関係代名詞: who, whom, that or nothing?

「英語授業工房」で取り上げられていた、関係詞の扱いが気になったので調べもの。

自分の考察を備忘録代わりに抜き書きするのがこのエントリーの端緒でしたので、大幅な加筆部分は最後に回してあります。ご面倒をおかけしますがお付き合い下さい。

中学段階での指導にどのような制約と配慮があるのか、過去の指導要領とその解説書を見ると何か分かることがあるかも知れませんが、今は手元にないので、手元にある資料にだけ当たってみます。
指導に関して、現行の中学校の指導要領では「疑問詞」としてwhomを扱っていないということ、人を先行詞とする制限用法では、英米共に省略 (いわゆる接触節) が優勢だが、米語法ではthatが多く用いられ、英語法としてはwho/whomの使用を正統と考える人が多い、という英語の実態・英語母語話者の特徴は念頭に置いておくべきだと思います。

『クエスチョンボックスシリーズ XI 句と節・疑問詞・関係詞』 (大修館書店、1962年)

現在の英語においては、人間を表す語に対する関係代名詞にはなるべくwhoを使おうとする傾向があります。これは多くの学者や文法家の認めるところで、「thatでは人間をいかにも無生物に扱うようで、軽べつの感じが含まれるから」と、Fowler (Usage, p.716) がその理由をあげています。(中略)
2. 関係代名詞が目的語になる場合
口語英語としてもっとも普通なのは、関係代名詞を省略した形です。省略しないとすれば、thatかwhomですが、どちらが優勢であるかは判定がむずかしいところです。ただ、whomは文語的色彩をもっていることはたしかで、会話ではめったに用いられません。また、上で特例としてあげたpeopleの場合もthatが用いられます。
i) The man (that) you see at the desk is the secretary. (机のところにいる人は秘書です)
j) Can you remember the person (that) you took it from? (君がそれを取った人を覚えていますか)
k) The people (that) you met at my house yesterday are Moslems. (きのう君がぼくの家で会った人は回教徒です)
以上はもちろん関係代名詞が制限用法の場合で、非制限用法の場合は省略も不可能だし、thatも用いられませんから who [whom] が使われるのが当然です。
l) The gardener’s wife, who has been married for ten years, has just had her ninth baby. (庭師の女房は、結婚生活10年だが、こんど9人目の赤ん坊を生んだ)
m) Mr. Green, whom you met at my home last month, is my music teacher. (あなたが先月私の家でグリーン先生に会われたが、私は先生に音楽を教わっています)
(pp.85-86、この項の回答者は江川泰一郎氏。)

最後の2例で分かるように、「who [whom] が使われるのが当然」というものの、それぞれ「主格」「目的格」に対応していると考えるのが自然だろう。whomという語の扱いを考える時には疑問詞との関連も考え合わせなければいけないだろうということで、

中島文雄主幹『中学英語事典---語法から指導法まで』(三省堂、1966年)

疑問詞としてのwho; whomの用法は次のように規定できる。
(1) 単独で用いられる場合、すなわち前置詞を伴わない場合は、主語であっても目的語であってもwhoを用いるのが普通である。
Who do you mean? (誰のことを言っているのだ。)
Who are you looking for? (誰を探しているの。)
これに反して
Whom do you mean?
Whom are you looking for?
は’unnatural English’ (Evans) である。

(2) 前置詞が伴う場合
For whom are you looking?
は文法的に正しい。しかしこの表現は、殊に口語では絶対にと言ってよいほど起こり得ない語順である。
(3) whomが用いられる場合
‘I saw Mr. Yamada.’ ‘You saw whom?’ (「山田君に会ったよ。」「誰に会ったって。」)
上のように相手の言うことを聞きもらすか、あるいは意外に思って反問する場合にはwhomが用いられる。(中略) 要するに疑問文の冒頭にwhomを用いるのはLatinistsが作り上げた奇妙なpurismであったわけである。その原因についてはいろいろ考えることができるが、何よりもことばはsymmetryを求める傾向があること、また語形変化はanalogyによって影響されやすいことを考えるべきであろう。他の疑問代名詞what, which が常に同一形である場合に、whoにかぎってwhomとの使い分けをする不便があれば、なるべく早く取り除こうとするのが言語本来の傾向である。ましてや前置詞が文頭に置かれることが少なくなってはなおさら抵抗は少なくなって来る。かくして英語の基本的な疑問代名詞 who, which, whatのいずれもほとんど単一形で統一されることになるのである。 (pp. 355-356、この項の執筆者は松浪有氏)

