Is that your final answer?

今日は全編本業モードです。大変済みませんが、英語教育関係者の方も是非、第3段落以降にお付き合い下さい。
朝から湖へ。気温が低く、モーターに乗っていた私の方が風邪気味。今日は、入部4日目の新人を2Xで指導。初体験にしてはまずまずか。体幹を鍛えないと。1Xは今日飛躍的に進歩。といっても、夏にサボっていたので、やっと漕げるようになってきたレベルである。まだフェザーリングを教えていないので、スクエアでクラッチに預けて漕ぎ続けているとストサイに曲がる。ストサイ落ちが染みつかないように、「左手は前で上、右手のナックルが左手の手首の下」という原理原則を徹底。擦らないことに一所懸命になるのではなく、艇をいかに速く進めるか、を実感させねば。帰宅後、大事をとって寝る。ブログ更新は起きてから。

本業の世界が今、大変である。2008年北京五輪を控えたこの時期に、協会の強化方針が一変した(http://www.jara.or.jp/info/2007/kyoka1005_2008compass.pdf)。
この方針に則って強化のステージに上ろうという選手・コーチは、11月4日までに評価エルゴの測定を終えねばならない。しかしながら、この方針そのものの説明が、12月1日に予定されているのであるから、事は深刻。
最も大きな変更点は、エリート枠の年齢制限導入である。当然、ジュニアと呼ばれるU18(大会によってはU19)、次世代と呼ばれるU23での年齢制限はこれまでにもあったわけで、全く問題はない。何らかの合理性があって、年齢制限をしているのである。特に、これらのエイジカテゴリーには軽量級種目というものが存在しない。漕手の体重制限がないのは、成長期や発展途上の漕手に無理・無茶な減量をさせない、という目的も含まれている。現在では開かれていないが、ボート競技のユニバーシアード大会でも年齢制限が設けられていたが、これはユニバーシアード大会という性格上、充分合理性がある。
では五輪は?
ご承知のように、五輪にはエイジカテゴリー別の競技は存在しない。サッカーではWCとの差異化を図るために、選手の年齢制限とチーム内オーバーエイジ枠3名というルールが存在するが、陸上、水泳など主たる競技にそのような制約はない。無いのが当然である。なぜって?五輪だから。
2004年のスポーツ仲裁シンポジウムで、現在は中国チームに関わる、シンクロの伊村雅代氏(当時日本代表監督)は、

  • 選手の年齢制限については、年齢に関係なく体力と技術と精神力の強い人が勝つのが当然。

というコメントをしている。このコメントを受けて、JSAA仲裁人幹事である小寺彰氏 (東京大学大学院総合文化研究所教授) は

  • これまで年齢に関する仲裁の例はないが、あるとすればその基準自体に合理性がない

と明確に答えている。
私は、新制度となった初年度の上級コーチ研修に初めてボート競技から参加したのであるが、今までの研修制度とは大きく内容・形式が異なり、「スポーツマネジメント」や「スポンサーシップ」「トランスペアレンシー」「アカウンタビリティー」など、IV段階でのディスカッションは、各競技団体のトップコーチによる情報交換の場でもあった。この時に、水泳(競泳・シンクロ・飛び込み・水球)の現場を預かる指導者から上記の選考に関わる課題を再度聞くこととなった。
どの競技団体も、「これが我々の考える最も良い施策なのだからこれで行くのだ、嫌ならお引き取り願うまで」という近視眼的な発想では、その競技そのものの発展・成長にマイナスだと思うのである。
他の競技で引き合いに出して申し訳ないが、日本ライフル射撃協会も競技を統轄する中央競技団体であり社団法人である。ここで発行されている、指導者用のマニュアルがある(http://www.riflesports.jp/ikusei/image/ikusei2004c.pdf)。
このようなものを、私は本業の世界で見たことがない。
このマニュアルの中で、競技の普及、タレントの発掘、若年層の強化、国際競技力の向上、選抜といったどの競技団体でもとり組んでいる基本中の基本に関して、

  • 導入→発掘のステップは現在の日本では更に多くの数のタレントを競技に取り込むための補完事業といった側面もあります。事業群は強化の果実をジュニアチーム及びナショナルチームに集結させて、国際競技力として完結させていくことを理念として構成されています。またジュニア年齢を過ぎた年齢で競技を開始した競技者については育成段階からのサポートとなりますが、ナショナルチームに向けては競技会の成績での選考となりますので選考の際に年齢による不利益は生じません。(p.27)

と明確に示されている。五輪でメダルを獲る競技として、当然の取り組みだろう。このマニュアルでは、当時の世界ランキング1位〜8位までの各種目の平均年齢、1位〜20位までの平均年齢というものを表にして、競技力のピークを推計している。

