foolproof

tmrowing2013-04-01

先週の初めに、「ぎっくり腰」と思しき腰痛で、なかなかに身動きの取れない1週間を過ごしていました。先週までは春期課外講座がありましたから、本来は本業で使う「骨盤ベルト」をして教壇に立つ、というか、教卓の前の椅子に座っていました。
昨日、妻に整体の施術をしてもらって、右脚が上がるようになって、随分楽になりました。流石です。

で、今日は4月1日。四月愚者の日。今日ばかりは、嘘をついても許される日ということで、ネット上には朝から様々な「嘘」が飛び交っておりました。

  • おおっ!

と一瞬驚いたり、

  • ほほーっ。

と感心したり。
では、私も何か一つ飛びきりの嘘でも、と頑張ってみたのですが、罪のないものから罪作りなものまで、今まで嘘なんてついたことがないものですから、全然うまくいきませんでした。こういうのは苦手ですね。

さて、
過日のこのブログでも言及していました、「一橋大学・前期」の英作文・ライティング問題を取り上げて少し考えてみようと思います。
今年度の出題を見る前に、過去ログでの私の指摘を読んでおいて欲しいと思います。

「お言葉を返すようですが…」 http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20090315

一橋大学は、随分長いこと、3題から自由に1題を選んで解答する、という課題英作文が定着しています。3つから1つという選択の方法そのものは、現在まで踏襲されてはいますが、解答すべき内容を規定する「形式・分量」は、かなり様変わりしています。
紙媒体だった頃の『英語青年』 (研究社) の2006年4月号の特集、

  • 大学入試英語問題を批評する

での拙稿にも書かせてもらいました (「これでいいのか、ライティング問題 高校の立場から」) が、2004年の出題までは、「100語以上の英文」で解答を求める、という下限の設定だけでした。これが、2005年の出題では、「150語以内」という上限の設定に変わったのです。帰国子女や留学経験のある生徒を相手にしているとよく分かりますが、彼らにとっては、長い方が書きやすいのだと思います。むしろ、文の密度を高めて、60語とか100語などの短い文章に纏めることの方が難しいようです。
一橋大の出題では、2006年からは、「120語から150語」という上限下限の両方を制限するものに変わり、今日に至っています。

以前、ELEC協議会の研修会で講師をした時だったか、某B社の研修会が東京で開かれ、私がライティング入試対策関連で講師をした時だったか、参加者のある先生から、この一橋大の「お題」について質問を受けたことがあります。

  • お題の英文を疑問文や否定文に変えてはいけないのですか?

私にとっては、衝撃的な質問でした。会場や日時のことは正確には思い出せないのですが、この質問だけははっきりと覚えています。私の答えは、先程リンクを示した過去ログにあるとおりです。

さて、今年の出題です。

Write 120 to 150 words of English on one of the statements below. Indicate the number of the statement you have chosen. Also, indicate the number of words you have written at the end of the composition.

1 Governments must protect and promote so-called “endangered” languages that are disappearing quickly today. Explain why this is true.

2 Abraham Lincoln once said, “It has been my experience that people who have no vices have very few virtues.” Explain why this is true.

3 Recently, many governments around the world are legalizing marriage between two people of the same sex. Legalizing same sex marriage is a good idea in Japan. Explain why this is true.

もうお気づきですね。
そうです、全てのお題が、肯定で主張または断定する文であり、その最後には、

  • Explain why this is true.

と解答への縛り、方向付けがはっきりと示してあるのです。
先程、私の研修会での質問を取り上げましたが、今年の一橋大の出題そのものが、その質問への明確な回答となっているのではないでしょうか?

この出題を、昨年度、2012年・前期の出題と比較してみると、求められている「英作文・ライティング」の違いも見て取ることが出来ます。お題だけ示します。

1 Tokyo is not representative of Japanese culture. Do you agree or disagree?

2 Is technology making human being more intelligent or less intelligent? Why?

3 Explain how you think the world will be in the year 3000.

昨年のお題の、1と 2 では、「賛否」、「増減」といった選択の余地がある、「argumentative / persuasiveな文章 (=意見文・説得文)」を書くことが求められ、お題の3 では、「描写・説明」が求められている、というように、異なるテクストタイプが選択問題として与えられていました。
とかく、大学入試の「自由英作文」対策では、意見文・説得文の過去問添削作業に終始しがちだ、という実感があったからこそ、『パラグラフ・ライティング指導入門』では、かなり力を入れて、

  • 「ナラティブ;語り文」が小学生の絵日記レベルから脱するには時間がかかるからこそ、シラバスの初めに扱う。
  • 定義する、描写する、事実を書く、グラフを書く、といった「説明文」は、和文英訳の形式を利用してでもしっかりと練習しておく必要がある。

ということが分かるように指導例を配置していましたが、まだまだ、このような指導法や指導の観点は広まっていないのが現状です。「テクストタイプ」に着目し、さらには指導過程にも配慮・留意して、入試の「英作文・ライティング」の対策をしている教室の方が少数派でしょう。
今年の一橋大の出題、1カ年分だけで判断するのは早計でしょうが、「ナラティブ」や「説明文」を選択する受験生が少なかったのか、はたまた、そのお題を選んだ受験生の解答が、英文として成立しないようなものだったのでは?などなど、今年の変更の理由、背景を知りたいものだと思いました。

今日から新年度のスタートです。
新一年生は、新課程初年度生。
彼らは高校3年間で、「書くこと」に特化した科目を履修することがありません。これは、学習指導要領が戦後施行されてから初めてのことかもしれません。
「技能統合」というお題目は結構です。
英語で話そうが、英語で書こうが、「英語になっている」ことが肝心なのですから。
今年はまだ、「英語表現 I」のレベルだから、悩む人が少ないのかも知れません。でも、あとほんの2,3ヵ月。今年の6月、7月には、翌年度の「英語表現 II」の教科書選定が待っています。また、教科書会社主催のセミナーを開いて、高校の先生を集めるのでしょうか?その前に、選ぶに足る教科書はあるのでしょうか?
「英語表現 I」は2単位ものでした。「英語表現 II」は標準単位が4です。高2から開講したとして、2年次に4単位を「英語表現 II」に割こうという、肝の据わった高校は稀だと思います。やはり高3までの継続履修になるところが多いのではないでしょうか。その場合でも、高3での「受験演習」や「先取り」に気をとられて、教科書を流して、「パラグラフ・ライティング」の基礎基本が覚束ないまま卒業、ということにならないことを願っています。

ちなみに、私の勤務校では、「英語表現 I」も「英語表現 II」も開講せず、従来の科目、「オーラルコミュニケーション」と「ライティング」の発展的解消を図るべく、学校設定科目で対応することにしています。現行課程の進学クラスの高3生には「ライティング」という科目がありますが、今年はその副教材に、

  • 日向清人 『即戦力がつく英文ライティング』 (DHC, 2013年)

即戦力がつく英文ライティング

即戦力がつく英文ライティング

を選びました。教科担当は、当然、私です。

  • 英語を学ぶ者の誰もが、英文としての繋がりと纏まりを実感し、それを体現できる。

授業では、そういう「英語表現」を身につけることを目指しています。

本日のBGM: 指切り (Bellwood 40th Anniversary Collection) / 大瀧詠一