へし折られた鼻より団子

春休みとは言え、春期課外で朝から出校。
家の前の桜もかなりほころんできた。ご近所さんの話では、週末は大変な賑わいになるらしい。
春期課外、まずは高1の「基本動詞の意味論」。タイトルは大げさですが、なんのことはない、口語表現も含めて、いろんな書物・映画・小説・歌から例文のいいとこ取りで作った、概説のための自主教材です。
高2はその演習版。入試過去問やTOEIC対策教材などで出てくる基本動詞の語法・同意表現の4択を解く演習です。講義では、「知っているか知らないかの問題は1問12秒、5問で1分ペース」という心構えを要求。だって、問題は、「問題を解いた後」なのですから。高校生向けの「熟語集」とか「イディオム集」に本当に良い教材が少ない現在、ひたすら覚えるのか、基本の語義に落とし込むのか、コロケーションでまとめるのか、これまでの語学学習の基本的姿勢が問われる課題となるように、新作問題も少々入れ込みました。とはいえ、5日間のうち、私のコマには2コマしか振り分けられていませんから、扱えるのはせいぜい180例文、重複を除けば、150句動詞&イディオムくらいです。入試過去問のデータベースはほとんどの出版社、教材で差がなくなっているので、ノートを作って、高3での本格的な受験勉強や、それ以降の語彙学習に繋げられるように整理すると良いでしょう。こういった学習が地道にできる人は必ず受験英語くらいはできるようになるでしょう。語彙の整理は頭の整理です。
自宅で教材を準備する合間に、

  • 越前敏弥『越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2009年)

読了。1か月ですでに二刷なので、売れているのでしょう。
この著者による翻訳の『ダ・ヴィンチ・コード』そのものを読んでもいない、映画も見てもいない私には、純粋に、この本の出来しか評価できないが、英語教師の目から見れば新書にするには惜しい内容だと思った。一般書で新書だから売れるのだろうけれどね。
基礎編(100題)、難問編(30題)、超難問編(10題)と3段階。「日本人なら必ず…」と謳われているが、進学校で英文読解をきちんと扱っている高校教師なら、基礎編で用意されている英文で躓くことはまずないだろう。
私は、難問編で二つ、超難問編で二つ引っかかりました。両編とも数学の問題で仲良く一つずつ。いつの間にやら完全に文系人間になっていたのですね。ガックシ…。他の二つは英語のプロとして恥ずかしいので内緒です。
whatでの「もの」「こと」の捉え方、in factとafter allの解説など、できれば高校生のうちに身につけておくべき基礎基本も盛り込まれていて、上位レベルの生徒には教材としても有益だろうと思う。itの吟味に関しては、せっかく「こと」「もの」まで扱ったのだから、もう少し字句を割いて説明が欲しかったところ。
腰帯の英文はネット書店で見られる画像でも読めるでしょうから引用しても大丈夫でしょう。

  • I waited for fifteen minutes --- they seemed as many hours to me.

「あなたはこれをどう訳しますか?」と問われているのだが、これは私の世代なら皆、英文解釈で習った構文・公式だろうと思う。as +形容詞の原級が同等比較で用いられるのだから、「それと同等の」というときに、「では、何と何が同等なのか?」と考えれば済むこと。数量表現で用いられている時に誤読しているのは、「誤解」ではなく、「無知」というだけのこと。自分の知識だけを頼りに調べずに犯すミス、ということで私が大学生の時に間違えた(河野先生の授業だったか?)のは、次のようなso many。

  • Did the woman tell you in so many words that you were not welcome? その女性は「あなたは歓迎されていない」とはっきり君に言ったのか。(『グランドセンチュリー英和』三省堂)

これは、具体的な数量が前後にないのでよくわからなかった。『グラセン』レベルの学習英和でも、由来として「それだけの数の単語で」と補足解説がなされている。一事が万事。細部に神は宿れかし。越前氏の書で扱われているのは、基礎編で示された10節, 13項目に還元できるようなもっと基本的な文法と表現が主のようである。
腰帯の「英語自慢の鼻をへし折る!」という挑発的なコピーは編集部のセンスだろうから受け流すとして、「ちょっと一息」というインタビューのコーナーでの著者のことばは「今風」の英語教育に対する提言として受け止めておきたい。

  • では何で勉強できるかと言えば、やっぱり大学受験の参考書以外にはない。英語の読み方が最も高いレベルできちっと解説されていますから。(p.188)

というのだが、1961年生まれの著者が、どのあたりの「学参」を念頭に置いているかを把握していないと勉強の成果も雲泥、天地の差となるだろう。
大学受験に限らず、朱牟田夏雄、柴田徹士、多田幸蔵、伊藤和夫、中原道喜、倉谷直臣諸氏による、まっとうな教材は読み継いでいきたいものだと思った次第。

野球部の練習を少し覗いて帰宅。ちょっとしたアドバイスで身体の使い方がスムーズになるのだなぁ。
野球と言えば、WBCは日本の二連覇で閉幕。決定打はイチロー。
ただ、岩隈の奮闘(投)に打線が報いきれなかったための延長戦と言ってもいいだろう。指揮官は度重なる拙攻の責めを甘受すべし。結果良ければ全てよし、というわけではないが、祝杯のために良い酒を買って帰った。

  • 東洋美人・大吟醸・本生酒・槽垂れ・山田錦(山口県)
  • 貴・純米吟醸・無濾過・雄町(山口県)

もらいものの、

  • 獺祭・純米大吟醸・遠心分離磨き三割九分(山口県)

と飲み比べの予定。
よく眠れますように。
明朝はちゃんと走りますよ。
本日のBGM: 春がいっぱい(大村憲司)