  • これらの資料のもとに競技者育成プログラムでは競技者の技術的ピークの達成に関する目標年齢をライフル種目では25歳または競技生活開始後10年目においています。ピストル種目では国情を勘案しエア・ピストル種目のみ25歳とします。これらは厳格な目標値ではあり得ませんが、プログラムの事業体系の指針となっています。具体的には2008年のオリンピックを目指す場合、プログラムが生年で1985年〜1990年の世代層を対象に立案されることを意味します。(世代層とオリンピックサイクル早見表参照)勿論これはその世代に属さない競技者が排除されることを意味するものではありません。

この引用の最後の部分に注目されたし。(早見表は資料の31ページにあります。)
これが協会の姿勢というものだろう。選手にとってもコーチにとっても、さらには所属団体にとっても、五輪でメダルをめざすということが生半可なことではないことは重々承知している。引用したライフル射撃の世界でも、マニュアルにはこうも記されている。

  • 競技者の育成に当たる方々、特に競技者のパーソナルコーチの方々にとって、世代層とオリンピックサイクル早見表は大きな意味があるものです。現在競技を導入している子供たちが将来出場する可能性のあるオリンピック大会は何年であり、上達までに残された時間はどれくらいで、ナショナルチームに入る時間的期限は何年であるかを的確に把握し最終目標を見据えたトレーニング計画の概略の立案は育成の基本となります。パーソナルコーチは競技者と共に90点の突破を共に喜ぶ姿勢が必要ですが、一方では100点への道筋が頭の中に描かれていなければなりません。そしてそれには時間的な制約を付与する必要があります。それが伴わない指導はコーチングにはなりえても競技者の育成という観点からは効果的ではないと言わざるを得ません。競技者の中でオリンピックのレベルまで到達できるのは、おそらく1%に満たない数であることは事実です。またこの1%の競技者の中で最初からオリンピックを目指していた人はほんのわずかに過ぎないことも事実です。競技者本人にことさら圧力をかけるのは多くの場合問題を含みますが、育成に当たる方々はこの事実を認識したとき計画目標とその達成努力の繰り返しのなかに10年後の目標をしっかり組み込むことにより、より多くのオリンピックレベルの競技者の育成の確率が高まるであろうことが理解できるでしょう。

翻って、本業ではどうか?
このマニュアルは2003年11月、アテネ五輪を目前に発行されている。今、2007年。北京五輪を目前に控えている。

本日のBGM: Running On Empty (Jackson Browne)

追記: 五輪憲章の規則47 (2001年日本語翻訳版)では、こうある。IFとは国際競技連盟のこと。ボート競技で言えばFISAにあたる。
「47 年令制限:健康上の理由でIF の競技ルールに定められている制限以外には、オリンピック競技大会に参加する競技者に年令制限はない。」
(英文では、2004年版で、規則43にある。
Age limit: There may be no age limit for competitors in the Olympic Games other than as prescribed in the competition rules of an IF as approved by the IOC Executive Board.)

USOCのサイトでは、以下のQ&Aが見られた。(http://www.usolympicteam.com/19116_18922.htm
Q: Is there an age limit for Olympic athletes?
A: The only age limit for Olympic competitors are prescribed for health and safety reasons in the competition rules of certain IFs, including bobsled (minimum of 14 years old), boxing (17-32), diving (minimum of 14), equestrian (16 or older), figure skating (15 by July of previous year), gymnastics (must be 16 years old in Olympic year), judo (15 or older), luge (16 or older), soccer (under 23), team handball (over 18), weightlifting (17 or older) and wrestling (must be at least 17 on day of Opening Ceremonies). There are no general restrictions among the International Federations on an "upper" age limit.
最後の部分、「各国際競技団体に跨る一般的な年齢の『上限』に関わる制限は存在しない」という部分が重要なことかと。

11月22日(木)9:30ー11:30
スポーツ法シンポジウム
が開催されます。(詳しくは→http://www.sports-law-sympo.com/program_j.html

セッション2: スポーツにおける紛争とその解決手法
パネリスト:
小寺 彰 (東京大学教授、CAS委員)
道垣内 正人 (早稲田大学法科大学院教授、JSAA機構長)
田中道博 (日本サッカー協会事務局長)
Mr. Philip Jeyaretnam SC (弁護士、シンガポール弁護士会会長)
Mr. Han, Sang-Wook (弁護士、韓国)

会場:日本弁護士連合会 弁護士会館2階 講堂「クレオ」
〒100-0013 東京都千代田区霞が関1-1-3
電話: 03-3580-9741
FAX: 03-3580-9840
URL: http://www.nichibenren.or.jp
こういう機会に、相談できる人を外部に求めるのも一手かと。