Row , TM, Row!

Rattawut Lapcharoensapを読み始める。
冒頭のFarangsがいい。23ページ程度の短編らしい短編。終わり良ければすべて良し。

作者の名前が発音しにくいのは、日本語も同じ。
(津田正さんの書評はこちら → http://booklog.kinokuniya.co.jp/tsuda/archives/2008/06/post_15.html 翻訳で読まれる方はこちらを。)
これがデビュー作とのことだが、村松邦男の『サンライズ・ツイスト』から『愛してルミナス』を経たパフィーの『アジアの純真』のようなポップさと猥雑さと切なさを感じた。松鶴家千とせ。

夏期課外は、『P単』50個+50個のテスト20分から。採点後、コロケーションを抜粋し問いを立てる。

  • weed the garden では、 )V+名詞 という形で<四角化で視覚化><動詞の前でとじかっこ>の手順が入る。では、この時の動詞として用いられている weedの語義は?本来名詞であるweedを動詞として使うとしたらどのような意味になるか?

このweedをwaterという語に替えたら、

  • water the garden

では「庭に水を与える」→『庭に水を撒く』などという意味になるだろう。
V+Oという環境になることで、語義が絞り込まれるのであるから、weed the gardenでは「(不要な・余分な・無益な・有害な雑)草を取り除く」というような語義になるはずで、(X)「雑草を生やしておく」などという意味にはならない、などという話をする。
目の付け所、英語感覚は放っておいて醸成されるものではない。その後、速読教材の復習へ。またしてもハンドアウトを忘れてきたものがいて、激怒。学習能力はないのか?クラスに一人でも、こういう輩がいたら、その時点でgame over なのだ、という意識が他の生徒にないのが大問題。「私はちゃんとやっているのに…」と思っている時点でアウトなのだ。クラスという学びの共同体においては、そこにいる戯け者も自分なのだよ。干渉しなさい。
200語の素材文を3分で読み、ブランクのページに、概要を書き出す。その後、2分で再度読み、概要書きの繰り返し。設問としてついている内容一致選択の英文5つのみを読み、本文には戻らず、ブランクページの自分が書き出した概要に戻り、解答確定。その後、設問の英文を5つともYes / No疑問文に直して、答えを確認すべく、本文の再読。解答を確定してから、紙ホチキスを解いて語句注の確認。次回までに、設問の英文のFの部分をTに直し、全体の要約となるように準備。本日終了。
途中で、わざわざYes/No疑問文に直すのは、自分の内なる読み手との対話を再現するのが狙い。これは加藤恭子さんの対話の手法に準えた手順。「ここは、そういう風に書いてありましたか?」と本文の内容とずれたことを問われると、それまでハッキリしていなかったことでも、「いや、そこはこうでした。」と理解が表に現れてくる、ということがままあるので、それを狙ったものです。はずれたらそれもまたよし。
高3で京大志望者がいるので、福山の山岡先生に、京大対策で助言をいただく。私にわかるのは英語くらいなので、数学・理科など他教科の使用教材などを調べて頂いた。深謝。

以前読んだ大学入試対策の英文読解の本での関係代名詞の扱いで、どう考えても「?」が浮かぶものがあった。「受験英語」の世界というのは、言ったモン勝ちで、何でもありなのか、という気がする。受験英語を足場として生の英語の方へと誘うのではなく、せっかくの生の英語から得られた知見や新たな学問的成果も、「独自の理論」とやらで、受験英語の言葉にわざわざ翻訳してしまい歪められているのではないか、という危惧がある。一例をあげると、江川本でも安井本でも、ロイヤル英文法でも、安藤本でも、SwanのPEUでも、GGBでもいいのだが、

  • a sleeping bag

の-ingを現在分詞として扱っている「文法書」があるだろうか?
分類には制約・限界があるので、いわゆる分詞構文を副詞句ではなく、主語を修飾する「形容詞句」として扱う人たちがいることはわきまえているし、Bob Dylanのヒット曲にみられるような英語史的に見た -ingの変遷の話をしているのでもない。上に示したa sleeping bagはa dining room とか a waiting room とか a wedding dressなどと同じ用法になるでしょう?ではこれらもみな現在分詞として扱うということになったとしたら、どういうくくり直しをすればいいのだろうか?もしこれが、「いやあなたね、勉強が足りませんよ。昔は確かに動名詞だったかもしれないが、今では現在分詞とみなすようになったんです。」という事例ならば、どのあたりがターニングポイント(a turning point;これも現在分詞?まさかね)となる語法書・文法書・論文なのか?
公式の棒暗記を廃し、論理的な理解と応用を求める際にも、もどかしさ、訝しさは残る。
いわゆる「鯨の公式」に関して、平井正朗氏が「原義」からの理解を求める「独自の」解釈を示している。(『チャートネットワーク』数研出版、2008年4月号 → http://www.chart.co.jp/subject/eigo/cnw/55/55-7.pdf
no sooner thanを特別扱いするのではなく、比較の項目の中に位置づけて捌こうというのは頷けるが、<no+ 比較級+than>はここで示されているような長々とした説明を必要とするものなのか?文脈を持つ、適切な用例を数多く提供することのほうが学習者には有益なのではないだろうか?私ならコーパスで得られる一次資料の精査にエネルギーを割くだろうという気がした。こういった受験英語特有と「思われている」項目など、随分前に田中茂範氏のグループが、受験英語の公式といわれるものの容認度を調査し、世に問うていた(『データに見る現代英語表現・構文の使い方―ネイティブ100人に受験英語の使用実態を徹底調査 』(アルク、1990年))のであるから、先行文献にも事欠かないだろうに。この本は赤いカバーに星飛雄馬の絵という、「受験英語」を「スポ根」に準えて扱ったものであったのを覚えている。今となっては、再度読み返そうとも思わないけれど…。

元同僚で、同窓でもあるriversonさんのご厚意で、古い英文法の参考書を見せて頂くことが可能となった。

  • 成田成寿・清成孝『絶対英文法』1952,東京・研数書院
  • 田中菊雄『英語廣文典』1953,東京・白水社
  • 青木常雄『中学生の英語』1957,東京・培風館
  • 梶木隆一・小島義郎『精解英文法』1958,東京・昇龍堂出版

日本人の視点で、日本人のために書かれたこれら先哲・先達の叡智を受け継いでいきたいものだ。
これらの本が手元に届くのを楽しみに、今週も乗り切ろう。


本日のBGM: The Times They Are A-Changing (Bob Dylan)