”A gift in disguise”

合宿終了。
天竜組以外は、これで、年度末の合宿までお預け。
いよいよレースへの準備段階。スプリントの比率をどう上げていくか、スタート練習をいかに普段の練習に位置づけていくか、学ぶところの多い合宿であった。身体操作としては、前回のストレッチ法に引き続き「胸椎」の可動性としなやかな動きを意識するのがポイント。新たな才能も出てきて楽しみは多い。
夜はコーチ陣の座談会・懇親会。
高校生エルゴ歴代50傑の話題から、「既に、高校生の時に5600m回していたのに、今でもそのあたりのスコア」にいる選手の話。高校生を鍛えに鍛えて上位の成績を収めさせている指導者と、長い目で見て、低強度・長距離でじっくりと下地を作るタイプの指導者との比較等々。実績を上げることと、伸び代の大きい選手を作ることの両立は難しい課題である。高校時代華々しい実績を残していながら、大学に入った頃にはすでに疲弊してしまっているのではないか、という選手もいるわけである。もっとも、G大など大学から始める選手ばかりのチームでもインカレや全日本で何とか戦ってこられたのは、そういった遠因もあるのだけれど…。
懇親会では本業種目だけではなく、いろいろなスポーツの話題が飛び交うのも楽しみの一つ。

  • スポーツのこと、本当に何でもよく知ってるなぁ。

などと言ってもらえるのはありがたいが、本業で花開いてこそナンボ、というのもあるので心境は複雑。

  • 本業だけはダメなんですよ…。

などと返答しておく。
スポーツメディアや企業のあり方も話題に。

  • 本当にお金を持っている人がその使い方を知らないんですかね?

という言葉が印象的だった。
世界選手権や五輪の経験豊富なコーチの口から、欧州など、スポーツ専用チャンネルの水準の高さを聞くとやっぱり説得力があるなぁ。
40代にはいり、メンテナンスの欠かせない我々自身の身体に話が及び、

  • 本来の野生で生きている動物なら、怪我をしたとか、どこどこが痛くて動かせないなどというのでは、もう死に足を踏み入れている段階なのだろう。

という結論に!そうはいいつつも、コンドロイチンが効く、などという情報交換で笑う。
ちょうど、某局で放送中の四大陸選手権のフリープログラムの映像を少しだけ見た。
自国でのGPファイナルを終え、絶好調のキム・ヨナは案の定、難度の高い演目に挑戦して転倒と、ここぞとばかりに「これでもか!」というくらいに回転不足を取られて3位と撃沈。SPの貯金でかろうじて優勝。エキシビションやショーで過酷なスケジュールの中、膝の故障を隠して(?)健気に演技する浅田真央は、フリーでは抑えた(抑えざるを得なかった?)演目で目立った減点無しで1位!トータルでも3位となった。ルール改正の明暗がこの大会では逆に出たとも言えるか。それにしても、放映時間(帯)もそうだが、相変わらず、語りたい物語を予め決めておいてそれに無理にでも当てはめようとする日本のスポーツメディアの扱いは酷い(=非道い)・酷い(=惨い)。
さらには、新聞報道で用いられる写真。
昨年末で現役引退を表明した太田由希奈選手がいない現時点では、世界一美しいと私が思っている、あのスパイラルの写真をどの新聞もニュースサイトも載せていない。ケリガンスパイラル(?)に入り右足を抱える際に作られる身体のラインの美しさはいつ見ても感動的である。私は、個人的にはキム・ヨナ選手のファンで、胸骨や鎖骨から弛められる彼女の身体操作の美しさは高く評価しているが、フィギュア・スケーターとしての資質は間違いなく、浅田真央が群を抜いているだろうと思う。国内メディアは、徒に、芸術性 vs.高難度ジャンプを煽り、浅田選手の3+2回成功に異常なまでのスポットライトを浴びせる中、浅田選手本人は、痛みを抱えたままの出場。男子の高橋大輔選手は五輪前年だというのに、大怪我で手術を余儀なくされていることを忘れてはいまいか?「芸術性」の克服が伊藤みどり以降の日本の女子選手に課せられた課題だというのであれば、かつて太田選手がジュニア女王を獲ったと思ったらすぐに持ち上げるだけ持ち上げ、怪我で最前線から後退したら引き潮のように引いたことを忘れてはいまいか?2006年シーズンに復帰を果たした太田選手は2年に及ぶリハビリも米国で行っていたのである。結果的にシニアでの成長、成熟した彼女のピークの演技を見ないまま世界に通じる逸材を失ってしまったことは誠に残念である。良い選手が出てきたら、それに乗っかれるだけ乗っかって一儲け、という企業には頼るべきではないのであり、扇情的なスポーツ中継や報道も不要であり、選手のことを守れない連盟では困るのである。良い試合をしっかりと届ければ見ている者に必ず届くはず。だって浅田真央の世代まではそれだけの水準の選手たちが国内外で競ってきたのだから。
連盟は世界選手権の前に、余計なノイズを入れることなく、ベストの状態で試合に臨めるような環境を整えること、そしてメディアはそのために少しでも役立つ報道をお願いしたい。一ファンとしての切なる要望である。

週明けの高2の0限では、要約のやり直し。
竹内敏晴氏の著作から抜粋朗読をしておく。
高1はクリス・ムーンの話へようやく戻る。物語文と人物・事物の描写を踏まえて、本格的に教科書の読みへ。
放課後は面談。
帰宅して、一息。
引っ越しに備え書籍の整理に入る。
本を手にとっては、読み返したりして更なる泥沼に…。
米国で二度、桂冠詩人の栄誉に輝く、ピューリッツア賞受賞者でもある、Stanley Kunitz氏の足跡を読んでいて、そこにある形容 (http://www.poetryfoundation.org/archive/poet.html?id=3869)、

  • He moves from the known to the unknown to the unknowable―not necessarily in that order.

に一瞬たじろぐ。彼の代表作ではないかもしれないが、一遍だけ紹介。

The Summing-Up

When young I scribbled, boasting, on my wall,
No Love, No Property, No Wages.
In youth's good time I somehow bought them all,
And cheap, you'd think, for maybe a hundred pages.

Now in my prime, disburdened of my gear,
My trophies ransomed, broken, lost,
I carve again on the lintel of the year
My sign: Mobility ― and damn the cost!
(The Oxford Book of American Light Verse, chosen & edited by William Harmon, 1979 より抜粋)


それにしても、昔の(といっても5年くらいしか経っていないのだが…)太田選手の映像を見ていて泣きそうになった。人の生き様はwikipediaの中に要約できるようなものではないし、怪我を「不運」などという言葉で締めくくってはならない。太田選手の前向きな言葉が聞けるこちらの記事(http://blog.nikkansports.com/user/hosei/ota.html)で随分と救われる気がした。いつか、アイスショーで年相応の彼女の笑顔と再会してみたい。
本日の夕飯:ちぬのお吸い物、あさりとほうれん草とわかめのぬた
本日の晩酌:佐久の花・純吟原酒・無濾過瓶火入
本日のBGM: Rare, Precious and Gone (Mike Scott)

本日のBGV: 2003 World Junior Championships, Free Skating (Yukina Ota)