マントラとサントラ

『外国語をどう学んだか』(講談社現代新書、1992年)から、野々山真輝帆氏の「暗記と読書と恋人の日々」の一節を紹介。

  • 東京外国語大学は国際人をめざす若者の夢を満たすものではなかった。兵舎のような殺風景な教室。散歩できる場所は染井の墓地だけ。それでも記憶に残る授業が一つだけあった。笠井鎮夫先生は、アルファベットも知らない私たち新入生に、いきなり中世の名作『良き恋の書』を暗記させたのである。私たちは意味もよくわからないままに、この古典の一節を暗記した。授業の前には、必ず天井を仰いで口をパクパク開けながら廊下を往来する学生の姿があった。/最初からこのような難物をドンとぶつける方法はやや無謀な話であるが、挑戦(チャレンジ)があってよい。初心者には「驚き」はポジティブに作用する。/このように、暗記がきわめて必要である。動詞の活用でも、短文でも長文の一節でも良い。電車の中であろうが、風呂の中であろうが、ひたすら暗記することだ。単調でつまらない作業だが、この地道な努力なくして外国語は上達しない。足元を見つめて一歩一歩山道を登るうちに、いつかすばらしい展望が開けてくる。(p.171)

ああ、またか、などと嘆息する無かれ。この少しあとが面白い。

  • アメリカの語学教育の一つの欠点は翻訳の軽視である。日本の大学における外国語の授業のように、逐語訳というのは一切やらなかった。もちろん英語からスペイン語への距離は、日本語からスペイン語へのそれよりはるかに近い。そのせいもあろうか、週に数冊の本が宿題として課せられ、授業ではそれぞれの本の要点を説明して終わりになる。アメリカ人の学生は不満をいわなかった。しかし、菓子屋の店頭をのぞいただけで素通りしたような物足りなさが、私には残った。(p.174)

今風の英語教育の足元を見直すためのヒントが、この本にはあるようだ。過去ログにある「『かしこそうな言葉づかい』考」(http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20061125)での宮原浩二郎著『論力の時代 言葉の魅力の社会学』(勁草書房, 2005年)の紹介も是非とも参照されたし。
さて、
金曜日は、進学クラスのみの授業。前任校とのギャップは少ないとはいえ、思わぬスキルが欠落しているので、周到な準備と臨機応変な対応が要求される。この半年で、結構伸びましたよ。自分が、ですけど。
高1は、サマリーの英文解説と音読シリーズ。

  • whileとwhetherで副詞節と名詞節の違いが実感できるか
  • so … that での後戻りしない頭の働かせ方
  • althoughのまとまりと対比・対照
  • 何の変哲もないandでのたたみかけ

といった、中学段階、高校入試素材文では遭遇しにくいタイプの文構造を自分のモノにするための足がかりです。他には、some meaningful wordsでのsomeの理解確認。いつもの「money/ coffeeネタ」で、確実にイメージと実感を持たせておいて、「では、Mr. Dawsonにとってのmeaningful wordsと考えられるのはどんな言葉?」という問いかけ。次のパートへの大きな伏線となっている。生徒自身、自分の心も揺すぶられる一瞬となるか、この授業の正念場。良い感性が育ってきたのを感じる。どこまで伸ばせるか。
高3はセンター対策。可もなく不可もなく。いかに入試対策とはいえ同じ時間を費やすなら、もっと英語の力を伸ばせるやり方があると思うのだが、今、最も悩み多きコマ。今日は、センターの素材文だからと言ってit, this などの指示語を、先行する名詞単独で代入して分かったつもりにならないよう注意。ここがわかれば、「下線部を25字以内の日本語で説明せよ」でも、「本文を70字〜80字の日本語で要約せよ」でも、問われているポイントは同じだということに気づくのだが。
高2では、1年生の授業で果てしない時間の旅に出てしまった、/f/, /v/, -th-の検証をしてみることに。シラバスとか、進度とか、堅いことは言わぬが華。このクラス全員の英語、自分が最後まで面倒見るんだから。
種明かしをしてしまうとおもしろみが半減するので、最初は、何も見せず通して本文を聴かせてメモ取り。

