannot work after they graduate from university. Some of them intend to skip their test or to take a year off in order to look for a job when they are still a university student. If they graduated from university, they would be regarded as unemployed, which might make the situation to find a job more difficult. But I don’t think it is the right thing to for them to do, because university is a place where people study. It is not a place for a moratorium.

「お題」が何だかわかるだろうか?ここでは、「社会的な事象を1つ挙げて、実際の例を加え、自分の見解を100語程度で書きなさい」、である。この日本語の指示通りに、日本の大学生の「就活」の問題を日本語で発想し、それを英語に移し替えていったと思しき文が書かれていると言っていいだろう。では、主題文は何なのだろう?
次は長めのもの (解答編、p.29)。

I think that the death penalty should not be abolished. It is difficult to decide whether to give life imprisonment or the death penalty to a criminal. I feel upset when I hear the prisoners who committed serious crimes get shorter years of punishment because of an amnesty.

As the saying goes, “an eye for an eye, a tooth for a tooth”, only a killing for a killing might pay. When I think about the bereaved family, it is not fair for them if the murderer gets out of the prison after only some years. he or she would deserve the death penalty.

Besides, the death penalty will prevent terrible crimes to some extent. If death is waiting as a punishment, criminals might be afraid of it. It can also make people think about what it is to commit a crime and the importance of life.

Humans cannot create a life with organic matter. Taking someone’s life is a terrible thing. Nobody has such a right. It is true for both the criminals and the judges, but as a civilized society, the rules and laws should be made by us, and laws should judges the crimes.

こちらの「お題」は、「死刑の是非について自分の見解を述べなさい」というもの。200語程度で書くことになっている。これが、授業で生徒に書かせた英文で、これをたたき台にして、よりよい英文とは何かを学ぶのであれば理解は出来る。しかし、これは解答例として示されているのである。
教授用資料には次のように書かれている。これが著者達の「ライティング」に対する基本的なスタンスなのだろう。

教授者からの援助は極力少なくする
Essay Writingには正しい答えなど存在しません。教授者が正誤を判断するということは、学習者の思考を停止させ、Essay Writingを行う上で必要となる「批判的な視点」を獲得する機会を奪うことになります。学習者が自発的に考える工夫を怠らないようにして下さい。(教授資料、p.5)

厳しい言い方になるが、この著者達は、まず、

  • 上田明子 『英語の発想---明解な英文を書く』 (岩波同時代ライブラリー、1997年)
  • Suzanne Bratcher. (1997). The Learning-to-write Process in Elementary Classrooms. Routledge
  • 大井恭子 『英語モードでライティング』 (講談社、2002年)
  • リーパーすみ子 『アメリカの小学校に学ぶ英語の書き方』 (コスモピア、2011年)

などのアカデミックライティングに入る前の段階の基本的な概説書で、創構 (invention) やアイデアジェネレーションの手法をどのように、パラグラフ内の構成やパラグラフ間の構成へと活かすのかを考え直すべきだろうと思う。
上に示した書籍の中には絶版もあるだろうが、「ライティング指導」を志す若い英語教師の方たちには古書でも良いので入手して欲しい。私が、GTEC Writing Training のベースとなる、自分のライティングシラバスを構築したのが90年代の終わり頃だったのだが、その際に最も参考になったのが、The Learning-to-write Process in Elementary Classrooms であった。(それ以外の書籍に関しては、『ライティング指導評価、この50冊』に詳しい。過去ログ参照→ http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20110401)
Bratcherの一連の書籍では、北米の公立小学校での指導経験に裏打ちされた「心」のある方法論に感銘を受けた。英語は高校生でも分かるような簡明な表現で綴られているので直ぐに読み終えられるだろう。アマゾンのカスタマーレビューに私が書いた文章をここに転記しておくので参考にされたし。

effectiveであることの前にappropriateであるかどうか、問うてみよ、というアメリカ人は少ないだろう。competenceを伸ばそうと思うなら、その前にconfidenceを養う努力をすること、そしてconfidenceを身につけさせるには、クラスで、また対教師、生徒間での comfortを基盤として確立しておくことという、「教育」の原点がここにはある。アカデミックライティング信望者は是非一読を!主題文、指示文、結論文などパラグラフの構成を云々する前にやっておくべきことが書いてある。この本を手に取ろうという日本人はどういう人なのかを考えてみた。L1の子供たち(小学校児童に相当)のライティング指導に携わる日本人というマーケットは小さいだろう。イマイチ、じゃなかった、イマージョンプログラムの効果を信じ、日本の中学校初学年くらいで5-paragraph essayなどの指導に熱心な教師たちが手に取る可能性が高いのか?その場合は「なぜ、自分のやろうとしていることが日本人相手には上手くいかないのか?」という指導改善のスタンスで読むといいだろうか?本当はふつうに中高生に英語を教えている教師にこそ読んで欲しい。ライティング指導に消極的だった人はまさに、comfortとconfidenceを感じ取れるはず。高校生にバリバリエッセイを書かせているようなマッチョな人は、指導者は自分自身がアカデミックライティングの体系を身につけたのは何歳(学習歴何年)頃だったかを自問し、学習者の発達段階を再考するきっかけを与えてくれるはず。タイトルを変えて翻訳書で出す奇特な出版社いませんかね?

『…この50冊』から、早や10年、このレビューからも、もう7年が過ぎたが、日本のライティング指導の状況はほとんど変わっていないのではないか、と暗い気持ちになることも多い。
そんな中、リーパーすみ子氏の『アメリカの小学校に学ぶ英語の書き方』が今年になって出版されたことは大変喜ばしく思う。個人的には5-paragraph essayの指導を手放しで賞賛するわけではないが、北米の小学生にできることが日本の高校上級生で、しかも大学進学を果たそうというレベルの生徒でできないはずがない。「ライティング」という科目が高校のカリキュラムから消えてしまうまであと2年しかない。良い本は、多くの人に読んでもらいたい。
できれば、次の本で指導方法も研究して頂きたいと思います。共著ですが、私個人分の印税は、今後、東日本大震災の復興支援のために寄付させていだだきます。
『パラグラフ・ライティング指導入門』 (大修館書店)

パラグラフ・ライティング指導入門―中高での効果的なライティング指導のために (英語教育21世紀叢書 17)

パラグラフ・ライティング指導入門―中高での効果的なライティング指導のために (英語教育21世紀叢書 17)

本日のBGM: Pain (Hiroshi Takano)