この『事典』は英題が"A Cyclopedia of English for Junior High School Teachers" というだけあって、複数の著者によって指導法についても詳しく書かれている。

先行事例を詳細に調べてまとめてくれているのは、次の書物。

綿貫陽 『教師のためのロイヤル英文法』 (旺文社、1994年)

昨今では、whomは、書き言葉や堅い言い方に限られ、会話では、目的格でもwho [that] を用い、しかもこれは省略されるほうが普通である。
He paid the man (who/whom) he had hired. [Frank]
非制限用法でも、省略はできないが、whoを用いてよいことには変わりない。
I was in the same group as Janice, who I like a lot. [CBDSG]
These papers belong to Bernard, with whom I am sharing a room.
…, who I’m sharing a room with. [A-Z]

したがって、whomを省略できない例文は、次のようなある限られた形になる。
Two men, neither of whom I had seen before, came into my office. [GIU]
The two workers, both of whom were exhausted, sat down. [EGC]
(中略)
結論として、話し言葉ではwhomは使うことはまずないと言ってもかまわない。ただ、Web U (p.959) が言うように、書き言葉の場合は、主格のwhoと目的格のwhomを使い分けるほうがよいという注意は、現時点でも妥当である。(p. 179)


吉田正治『続 英語教師のための英文法』 (研究社、1998年)

以上の議論から、英語教育的観点から言えば、「人」を表す名詞句が先行詞になった場合には、制限的用法と非制限的用法とを問わず、関係代名詞はwhoが用いられ、「人」以外を表す名詞句が先行詞になった場合は、(前置詞を伴わない) 制限的用法であればthatが、前置詞を伴った制限的用法および非制限的用法であればwhichが用いられると指導してよいでしょう。(p. 115)

教室での文法指導方法を説く指南書で、
George Yule (1998),
Explaining English Grammar, Oxford university Press
では、以下の実例を元に考察を記している。

[11] b. Where is the person to whom you talked?
[12] b. Where is the hotel in which you stayed?
[13] a. Can I meet the person that you talked to?
b. Can we find the hotel that you stayed in?

When a preposition is stranded, it is even more common to find clauses with zero relative, as in [14].
[14] a. Mary knows the person φ I talked to.
b. And she’ll remember the hotel φ we stayed in.
It is still possible to find grammar handbooks that warn students not to end a sentence with a preposition, as happens in [13] and [14]. However, these structures with stranded prepositions are much more frequent in contemporary English usage than after-preposition relative in [11b] and [12b] with fronted prepositions. Neither is ‘better’, but those with fronted prepositions (to whom, in which) can sound very formal and stuffy. (pp. 242-243)

初学者用の英文法といえば、

Michael Swan & Catherine Walter (2001),
The Good Grammar Book, Oxford

We can use whom for people when the relative pronoun is the object of the following verb.
I’ve just got a postcard from a women whom I met on holiday last year.

But whom is formal and unusual. In spoken English, we more often use that, who or nothing.
I’ve just got a postcard from a woman who/that I met on holiday last year.
OR
I’ve just got a postcard from a woman I met on holiday last year. (p. 239)

日本人学習者の弱点を熟知した著者のものとしては、次が有益。著者はCambridge大卒の英国人ということを踏まえて。

T.D. ミントン 『ここがおかしい日本人の英文法 III』 (研究社、2004年)

「人」を修飾する制限用法の関係詞にはwho とthat (とwhose) があります。私個人はwhoを好んで使いますが、会話やインフォーマルな文書ではどちらを使ってもかまいません。よりフォーマルな文書ではwhoを使うことをお勧めします。whomは制限用法では省略される (非制限用法では省略されない) か、thatで置き換えるのが一般的です。間違ってwhoで置き換えられていることもありますが、読者のみなさんは真似をしないようにしましょう。 (p. 135)

八木克正 『世界に通用しない英語』 (開拓社、2007年) では、次の2つの問題を例にとり、学校の指導でwhomを求めることを戒めています。

(2) John is the man (who, whom) I was talking with. (ジョンは私としゃべっていた人です)
(3) The man (who, whom) I thought to be my best friend deceived me.

