Dance while you can.

新年度スタート。
出校し、職員室の民族大移動に備えて、机の上、下の書籍の整理。一時的に自宅に置いておこうとは思うのだが、「これ以上増やしてどうするつもり」と訴えかけるような妻の顔が目に浮かぶ…。
LACIEの320GBのモバイルHDDが職場に届く。これで、古いPBG4 12inchを丸ごとバックアップの予定。2代目はできるだけ身軽で行きたい。
午後は、小雨交じりで強風のちに雷雨。桜の花も翻弄。
きのうの『ボレロ』 (槇村さとる) からの連想で、曽田正人『昴』の10、11巻を読む。『Moon』も見ようかなと、ようやく素直に思えたので、安藤選手に感謝。
『新英語教育』 (三友社) 4月号の特集「心にしみこむ小学校英語 〜親、先生、各界へのメッセージ〜」を読む。
行政へ、と付記された巻頭論文は阿原成光氏。
タイトルは、「拝啓 文部科学省教科調査官 菅正隆様」なのだが、菅氏の正式な肩書きは昨日の拙エントリーにあるとおり。
阿原氏の言葉で看過できないものが一点。

  • どうも英語は生まれたときから、共通語の性格を持っていたのではないか、と思うのです。ケルト語が話されていた場所へ北欧から侵入したアングロサクソンが自らの言語を変えながら共通語として英語をつくったのではないか、と想像するのです。だから、アメリカで、オセアニアで、アジアでそれぞれの英語が使われてきているのでしょう。(p.7)

英語の成り立ちにロマンを感じるのは結構だが、イマジネーションの発露もほどほどにして欲しい。
傾聴に値するのは行政に対するp.7で示される「阿原試案」ではなく、「高学年の授業づくりについて考えてみました」という最後の提言7つのうちの最初の1項目。

  • 1. アルファベットの音と書き方を丁寧に学び、その由来を知り、文化としての文字を体験的に理解する。(p.8)

この部分は、ローマ字学習との兼ね合いから言っても極めて重要な項目である。単に、「フォニクス」として導入すればすむことではない。

音声に慣れ親しむ、とか「素地を養う」といった到達目標を数値化することができないように「ねらい」を設定した指導要領は見事というよりほかないのであるが、この指導要領を完成させた方たちは、次のような動きが生まれているのをどう眺め、どう関わろうとするのだろうか?スルー?私には違和感ありありである。

主催は毎日新聞系列各社、後援には文科省、外務省、協賛には河合塾、特別協賛には子ども英会話のミネルヴァ、が名を連ねている。審査委員長は東京外国語大学大学院教授の根岸雅史氏。コンテストの趣旨に関連して、こんなコメントをしている。(→ http://mainichi.jp/sp/speech/)
ライティング指導に関わる者の一人として、最も気になったのが、このコンテストは何を審査するものなのか、ということなのである。詳しくは要項を見ていただくのが一番だが、「スピーチコンテスト」とは言いながら、参加するスピーカーは、自分で原稿を書く必要がない。聞き書きですらないのである。以下、かいつまんで引用。

[スピーチテーマ]
小学校 1・2 年生の部:『わたしのすきな○○』スピーチ時間2 分以内
(例)動物・乗り物・食べ物・家族・友だち・学校の授業・遊び・スポーツ等
小学校 3・4年生の部:『 私の家族』スピーチ時間 2分以内
小学校 5・6 年生の部:『私の夢』スピーチ時間3 分以内

・英語力・内容の 2 分野について下記の項目に従って自己表現力を評価します。
英語力−抑揚、発音、明瞭、流暢さ・息継ぎ、文法
内 容−趣旨・要点、考えの表現、独創性、構成

・スピーチは必ず参加者ご本人が録音してください。
・スピーチはご本人の意見・体験・主張等をまとめたオリジナルかつ、未発表のものに限ります。
・原稿およびメモを手元に置きスピーチすることを可としますが、地区大会・全国大会では評価対象とします。
・審査基準・結果・評価理由についてのお問い合わせはお答えいたしかねます。
・ 参加申告内容およびスピーチ内容の虚偽、または本人以外のスピーチが判明した場合には、失格とします。


このようなコンテストで優秀な成績を収めることのできる小学生が、「素地を養う」だけで生まれてくるのか、はなはだ疑問である。
上京の折りに、審査委員長とつっこんだ話もしたいのだが、おめでたい席だからなぁ…。
帰路で、『週刊東洋経済』 (4月4日号) と『AERA Business』と、『AERA』 (4月6日号) を買って帰る。『AERA』で松任谷由実のインタビューを読む。聞き手は伊東武彦氏。持ち上げすぎではないのか?それとも新譜のタイアップか?私の中では、彼女は数年前で止まっている。TVの歌番組に生出演しているのを妻と見ていたのだが、聞くも無惨な声で歌っていた。80年代にはチケット入手に嬉々としてライブ会場に足を運んだ私も、この歌声の衰えぶりには本当に落胆してチャンネルを替えたくらい。言葉のソムリエ曰く。

  • キャリアを積むと自分の中のハードルが高くなっていくんだけど、あるところからのものすごさって、素人の人にはわからないの。感覚が鋭い人も中にはいるけど、多くの人には理解できない。それこそソムリエのように「これはすごいんだから」って作り手が言うのが、一番説得力があるでしょ (笑い)。(p.53)

これほど聴き手をなめた発言があるだろうか?まず、ソムリエって「作り手」じゃないですから。作り手の中のハードルがどんなに高かろうと、おいしいワインとまずいワインを決めるのは「飲み手」であるということを思い出すことからやり直して欲しい。匠を気取るのもいいだろうが、竹内まりや・山下達郎コンビと、由美・正隆コンビの差がこういうところにでているのではないのか?そのうち、原由子・桑田佳祐コンビにも差をつけられてしまうのではないかとかつてのファンは心配である。
『ミュージック・マガジン』4月号のアルバムピックアップで、小坂忠の新譜『コネクテッド』に対して、「日本語の譜割りに違和感」(p.175) と、辛口のレビューを載せ、「ヨイショ評」ではない評論家健在ぶりを示した高橋健太郎氏のようなスタンスが貴重である。高橋氏曰く。

  • 日本語の歌、という以前に、日本語自体のフロウが変わっている現実の中では、玄人(ティンパン系大好きの音楽ファン) には受けても、素人 (こそは鋭敏な言語感覚を持つ) は騙せない、という結果を招かないか。(中略) 普通にやって普通に良いものが出来るなら,それに越したことはないが、ポップスはそうは甘くなかったりする。

太鼓を持つのはミュージシャンに任せたほうがいい。

本日のBGM: The Muse (高橋幸宏)