二足歩行

北海道イベントで知り合った、函館中部の今井先生の話を、筑駒の久保野先生と立命館大の山岡先生にメール。繋がれば繋がるものだ。山岡先生が今回の資料を見たいとおっしゃるので、朝イチでExpack。細かいことを申し送らなくても、資料を見てもらえば私の意図は通ずるだろう。
試験採点終了。残るは答案返却と成績処理。
答案返却だけの授業でもクラスの差は歴然とする。集団として機能している場合でも内実は多様だ。その集団を育て損なった場合に、リセットは利かないので、いびつな、ごつごつ、とげとげ、ざらざら、ちくちく、ねばねば、冷え冷えした「亜」集団とでもいうものを丸ごと引き受けることになる。かなりタフな仕事になる。Aspects of acceptance。その違和感こそがリアリティ。自立と自律は意味するところが違う、てな具合に悩んだときは倫太郎さんの「英語教育にもの申す」を開く。
結局、人マネではダメということはわかるのだが、「自分らしさ」という突破口は紋切り型で安易すぎる。
中学校とは違い、高校は相性の良いものだけで人間関係を作らせてはダメだと思う。ストレスを排除するのではなく、ストレスだらけの海でも泳げるようなスキルも身につけさせねば。そのためには他者への関与・干渉ができる生徒層を作ることも高校段階の教師の仕事。そう考えると、「上位層」というラベルを貼りやすい生徒がすぐには見つからない困難校でこそ、教師は教師となるのかもしれない。いつもながら倫太郎さんに学ぶことは多い。
高2のオーラルはまだ今学期最後に1コマあるので、本物のスピーチを聞く時間を設定することにした。教室がネット環境にあれば、今では動画などいくらでも活用できるのだが、そんな夢のような話は脇に置いて、現実的な解決策を考える。まあ、CDかDVDに落ち着くのだろうなぁ…。
さて、
和田中の「夜間塾営業(?)」が世間では話題になっているようだ。
これだけ、media exposureを戦略として効果を上げてきた教育施策だが、ここらできちんと評価してあげることが大切だろう。
今回はSAPIXとの提携ということで、塾が前面に出てきたのでみな大騒ぎしているようだが、これまでにだって、私が指摘してきたように、英語は土曜日寺子屋(「ドテラ」というのだそうです)を利用して、英検協会から講師を派遣させ、有志の生徒にのみ、月6000円で英検対策を施し、さらには平日も一日を使って放課後に同様に補習を行っているのである。
この取り組みに関しては「英検の合格者を飛躍的に増加させた」、とその成果を校長が自画自賛している。
http://www.wadachu.info/data/fujihara_report_070714.pdf
こちらのとりくみはどうして誰も問題視しないのだろう?
この校長のレポートでも示されている「このコースで育った英語エリートが平日の授業ではリーダーとなり他の生徒に教えるなど、いい刺激を与えています。」という内容がメディアには上がってこない。私が知りたいのはこういう普段の授業の内容だ。知っている人は教えて欲しい。一般公開が時折あるようなのだが、そこで目にすることができるのは、外付けの講座や補習。保護者参観や研究授業では、普段着の授業が見られるのだろうか?
週4日の平常授業を受けている生徒と、外付けで意欲的に学びを強化する生徒との差はなんだろう?意欲の他に、時間とお金があるだろう。月6000円の負担である。杉並区の平成18年度の給食費月額が4971円。給食費の滞納や不払いが話題になる昨今、この金額負担ができない家庭は少なくないと思う。
そしてさらに、今回の「夜スペ」で塾との提携である。受講料は18,000円から24,000円。教育委員会は、「地域本部が運営するというのなら、希望者全員を対象とするのが筋」などといっているらしいが、「英検対策」ですでにその建前は崩されているのだ。それでも運営するのは和田中の「地域本部」という建前なら、最後まで筋を通すべし。経済的にこの費用負担ができない家庭には、「地域本部奨学金」「地域本部基金」などを設立してバックアップをすればいいのだ。
以前も指摘したが、気になることを再度。
まず、この英検対策講座や、進学対策用の講座の講師は和田中の教員ではなぜダメなのかということ。和田中の教員を働かせて、その分多く給料を払ってはどうなのか?
公務員である和田中の教員を放課後の補習や土曜日の講座で働かせるには法規上制約がある。多くの教員は、自分の抱えている生徒のためなら、と基準となる労働時間を超えて「仕事」をしていると思う。善意であるうちはいいのだが、これが制度として、システムとして運用されるとなると話は別である。その講座が行われる時に、生徒に事故があった場合、教員に事故があった場合など、地方公務員法や学校管理運営規則は一見無駄にも思えるほど、細かな項目の整備をしているものである。
民間校長は、そういう柵を取っ払うことに手腕を発揮したわけだが、結局のところ、それで現在得られたとされる英検対策の成果、今後得られるであろう、進学実績は、和田中の教育力の成果といってよいものなのか?肖像権も認められないくらいだから、メディアへの露出などは覚悟しているであろう和田中の英語教員から、率直な意見、生の声を聞きたいと思うのは私だけか?
私が公立校勤務時代に、「地方自治体からの予算も削減され、保護者に受益者負担も期待できないのなら、セブンイレブンなど企業や地元商店をスポンサーにして、制服にロゴを入れたりしてPRに貢献し、サポートしてもらえないか?教育の成果が上がるのなら、『セブンイレブン○○ハイスクール』という名前だって結構ではないか」と本気で提案したことがある。「学校の目指す夢を売ってその夢に乗っかってもらう」という理念であった。当然、周囲の誰もそんなことに耳を貸さなかった。企業側にとってメリットがない、「うまみ」がない以上、私企業は動かないのである。しかしながら、公教育というのは、こういう「おいしくない」仕事を請け負うものでもあるのだ。その当たり前のことがどこかに置き忘れられてはいまいか?
今回のSAPIX側の談話がこの点を浮き彫りにしている。

