中学校からもっとライティングを!

所属しているELEC同友会英語教育学会での今年の大会(11月13日 於:拓殖大学)では、標題の発表を行う予定。
大会紀要にも同じような序文を載せたが、繰り返し説く必要性があるのでここにも記しておく。

3つのキーワード
「書くこと」の指導を考えるときには、その前段階として次の3つの要素を満たす必要がある。(S. Bratcher, 1997, The learning-to-write process in elementary classrooms; 左のアンテナの「ライティング指導評価を見直すために」を参照下さい)
・(Establishing) Comfort   教室で「書き手」として受けいれられているという安心感(を与えること)
・(Building) Confidence   「読者」に「自分の意図が伝わった」という自信(をつけさせること)
・(Developing) Competence 「よりよい英文、分かりやすい」英文を書く力(を伸ばしていくこと)
この3つの要素は、教室で英語により「書くこと」を成立させるためには常に考慮されるべきものある。とりわけ日本の英語教育においては指導要領に於いてもcompetence=技能の定義がほとんどなされていないので、話題と場面と技能の混乱がしばし続いている。
さらに、EFL環境にある日本の中学校段階での「書くこと」の指導を考えた場合に、最も必要なことは、学習者としての生徒だけでなく指導に当たる教師の側のComfort, Confidence, and Competenceをどのように高めていくかと言うことになるだろう。
・ 書くことを指導するにあたっての安心感
・ 書くことの指導に対する自信・達成感
・ より高い書くことの指導力
に目を向けることが、ライティング活動を中学校段階で取り入れる重要な手がかりとなる。では、どうすれば、教師の側の3要素が満たされるのだろうか?
たとえば、次のような観点で活動を振り返ってみる。
・語を書く
・連語、コロケーションなどの語句を書く
・1文を書く
・2文以上のつながりで書く
・段落を書く
といった指導の発達段階のそれぞれに於いて、comfort, confidence, competenceのそれぞれをどのように伸ばしていくか。一般には、語よりも連語、文よりも段落の方が難易度が高い高度な活動であり、技能であると考えられている。ゆえに、いつまでも段落を書く指導にたどり着けない。座右の銘、オリジナル諺、英語俳句など、語や1文であっても難易度を高めることはできるし、コピーイングや一部のみオープンエンドな活動を取り入れることで段落を書く活動の難易度を下げることもできる。また、チェーンライティングなどのグループ課題を設定することで、一人が1文を書きながらも段落を書く活動を行うことも可能である。「難易度に対する教師の思いこみ」を揺すぶることが、結局は教師側のComfortとConfidenceを満たすことにもつながるのである。
また、その一方で
・物語、個人的体験などのnarrative な文を書く活動
・物事を順序立てて説明する、定義するなどのdescriptiveな文を書く活動
・意見を論理立てて述べる persuasiveな文を書く活動
のテクストの種類のそれぞれにおいてcomfort, confidence, competenceのそれぞれに配慮した指導をしているか、を自問することからも大切である。
 とりわけ中学校段階では、ライティングを独立した活動として位置づける時間的猶予がないため、「話すこと」「聞くこと」「読むこと」といった他技能に関連した「付随的ライティング(=incidental writing) 」を活用する中で、学校生活や行事に関連させ、最初から「書くこと」を主眼とした「意図的ライティング(=intentional writing)」をイベント的に選択するなど、3カ年でのバランスを取っていくことが現実的であろう。語彙指導を鑑みた場合に、incidental writingがきわめて重要な位置づけとなる。
 コミュニケーション活動、いわゆる自己表現活動や、いわゆる自由英作文などを授業に取り入れる際に、以上の観点を吟味し、各学年で行う言語活動の見取り図を作っておくことで、中学校3年間でどのような「書くこと」の技能を伸ばすのか、が概観できる。全てをバランスよく指導することは難しいが、このような吟味こそが、高等学校での科目「英語I」での書くこと、「ライティング」での書くことへとつながりを考える手だてとなる。闇雲に「中高連携」ととなえているだけでは技能は成熟していかない。