少なくとも話し言葉の中ではwhomはますます姿を消す運命にあるように思われます。学校教育の中でも、少なくとも(2), (3) のようなものを試験に出したりすることはやめるべきです英米の語法辞典類ではこのwho/whomの違いについて触れていないものも多く、すでに問題にもならない事項になっているのです。 (pp. 86-89)

新しいものでは、

小林敏彦 『口語英文法の実態』 (小樽商科大学出版会、2010年)

口語では疑問詞のwhomが英語の母語話者には堅苦しく聞こえるために避けられる傾向にある。今日ではWhom did you see yesterday? と言う人は稀で、Who did you see yesterday? が一般的な言い方である。関係代名詞の目的格のwhomも文語でも口語でも今日は避けられる傾向にあり、He is the man whom I met yesterday. ではなく、He is the man I met yesterday. と省略するのが自然である。幸い、この点はたいていの教科書や文法書に記載されている。
また、前置詞の後にはwhomを用いるのが文法的であると解説する辞書も多いが、Biber et al. (1999) のコーパス研究によると、文語では by whomは一般的であるが、次の例にあるように口語ではby whoが一般的であると報告している。
[1] The question is, by who? [Blakes 7, 1978]
しかし、洋画やTVドラマのセリフの中には以下の例にあるようにby whom の使用も多く観察されている (用例略)
口語では疑問詞のwhomは疑問文の冒頭で使われることはほとんどないが、by whom のような前置詞が前についた形がいわば定型として未だに健在である。また、関係節 (relative clause) における関係代名詞の目的格のwhomはますます廃れてきているが、thatは文語ではまだ使われることが多い。
ここで問題になるのは、現代の日本の中学生に関係代名詞を教える際のwhomの取り扱いである。一般に特定の語彙の使用頻度に比べて文法項目の使用頻度について教室ではほとんど触れられておらず、教科書にもほとんど記述がない。ゆえに、学習者はどの文法事項もいずれも同じぐらい重要なものとして受け入れている。口語ではby whom の形でしかまず耳にすることがない現実を踏まえると、現場の教師はどう教えてよいか戸惑うかも知れない。関係代名詞の主格、目的格、所有格を教える際は、それぞれの使用頻度に関しても触れるべきである。 (pp.81-82)

こういった文法書・概説書以外に、研究論文なども有益な資料となる。
ただし、研究は新しければ良いというものではなく、分析対象は何か、きちんとした考察が加えられているか、という点が重要である。
私が英文法の関係代名詞で特に重視して参考にしているものは、織田稔氏のもの。
大阪教育大のアーカイブには織田氏の研究資料が公開されている。
まずは、このあたりが必見だろうか。
織田稔 「関係詞節と教科書の英語」 (1972年)

追記:
中学校段階での指導内容はいわゆる「週3体制」で激変していることが予想されるので、指導要領を振り返ってみた。

指導要領に関する解説である、
平田和人編著 『中学校新学習指導要領の展開 外国語科英語編』 (明治図書、2008年)
では、文法事項の解説を文科省側で二度の改訂に関わった平田和人氏自身が執筆しているが、そこでは当然、目的格のthat, whichのみが示されており、

なお、関係代名詞が現れることのない接触節については、先行詞による使い分けなど学習上の負担も比較的少ないことから、関係代名詞とは異なる後置修飾の節と考える。しかし関係代名詞と併せて指導し、後置修飾としての類似性を指導すればよい。 (pp. 97-98)

と補足するだけで、どのように「類似」していて、どのように使い分けるのかの解説はなく、その後、高等学校段階でどのように「格」の問題と、前置詞と共起する際の整合性を図るかなど、指導上の困難点は先送りされている。

昭和52年度改訂の指導要領では、「別表1」にwhomが記載されているのだが、文法事項は学年配当がなされており、その第3学年で、

ウ 文法事項
(ア) 関係代名詞which,who及びthatの制限的用法(これらが省略された場合を含む。)

とあるだけで、「格」に関する記述はない。
では、whomはどこで指導するのだろうという疑問が浮かぶが、第1学年で、

イ 文
(ア) 単文
(イ) 肯定及び否定の平叙文
(ウ) 疑問文のうち,動詞で始まるもの,助動詞Can,Do及びDoesで始まるもの,orを含むもの並びにHow,What,When,Where,Which,Who及びWhoseで始まるもの。

となっていて、whomは文頭では指導しないものとされている。結局、同じ第一学年の、

オ 文法事項
(イ) 代名詞のうち,人称,指示,疑問及び数量を表すもの。

の部分で扱われるものとされているのではないかと思われる。

さらに遡り、昭和44年改定では、第3学年に、

エ 文法事項
(ア) 代名詞のうち,関係代名詞 which,who および that の格の変化,制限的用法および省路された場合。

とあり、「格」や「省略」に関しても記述がある。また、第1学年の文法事項の記述で、

オ 文法事項
(イ) 代名詞のうち,人称,指示,疑問および数量を表わすものならびにそれらの性,数および格の変化。

とあり、疑問詞の格を扱うことが明記されている。興味深いのは、

3 内容の取り扱い
(2) 内容の(2)のエの(ア)については,名詞のうち,不規則な複数形および複合名詞,代名詞の性,数および格の変化の語ならびに形容詞および副詞のうち不規則な変化の語は,それぞれ1語として数える。

