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いわゆる「自由英作文」の出題についての考えを何回か述べてきたわけだが、異なる大学の出題を一律に比較できないのには幾つかの要因がある。

  • 全体の出題に占める配分(時間と配点)
  • 実受験者数と採点に要する人数(時間と費用)

に関しては不問とした上で、純粋にライティング力の観点だけで比較することが現実的であるかどうかははなはだ疑問である。TOEFL(R)などの外部試験は英語のみで試験を行い、技能別大問ごとに時間管理され、配点も明確である。また、CBT化されたTOEFL(R)でさえ手書きを選択した場合にライティングの採点結果公表までには多くの時間を擁している点など、大学入試という選抜試験と単純に比較することは難しいだろう。
ライティング指導においては、一クラスの人数がいくら減ったところで、一人の人間が担当している全体の人数が減らなければ妥当な評価はできないのであり、他の技能以上に managementの問題が大きな比重を占めるのである。
この観点で前回取り上げた10大学の出題のうち、以下5つを見て欲しい。

青山学院大・国際政経(60語以内)

  • 大問6、90分
  • 定員191名、受験者2327人、実質倍率12.2倍

大阪大(70語程度)

  • 大問4・90分(文学部は105分)
  • 定員2020人、受験者5609人、実質倍率2.78倍

広島大(80語程度)

  • 大問5(リスニングあり)、120分
  • 定員1598人、受験者4038人、実質倍率2.53倍

一橋大(1つを選び100語以上)

  • 大問5(リスニングあり)、120分
  • 定員740人、受験者2407人、実質倍率3.25倍

関西学院大・総合政策(300語程度)

  • 大問4、90分
  • 定員415人、受験者1369人、実質倍率3.3倍

青山学院大と、一橋大の実受験者にそう大きな差はないが、これを採点するスタッフを考えれば、全学vs.学部ということになるわけであり、実質倍率も大きな意味をもってくる。では、そういったmanagementの問題を置いておいて、英語のライティング力の評価ということであればどうだろうか?
英語のライティング力を、expositoryな、またはargumentativeな文章を書かせることで評価しようという時には、アカデミックライティングの様式、パラグラフライティングの形式に則って課題が課させることが多いが、青山学院大の出題のように「60語でessayを書け」、というのは無茶な話で、TOEFL(R)の出題のように、30分程度で300語を書かせる関西学院大の出題が「今風」なのだろう。ただ、その解答に要する時間は相当なものであり、全体に占める配点もそれに見合ったものであることが必要不可欠である。
Introduction(主張)-body(例証・論証)-conclusion(主張の再強調)という構成を要求するのであれば、少なくとも100語程度の分量を確保しておくことが望ましいのではないだろうか。
高校生に対するライティング指導で得られる経験則に過ぎないが、いわゆる英語圏からの帰国子女は、200語程度を与えられると、表現が洗練されていなかったり、冗長ではあったとしても自分の主張や説明をなんとか書ききってしまうことがある。これに対して、60語という制限字数にすると、帰国子女であっても語彙選択を洗練し、文の密度(complexity)を上げることが要求されるので、結束性があり一貫性のある文を書くのにはかなり苦労する。ただし、60語程度の英文では、生徒が取り上げている事例は2,3パターンの類型に収束してしまい、論理的整合性や内容の深まりを求めるのは難しい。
一橋大は、04年度入試では「100語以上(at least 100 words)という指示であったが、翌05年度入試では、「150語以内(not more than 150 words)」という指示に変わった。これは1つの卓見であろうと思う。
現実的な設定として、課題が与えられてからのアイデアジェネレーションに5分程度必要とされるので、100語10分としても15分。200語の場合でも25分という時間がかかる計算となる。
テーマを示して一定の分量で書かせるのであれば、150語以内という制限を課し、所要時間の目安として20分を見ておくことを望むものである。
もし、「150語も書かせてしまうと、採点にかかる労力が…」というのであれば、序論の段落は指定し、本論と結論だけを100語程度で書かせるとか、本論と結論は指定し、序論のみを60語以内で書かせるとか、制限を掛ければよい。題を与え、文法的正確さに加え、論理性や英語の表現力を求めているにもかかわらず、字数制限と解答所用時間によって自己矛盾してしまうような出題ならやめた方がよいだろう。