英語教師力

0限はP単100個一気食いから。練習が充分でない生徒は書くリズムが滞るのですぐ分かる。
「基礎的な語彙だからとにかく覚えればいい」というのは簡単。フォニクスの基礎知識、同じグループでの分類整理、品詞と語形成などが身についていない生徒にとってはものすごい認知負荷となる。自己採点で申告という流れ。
例によって、「シャーペン禁止令」。エンピツまたはボールペン。本当に英語を書くことが苦手な生徒にシャープペンシルを使わせ続けると英語のハンドライティングが下手なままいつまでも学習の効果が上がらないので気をつけて欲しい。初心者、不振者ほど適切な筆記具の選択を。私のような悪筆でもペリカーノジュニアを使えばそれなりに intelligibleな字になるのだから。特に、単語や連語を何回も書かせて覚えさせる指導をする人に考えて欲しい問題。
この作業を見ていていつも気になるのが、○つけをするときに、間違っていた綴り字とか、書けなかった綴り字を赤ペンで丁寧に書いている生徒。それを赤で1回書いて覚えられるなら、もう既に書けているはずでしょ?さらには、教材には正しい綴りが書いてあるのだから。必要なのは、意識化した練習の結果、自動化することのはず。練習の効率(の良さ)は普段の取り組みの中から生まれてくるもの。
残りは1日中テスト返却と解説。講評と激励と説教。学年によって対応は異なる。英語Iや英語IIでは「靜流」の亜流の出題形式が多いので、基本的には本文の意味ではなく、言葉を覚え、身につけることが要求される。とはいえ、ほとんど既習事項を「再生」できればそれで事足りるもの。それでいて、そのレベルで躓いている生徒が殆どである学校では、いくらもっともらしい理屈で英語教育を語ってもあまり生産的・建設的な議論にはならない。
妻が歯医者に行った時の話をしていて出てきた言葉を思い出した。
「生まれつき歯が丈夫な人って、歯医者に行かないわけでしょ?じゃあ、歯医者さんって、実は生まれつき健康な歯の持ち主の健康な歯の状態を知らないんじゃないの?」
いやあ、結構真理を含んでいる気がしました。
進学校嫌いのネタを以前にも書いたが、進学校が性に合わないのではなく、過去問対策が性に合わないのだな。発問は良質であるに越したことはないが、常に「発問」からでないと学びが始まらないという思いこみを忌避しているのだろう。
いつまで経っても誰かに問いを立ててもらわないと学習が出来ないのではつまらない。だって、優秀な学習者は教師にも出来ないことがいとも簡単にできたりするのだから。過去問演習が終わって、本当に英語力がついたんだったら、あとはよりオーセンティックな素材を読んだり聴いたりすればいいだろう。受験に特化した教材から離れてしまったら衰退してしまうような英語力はそもそも「力」ではないのだから。志望校の大学の先生が書いている論文を読むもよし。別に傾向を読んだり、予想問題にこだわるなど必要ない。podcastingを始めインターネット上にだっていくらでも学びの種は転がっている。
以前より紹介しているLiving On EarthやConversation Hoursなどでは良質のホストによる著名人のインタビューも聞くことができるので格好のリスニング素材である。スクリプトが提供されている番組も多いのだから、語彙レベルや構文が複雑なところはそれこそ授業でパラフレーズやサマリーの練習に使えばよい。
授業でディスカッションをしていれば、「○○がXXである、と今あなたは言いましたが、…」ときちんと英語での情報保持ができなければならないし、言い淀みやオーバーラップの瞬間には事欠かない。誰かがくしゃみや咳をしてしまうことだってあろう。隣の小学校の運動会の練習や、近所を走る車の音、上空を通過する飛行機の音が聞こえたりすることもある。そういう中で、「もう一回今のところ言って」とリクエストしたり「何をした、といいました?」「…というのは、こういうこと?」などと確認したりする場を提供し、それを練習させることにより教育的な意義があるのではないだろうか?
ヒナ鳥宜しく仕込んで、覚えさせて、小テストで吐き出させて、で最後になってようやく使わせる、などとinput-intake-outputを一方向にのみリニアなプロセスと捉えるのではなく、水前寺清子のように行ったり来たりしながら受験のレベルを超えていきたいものだ。
まずは自分の基礎基本の確認から。karishimaさんはいつだったか、「教師の教師」などと形容してくれたが、そんなことを望みはしない。ただ、自分が教師になりたての頃に学んだ、

  • 『英語教師の常識 I & II』(大修館、1986年、1987年)
  • 『中学英語の指導技術』(ELEC、1987年)

この3冊に書いてあることくらいは全てもう自分の中で消化吸収出来ている、と言えるくらいの英語教師になりたい。

本日のBGM: ささやかな祈り(Every Little Thing)