”what you can pass on to the next generations”

出勤時、気温がマイナス2度。
車のドアが凍り付いていて開かなかった。
勤務校の一般入試一期の筆記試験と面接が終了。受験生の皆さん、お疲れ様でした。
係り生徒以外の生徒は原則自宅学習日。
センター試験も一段落。出願を一通り終えて、二次へのラストスパート、というのが一般的な進学校の(生徒・教師の)取り組みだろうと思う。
昨年の出題形式・内容の変化を踏まえて、過去1年間で数多のセンター対策教材が高校に、書店に押し寄せてきていたことであろう。予備校の講座に目を移せば、通年講座、夏期講習、直前講習などで、使用教材から「的中!」などと来期へのPRに余念のない人たちも出てくるだろう。
「設問形式別対策問題集」が精選されていればされているほど、出題形式や内容が変わると対応不能に陥りやすい。知識と技能を、出題形式に影響されないように習熟・習得することが何よりの「対策」となるとは考えられまいか?その意味では、「単語集」「連語集」「熟語集」というものも、見直しが求められるだろう。
知識をリストによって整理し記憶に残そう、という段階・局面であれば、

  • 里中哲彦『入試英語Q’s & A’s 入試英語資料集』(学研、1998年)

のようなものが最も便利であったのだが、いかんせん10年前の出版。

  • 古藤晃編著『クラウン受験英語辞典』(三省堂、2000年)

も、充実した内容だったが、その後8年間改訂版が出ていない。日本では「受験英語」というラベルが、実態とこれだけ、かけ離れた形で蠢いているのだから、世間への啓蒙のため、さらには資料的価値も含めて、この辞典は、採算を度外視しても5年ごとくらいに改訂し続ける価値があるとは思うのだけれど…。三省堂さん、頑張りましょうよ!
今年のセンター試験の語彙・語法問題といわれる出題では、既存の単語集がどの程度効き目があったのか、チェックしてみるのもいいと思う。ただし、この時、気をつけなければならないのは、

  • 正答(の選択肢)が得られるか?

だけではなく、

  • 偽選択肢(錯乱肢)の語句にも対応できているか?

を併せて見るということ。
たとえば、問3(解答番号10)では、

  • I’m running in the direction of the ticket gate.

という “in the direction (of…)”を完成させられるようなエントリーになっていることはもちろんで(directionという語を扱っていてこの前置詞とのコロケーションを指摘しないことはあまり想像できないので)、「(X) to the direction というのが誤りである」、とか「全く異なる意味となる」ということを併せて確認できることが望ましい。
また、問8(解答番号15)の、

  • In the U.S. smoking is banned in public places such as restaurants or cafés.

であれば、banを扱っているだけではなく偽選択肢の、

  • expire / valid / withdraw

も扱っているか、という見方をするわけである。
先日のエントリーでも紹介した、『アクティブ英単語2100』(学研、2008年)では、

  • He escaped in the opposite direction. (彼は反対の方向に逃げた)

という用例だけでなく、

  • XHe escaped to the opposite direction.としないこと。

という「べからず」情報も盛り込まれている。(pp.154-155)
banでは当然、

  • The government banned average people from possessing guns. (政府は一般の人々が銃を所持することを禁止した)(p.236)

を、validでは、

  • He confirmed how long his credit card was valid. (彼はクレジットカードがいつまで有効かを確認した)(p.316)

withdrawでは、

  • The troops were withdrawn temporarily because of the storm. (軍隊はあらしのために一次的に撤退した)(p.317)

を載せている。しかしながら、expireはこの単語集のエントリーでは示されていない。
ということは、この単語集を使っていれば、「正答となる語句にヒットする」ことは確かだけれども、選択肢の全てを確認し、識別した上で正答を選んでいるわけではないということになる。
そんなこと言ったら、「じゃあ、単語集じゃなくて英和辞典になってしまうじゃないか」という人が出てくるだろう。まさにその通り。大学入試という「英語力の篩」が、語彙のレベルで見た時に、どのようなものになるのか、それを形にすればいいのだ。あれも足りない、これも足りないといって、3万語、5万語と膨らませていくのではなく、どこかのリストで見た数字だが、8000語の辞書なり、1万5千語収録の辞書なりを作ればいいのではないか? このブログの少し前のエントリーで赤尾好夫『英語単語熟語の綜合的研究』(旺文社)の現代版、といったのはこういうことである。
センターの出題に戻るが、問10(解答番号17)の、

  • It runs in the family.

