Tapestry

高3はセンター対策。先週の模試に関連して、鬼塚氏の参考書を紹介。パラフレーズとサマリーの重要性を説く。高2は発音熟達度チェックのビデオ撮り。空いた時間で『英単語ピーナツ』(南雲堂)を用いてコロケーションと日→英での語彙学習の利点を強調。普通科1年は、2段階対面リピート。やれやれ。
『英語青年』10月号(研究社)が “ようやく” 届く。
特集は「大学の英作文」。
冒頭論文は田邊祐司氏。先日のファミレス講義と同じ流れ。タテ糸=パラグラフライティング、エッセイライティング、ヨコ糸=語彙、構文、文法事項、という枠組み。
今風の高校段階での英作文指導は、「ヨコ糸紡ぎすら満足にこなせない学生」を生み出しているという批判である。

  • タテ糸のoutput能力の育成を急ぐあまり、われわれはその基本となるヨコ糸紡ぎの基本を等閑に付しているのでは、との危惧は私だけのものではなかったようである。(p.4)

「今風」のパラグラフライティングが上滑りな指導に陥っているという点では異論はない。
確かに高校段階でoutputを急ぐ実践は多い。ただし、そのoutputを課している授業は何の科目かと言えば、多くは英語I, 英語IIそしてリーディングといった「テクストの読み」がデフォルトで組み込まれた科目の指導なのである。なにゆえ、output流行なのかといえば、「読み」を要求される授業で「和訳」が遺棄されるべき、というムードが支配的だからである。何を動機付けとして読みを成立させるのか?和訳の排除はoutputというニンジンをぶら下げることでかろうじて成立しているかのようである。
反面、ライティングの授業では、田邊氏のいう「ヨコ糸」の指導が中心である。これは意外かも知れない。「だったらなぜ、そのヨコ糸だけでもきちんと紡げないのか?」
私見ではあるが、和文英訳を地道に行える高校はそれほど多くない(田邊氏のあげた参考書のうち『英文構成法』を使いこなせる高校生も多くないだろう)こと、大学入試の出題からのデータベースを元に作られた多肢選択式の文法語法問題集を用いて解答のパターンを暗記するという傾向が強く、田邊氏の実践のように口頭練習が組み込まれていることは稀であること、などが要因であろう。その結果、「文法・構文」を扱っているのに、うんうん唸りながら、自分にとってしっくりくる日本語に落とし込む訳読もせず、スラスラと口をついて出てくるまでの口頭練習もしないので、いつまでたってもintakeされない。intakeがなされないのに、outputを課すので無理が来る。伝統的な高校英語指導に於いて、文法訳読をしていたつもりで、文法も身についておらず、読みの力も養われなかったという欠陥があったとすれば、現在は、パラグラフライティングを指導しているつもりでいて、その実パラグラフを構成する個々の文が英語になっていないために、本当の意味でパラグラフが作れずに終わっている、という欠陥があるのだ。
高校の英語教師としての私の取る(取ってきた)解決策は以下の通り。(過去ログ→http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20061123 も参照願います)

  1. 読みがデフォルトで組み込まれた授業で「精読」を教室に取り戻す。
  2. テクストタイプの違いを含めて、書き手の視点で「表現形式」「語彙の選択」を吟味する。
  3. パラグラフの型を網羅するのではなく、narrative, descriptive, persuasiveといったテクストタイプに応じた定型表現と発想のストラテジーを学ぶ。
  4. 「ヨコ糸」を紡いでから「タテ糸」にとりかかるのではなく、実際に書く作業を通して、「ヨコ糸そのもの」と「タテ糸の必然性」を学び直す。実際に書く活動には視写やdictoglossを含む。
  5. 書くテーマは自由には選ばせず、全員が同じテーマで書く。
  6. 書く形式、内容をコントロールし、「タテ糸」を紡ぐ負荷を下げ、「ヨコ糸」の充実で質的向上を図る。
  7. プロセスライティングにおけるフィードバックを与える段階で、キーワード、コロケーションや定型表現集を作成し、しつこく音読練習、視写練習を行う。
  8. 書き直しの作業を通じて、「ヨコ糸」を紡ぐ作業の自動化を目指す。
  9. 代表的な誤り、不備を含む作品の添削、優秀な作品の指摘を含むフィードバックを必ずドラフトの段階と完成原稿の段階の二回、全体に対して行う。

GWTの監修者として、「ヨコ糸」を強調していることに疑問を持つ方がいるかもしれないが、私の担当するライティングでの定期考査の出題では、前期の間、必ずバラエティに富んだ和文英訳が大量に課されるのであり、そこに至るまでの高2、高1の総合英語では、徹底した精読と音読、語彙の段階からのパラフレーズ、文以上のレベルでの言い換え・書き換えであるサマリーが段階的に指導されている。
過去ログを見てもらえばわかるが、私のライティングの授業でのドラフトに対する誤りの訂正・フィードバックは極めて詳細で、時に辛辣である。このような指導はしんどい。けれども、日本の高校でのライティング指導が突き抜けるためには続けていかなければならないのだと思っている。
とまれ今号は編集後記も必読である。

  • かつての「グラコン」の伝統にはまだまだ見直すべきところが多々あるように思います。(p.68)

この言葉がどのような文脈で語られているか、高校英語に携わる全ての教員に読んでもらいたい。
一緒に届いたバックイシューの8月号は「カート・ヴォネガット」特集。うむむ。
連載で久々の「英文学界オーラル・ヒストリー」は、井上謙治氏。おおっ。木島始氏や小島信夫氏の名前が出てくると親近感が増す。人の心理は単純なものだ。

本日の晩酌:喜六(無濾過・無調整・黒麹・無農薬有機農法芋使用・冬季限定新酒)
本日のBGM: Carry your load (Carole King)