とあることから、「関係代名詞」のwhoの格変化である、whomは当然扱われ、しかも1語として数えられているという建前であることがわかる。

昭和52年度版でも、「内容の取扱い」で、

内容の(2)のエの(ア)については,名詞のうち不規則な複数形及び複合名詞並びに代名詞の性,数及び格の変化の語は,それぞれ1語として数える。(第2学年及び第3学年において同じ。)

という記述はあるが、その前段階の、「文法事項」の記述が変化していることがわかる。
この当時の指導要領執筆者の文法観、それぞれの項目の関係をどう考えていたかが窺い知れる。
上述の44年度版、52年度版の記述は、「学習指導要領/評価基準」(http://www.nicer.go.jp/guideline/old/) より転載したものであることをお断りしておく。)

英語の実態の補足としては、Biber 他による、コーパスを元にした比較的新しい (1999年刊) 文法書である、

  • Longman Grammar of Spoken and Written English (8.7.1.4, pp. 614-615)

によると、

While who can also occur with object gaps, this option is rare (and stigmatized in written texts):
There’s a girl who I work with who’s pregnant. (CONV)

That is more commonly used than who as a viable alternative to whom. This choice is especially preferred in colloquial discourse, apparently to avoid the formal overtones of whom, and possibly to avoid making a choice between who and whom:
There might be people that we don’t know of. (CONV)

She took up with the first boy that she came near to liking. (FICT)
Then the woman that they actually caught and pinned down would not have been Margot. (FICT)

However, with non-subject gaps it is much more common to completely avoid the choice among relative pronouns by omitting the relativizer altogether. Interestingly, this alternative is the preferred choice in both spoken and written registers:
You’re one person I can talk to. (CONV)
She was the most indefatigable young woman he had ever met. (FICT)
He’s one of the most unpretentious people I’ve met. (NEWS)

For the most part, that and zero relativizer are alternatives to whom only with restrictive clauses; non-restrictive clauses with animate head nouns and non-subject gaps almost always take whom:
This man, whom Elthia never saw, opened a locally famous restaurant. (FICT)
Ivan said Sue, whom he met two years ago, had spent almost every hour with him during and since the operation. (NEWS)

という記述があり、参考になる。

whomそのものに関しては、
金子稔『現代英語・語法ノート II』(教育出版、1997年) に、

  • 「関係代名詞の用法について」(pp.15-21)

という実際の用例を踏まえた興味深い考察が示されているので、高等学校段階以上を対象とする指導者は機会があれば読んでみて欲しい。

梅田巌 『学校英文法と現代語法の世界---フィールドワークとコーパスに基づく研究---』 (リーベル出版、2001年)
では、「関係代名詞who/thatについて」(pp. 53-62 ) の「英語教育への示唆」において、

2. Greenbaum & Quirk (1990: 369) の言う「主格の場合whoが、目的格の場合はthatが好まれる」という記述は上表の検索結果を見る限りにおいては正しいとは言えないようである。thatにしても who(m) にしても特に改まったスタイルでなければ目的格の場合は省略されるのが普通であろう。今回の検索結果から見ても、目的格としての who(m) の生起率は極めて低い。
3. 英語教育の観点から言えば、特に中学校段階では「先行詞が人の場合、どの語 (句) によって限定されようとwhoを用いる」と指導するのが望ましいと思われる。

という著者の見解が示されていて興味深い。

本日のBGM: 四分の一ではなく、一回休み

※1月25日 補足:

The Columbia Guide to Standard American English (1993)

Only in Oratorical and Edited English and other Formal uses are these cases always distributed according to those rules. Conservative practice adheres to them in all levels as well, and such use is always appropriate, though not required: English has long given us Conversational, Informal, Semiformal, and occasionally even Formal uses where, at the beginning of clauses where whom is called for, who occurs instead, and at the ends of utterances where who is called for, whom occurs instead. Thus, at the lower levels of usage, such diametrically opposite uses as these are Standard: Who was the lady I saw you with? You asked who to go with you? The only exception to the frequent occurrence of who toward the fronts and whom toward the ends of sentences: the closer a preposition is to its object pronoun, the more likely we are to use objective case: Who did you go with? but With whom did you go? I saw who you were talking to but I saw to whom you were talking. Unfortunately, this sort of divided usage has led to much hypercorrection. (p.466)