  • SAPIX東京本部は、「採算を取ろうとは思っていない。学校との連携から新しい事業展開にもつながる」と期待する。

http://www.asahi.com/life/update/1208/TKY200712080219.html
結局、新しい事業展開から「うまみ」が転がり込んでくる、という皮算用に支えられているのである。

民間校長として大いなる成果を上げた和田中の校長も今年度で退任とのこと。新たに、別の大変な中学に行って改革をして欲しいものだ。新校長の任期は3年。今度の校長もリクルート系とか?

競争原理を持ち出して煽られなくても、生徒一人一人の成長のために藻掻ける教師でありたいと思う。地に足をつけて、地道に歩める生徒を作りたいと思う。
今日のところはそんな印象批評である。

「書評空間」の阿部先生、ついに、小島信夫。しかも、絶好調。いつくるか、と待っていたのは私だけではあるまい。小島信夫を語らせると、この人は輝きを増すのだなぁ。以前の『水声通信』でも「言葉はいつもジャストミートせず、芯を外している」という名言を残した阿部氏だが、今回は

  • 小島信夫を読むための4つのコツ

が秀逸。これを読んで、私自身なぜこんなにも「わからなさスペースシャトル級」の小島信夫が気になるのか、が少し分かる気がした。
ここでの4箇条は、いってみれば小島信夫を経験した先輩からの「アドバイス」。ことごとく、私の英語の授業で生徒が後輩に書くアドバイスとそっくりなのだ。

  • 前のめりでいいじゃないか

そう思えただけでも今日の生き甲斐はあったというものだ。
夕飯は海鮮チゲ鍋にほうれん草のごま和え。
デザートは『相棒』。大滝秀治出演。今回は新しい監督か?

本日のBGM: Mr. Step (TOMOVSKY)