では、偽選択肢の中に、

  • come / go / work

という基本動詞を盛り込むことで何を意図しているのか?「大学に進学しようというのなら、日常的な場面で極めて多様な使われ方をする基本動詞にもっと習熟せよ」、ということであるならば、work一つをとってみても、

  • Our new system works. (我が社の新方式はうまくいっている)

での “function”(上手く機能する)とか、”be effective”(効果的である;効き目がある)という意味での使い方、
さらには、

  • His face worked fiercely. (彼の顔が激しく引きつった)

での、”stretch, twist or pull”(伸ばす、ねじる、ひっぱる)というような意味での使い方まで、どの程度までを射程とするのか、これからはより一層悩ましい時代になるのだろうか。(上記二例は、最所フミ『日英語表現辞典』(研究社、1980年より抜粋))
英語の「使用実態」と日本の「学習者の現実」との架け橋あるいは船頭となるのは、やはり英語教師なのだろうと信じたい。
ところで、問10では、”How do you stay so slim?”という問いに対して、”Just lucky, I guess. It runs in the family.”という「対話」になっているわけだが、これではあまりに文脈に依存しすぎていて、Itが何を指しているのか、ほとんどの高校生は適切に照応したり、自分のことばでパラフレーズしたりできないだろうと思う。そして、センターの解説と銘打った予備校系のサイトでも、ここにはほとんど注記がない。
“the family trait of being overweight” などというのはcommon phraseだろうけれども、その反対は、というと悩むよね。もし質問の”how節”を意識して、 “the secret to staying slim ” とか、”tips on staying trim” などとしてしまったら、secretやtipは遺伝的な性質ではないので不可でしょう?「太らない体質」とでもいうべき内容を想定する時の「メタ言語」はやはり日本語になるのではないかと思うのですが、英語のできる人は違うのでしょうか?

同僚の数学の先生に、英語の質問を受けたので、杉山忠一氏の学習参考書の記述を見せてアドバイスすることに。そもそもは、

  • ”defeat”という語は動詞で「負かす;打倒する」という他動詞だが、名詞になると「負かすこと;打倒すること」だけでなく、「負かされること;打倒されること;敗北」という意味になるのはなぜ?

というような疑問でした。この名詞のもつ「能動と受動」の性質は、『英文法詳解』(学研、1998年)の、「(3)抽象名詞の注意すべき意味」(pp.33-36)でかなり丁寧に扱われているので参照あれ。
私の手元にある用例は、女優メリル・ストリープのインタビュー。(引用元は倉谷直臣『続・誰も教えてくれなかった英文解釈』(朝日イブニングニュース社、1983年)

  • Recognition is a funny thing. I want to be recognized for being a good actress and doing a good job in a role, but I think I have a subconscious desire not to be recognized in public. I tend to do some dramatic haircutting after I finish each role. I might even change the color. I guess, deep down, I have a need for privacy. I hate having my privacy invaded in any way.

これは以前、東京にいた時分にFTCの発表で扱いましたね。
日が暮れる前に帰宅。いくつか調べもの。
夕飯は豚しゃぶとほうれん草。ご飯は少なめで。
身体の欲するものを食するのが一番。
明日の朝は立哨。あまり冷え込まないことを祈ります。でも、予報だと実家はマイナス17度っていうから、マイナスの2度、3度くらいでオタオタしてたら依田勉三に笑われますね。

本日のBGM: Like A Father, Like The Son (綿内克幸/ Watauchi Unplugged II)