  • 聴き取りの力は、耳半分、頭半分。

と説く。2回聴いて、時計回りに移動。もう一度聴いて目の前の用紙に記されているメモを充実させる。さらに、1つ移動。同じ作業。これによって、全くメモを作れなかった生徒も、大まかな内容を英語と結びつけることができる。2分間情報交換。自分の用紙のメモを修正。高2は数名、すでにマッピングができるようになっている。最後にもう一度通して聴き、メモを完成させたら、表面へ。表は、4分割。まずは、通して音読。1年生と同様、4つの子音をマーカーで色分け。やはり、数名、漏れまくり。今度は反時計回りに一つ席を移動。その席のハンドアウトを持って、4つの子音のマーカーに注意して音読。漏れに気が付いたら、自分の席に戻って確認。意識が子音に注がれたところで、再度精聴。今度は、耳もチューニングされているので、はっきりと聞こえてくることに気が付く。耳半分、の耳も、頭がコントロールしていると言えることを指摘。リスニング教材は、ただ、かけ流しではダメだと言うことを強調。最後は、4子音に注意して、ひたすら音読。高校入試の素材であることを種明かし。このクラスの後ろの棚には、私が持ってきた『絶対音読』の中3教科書版が置いてある。どのくらい意識の変化が行動に結びつくだろうか?
副担で帰りのHRと掃除の指導。今日は床の雑巾がけの日。さまざまな理屈をつけて雑巾担当を回避しようとする知恵には感心する。
放課後は、本業の基礎練。エルゴ60分。3日前に入部した新人は45分、しかも30分+15分におまけしておいた。悲鳴を上げていた。
夕飯の買い出しをしてから帰宅。
途中で、書店により雑誌等を仕入れる。
夕飯の豆乳鍋を堪能してから、読みに没入。
『こころの科学 135』(2007年9月号、日本評論社) は、加藤忠史「脳科学が教育に貢献できること」(pp. 8-13) が読みたかったので、遅ればせながら購入。

  • 最近では、音読・計算で脳を活性化する、というような言説がある。これは、音読・計算中に、脳が「活性化」する、とのデータに基づいている。この「活性化」という言葉は、単に血流増加のことを示している。ストレスや痛みでも脳は「活性化」するわけであり、「活性化」すると教育によいといった価値判断とはまったく関係がない。にもかかわらず、「活性化」という、血流増加を示す専門用語が、「沈滞していた機能が活発に働くようになること」(広辞苑)という一般用語に、いつの間にかすりかわってしまっているのである。(「誤解から相互理解へ」、p.11)

といった、巷に流布する言説をバッサリ斬ってくれているだけでなく、「臨界期の問題」(p.12) では、小学校の英語教育導入に関わる重要な指摘もある。英語教育関係者にも一読を勧めたい。

創刊号の 『+Designing』(毎日コミュニケーションズ)は特集「もっと文字を知る、文字を使う。」

  • 定価の1890円はいくらなんでもちと高過ぎないか?こういう媒体こそもっと広告を使うべし。「漢字の歴史、かなの歴史、ラテン文字の歴史」(pp.54-61)はなかなかビジュアル的にもよくまとまっているなぁ、と思ったら、ラテン文字は三省堂の『言語学大辞典 別巻 世界文字辞典』からの転載だった。「欧文書体のルールとしきたり」(pp.168-173)という、妙なタイトルのページで、写真に釘付け。書体に愛着のある人は思いきって是非手にとって見て下さい。そうそう、書体と言えば、映画『Helvetica』(公式サイト→ http://www.helveticafilm.com/)の日本上映予定はあるのだろうか?DVDを予約した方がいいのか?どなたか情報をお持ちの方、メール待ってます。

『包帯クラブ』ようやくサントラCDを入手。ハンバートのCDはコーナーはおろか、オリジナルアルバムも全くないのに、「邦画サントラ」のコーナーにはこのCDがしっかりありました。ハミングというか、マイナス1というか、「ルルル♪」の多い不思議なアルバムです。歌詞がない分、佐藤良成のソングライティングの腕が格段に上がったことを感じさせる1枚。M-4は一瞬、伊藤銀次の曲かと思った。ギターの音色の端々に、Neil Young好きが覗くのもご愛敬。
まだ、こちら地元の映画館では公開予定がないようですが気長に待ちます。ハンバートの二人の大いなる飛躍を期待します。
村上春樹は今回もノーベル賞を逃した。
日本人で誰か先に獲ったりしたら、どうなるんだろう?内田先生の新刊にはそういうことは書いてないのかな?

本日のBGM: Do you wanna see it? (ハンバート ハンバート/『包帯クラブ』オリジナル・サウンドトラック)