浅はかなコミュニケーション観に基づく出題に惑わされないために

2005年の首都大学東京の英語の出題中に対話文の中で英作文を見ようというものがある。
http://hiw.oo.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/05/to1-12p/5.html
120分で大問3題。そのうちの1題という位置づけなので配点も1/3程度を占めているのだろう。
単なる和文英訳を廃し、対話文という枠組みの中で、日本的事物を説明させるということが「実践的コミュニケーション能力」の指標と考えているのだとしたら、あまりにも浅はかである。

なまじコミュニカティブという枠組みで自らを縛ったために、
B. (受験生による一方的な落語の説明)→ 留学生の反応(I see.)
という安易な展開で対話にけりがついてしまうのである。
他の設問にも同じことが言える。
C. (受験生による、駅弁の説明=foodの一種であることの補足を含む)→留学生の好意的な反応 (Sounds delicious!)
D.(受験生による紙芝居の説明)→ 留学生の反応(I understand.)
説明に対する更なる質問とか、説明を受けて、自分なりにまとめ直してfeedbackを返すとか、理解していなくて間違った反応を示すとか、といった通常のコミュニケーションで見られるturn takingは全く見られない。
こんな「対話まがい・対話もどき」の出題をするくらいなら、以下のような出題をした方がよほど受験生に親切というものだろう。
B. 「落語」という娯楽を外国からの留学生にもわかるように英語で説明せよ。
C. 「駅弁」が旅行中にいかに食欲をそそるものであるかを外国からの旅行者に英語で説明せよ。
D. 「紙芝居」が漫画や絵本とどのように違うのかを英語で説明せよ。
対話文と言う枠組みとは全く無関係に、受験生に求める英文をコントロールすること、すなわち英語力を規定することは可能である。Angela Goddard (2003), Writing For Assessment, Routledgeには、どのようにtest questionを書くか、どのようにtriggerを設定するか、出題者が配慮すべきより適切な語彙選択は、というようなことについて有益な情報を与えてくれている。元々は英国、つまりL1のAレベル対策をする高校生の参考書なのだが、日本ではライティングの指導者にこそ有益であろうから、一読を勧めるものである。

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